「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の評価と「不動産マーケットの特徴」
前回(2016年3月号 不動産の評価と「地域」)で土地価格を検討する場合に重要なポイントの一つである「地域」について以下のことをお伝えしました。
①地域には地域ごとの特徴がある。
②地域の特徴は、地域内の一般的、標準的な土地の利用方法に現れる。
③地域ごとに一定の価格水準が形成されている。
地域の範囲がどこまでなのかを探るための考え方やツールもご紹介しました。しかし、①、②の、土地の使われ方という側面からの「地域の特徴」は、これらツールを使って把握することができますが、③の価格水準は、住宅地図や航空写真などでは把握できません。
そこで、③の、地域ごとに形成されている価格水準を把握するためには、①、②で把握した「その土地がある地域」と「土地の利用形態が似ている別の地域」にある土地の公示価格や売買実例を参考にすることができるということも併せてお伝えしました。
ただし、似たような使われ方をしていれば、単純に比較すればいいというものでもないのです。
一般の商品と同じく不動産も、売り手(供給)と買い手(需要)の提示する価格が一致した際に取引が成立します。不動産が取引される市場を「不動産マーケット」と呼びますが、この、不動産マーケットでの、売り手(供給)と買い手(需要)の力関係や、その動向などに一定の傾向がある場合、それは「不動産マーケットの特徴」として表れます。
不動産マーケットの特徴を把握することにより、地域の価格水準の成り立ちを把握することができ、その結果、個々の不動産の価格を把握することができるのです。
そこで、今月は、「不動産マーケットの特徴」についてお伝えします。
不動産マーケットの特徴をマクロ経済の視点から捉える。
マクロ経済の視点として捉えておくべき要因は「景気」の動向です。
需要と供給との関係において、価格が上昇するというのは、一般的には、需要が多く、供給が少ない場合です。景気が良くなれば、不動産も一般の商品と同様に需要が供給を上回り、価格が上昇します。
「景気」は好況・後退・不況・回復を繰り返しています。このような「景気循環」の中で、不動産に対する需要と供給のバランスが変化していきます。需要と供給のバランスが変化することにより、前述のように、不動産の価格は上昇したり下降したりすることになります。
そして、「景気」の動向に影響を与えているのは、経済要因である住宅投資や企業の設備投資に代表される「内需」の動きや金融動向、さらには税制・土地政策の動向などです。
「不動産マーケットの特徴」をマクロ経済の視点で捉えるために必要な「景気」の動向を把握するためには、常日頃から、景気動向指数(内閣府)、GDPの推移(内閣府)、日本銀行による金融緩和政策動向、全産業の雇用や賃金動向、各種物価指数動向など公的機関が発表するマクロ経済・金融情報や税制改正情報、新聞・雑誌紙面(Web情報含む)等の情報に注意を払うことが必要です。
最近のトピックとしてみてみると、3月下旬に地価公示が発表になりました。
住宅地の地価は、景気回復基調と低金利及び住宅ローン減税施策などが住宅需要を刺激し、全国的に地価の下落幅の縮小や、上昇の継続といった傾向がみられます。
また、商業地の地価も、金融緩和による資金調達環境の良好さが不動産投資マーケットを活発化させ、また、外国人観光客などの増加が店舗など商業施設への需要を刺激し住宅地と同様の傾向がみられます。
不動産マーケットの特徴を一定の地域の範囲で捉える
マクロ経済的視点で不動産マーケットがどのような状況にあるのかを把握するとともに、個々の不動産が存する地域の不動産マーケットの特徴を捉えます。
地域の不動産マーケットの特徴(不動産の需給動向)は、マクロ経済的要因よりも個々の不動産価格を大きく左右します。
地域の不動産マーケットの特徴を捉えるためには、その地域の不動産を買おうとする人(需要者)はどのような人なのか、その地域の不動産を売りに出す人(供給者)はどのような人なのかを把握する必要があります。
前回の「あいうえお町1丁目」を再び例に掲げて検討しましょう。
「売りたい土地」の地域は、「大通りの背後にあり、人通りは多くなく、中規模程度の住宅が建ち並ぶ閑静な住宅地域(地域A)」です。
まず、マクロ経済的な視点から言えば、景気が回復基調にあって、金利も低く、更に住宅ローン減税の施策も継続されるとなれば、全国的に見ても住宅を買おうとする需要者は増えることになります。
さらに地域にフォーカスしてみると、この地域Aは、従来から通勤や通学等の交通利便性が高い閑静な住環境ということですから、この地域内の土地を住宅用地として買おうとするサラリーマン世帯も増える傾向にあるといえるでしょう。
地域Aの不動産を利用している人(すなわち需要者)は、主に「サラリーマン世帯」の人々で、その地域内の土地に住宅を建てて住んでいます。そして、この地域の不動産は、サラリーマン世帯の所得水準で購入できる価格帯になっています。地域Aの土地の利用形態や地域の不動産価格水準の成り立ちに対して最も影響を与えているのは、サラリーマン世帯といえます。
地域の住宅への需要が多くなると、取引件数が増加します。供給よりも需要が多くなってきた場合には、個々の不動産価格が上昇します。
このように、一定の地域内の不動産に対する需要と供給の動向は、その地域内にある個々の不動産の価格を左右するのです。
例えば、「売りたい土地」がある地域Aの「不動産マーケットの特徴」を調べてみると、以下のような事を捉えることができるかもしれません。
・サラリーマン世帯が住んでいる住宅が多い(地域の土地の使われ方)。
・売りに出す人は、サラリーマンが殆どである(供給者の特徴)。
・サラリーマン世帯が住宅を建てようとして土地を買うことが多い(需要者の特徴)。
・その地域が気に入って住んでいる人々が多く、空き地は少なく、土地を売り出す人は少ない(供給の状態)。
・しかし、坪単価100万円なら売ってもいいと思っている人がいる(供給者の行動)。
・便利で環境が良いので、その地域の住宅が売り出されたら買って住みたいと思う人々が多い(需要の状態)。
・坪単価95万円くらいなら直ぐに買い手がついていたが、最近は坪単価100万円でも買いたいという人が増えてきている(需要者の行動)。
・地域Aでは、需要が供給を上回っているので、価格が上昇してきている(価格の動向)。
また、「公示地」がある地域Bの「不動産マーケットの特徴」としては、以下の様なことを捉えることができるかもしれません。
・10階建以上の貸事務所ビル、金融機関などが建ち並んでいる。1階は店舗になっている建物が多い(地域の土地の使われ方)。
・売りに出す人は、企業が多いが、個人地主もいる(供給者の特徴)。
・そこで自社ビルを建てようとする中小企業や、賃貸ビルを買って賃料収入を得ようとする投資家(個人も法人もありうる)が買主であることが多い(需要者の特徴)。
・一部は低層の店舗ビルや駐車場として利用されているが、稼働率が高く、収益性が高いので、不動産を売り出す人は少ない(供給の状態)。
・坪単価270~300万円なら、売ってもいいと思っている人がいる(供給者の行動)。
・あえてこの場所の物件が欲しいという法人は特にいないが、売りに出れば、買い手は付く(需要の状態)。
・坪単価300万円では買わないが、270~280万円だと、買ってもいいと思っている人がいる(需要者の行動)。
・地域Bでは、需要と供給のバランスが取れているので、価格は変化していない(価格の動向)。
このように、不動産マーケットの特徴を捉えることで、別の地域の不動産の価格や動向をも参考にして、対象とする不動産の価格を把握することができるようになります。
今月のまとめ
不動産マーケットの特徴を捉えることで、その不動産の価格がどのような傾向になっているかが解るということを説明しました。
〔マクロ的視点〕
不動産マーケットは「景気」の動向に影響を受けます。「景気循環」に、不動産マーケットは反応し、不動産の価格は変化します。
〔地域的視点〕
地域の不動産マーケットの需給動向が、個々の不動産の価格を左右します。
私たち不動産鑑定士は、日頃から政府や自治体などから発表される財政や政策、民間シンクタンクなどが発表している各種データにより、日本全体の不動産マーケットの動向を調査しています。また、地域の不動産仲介業者や建設業者、金融機関などに対して、下記のような内容について取材を行って、地域の不動産のマーケットに関する情報を収集しています。
・売買や賃貸の需要と供給の動向、価格や賃料の動向の情報
・建設受注の状態、建築費情報
・金利、融資条件等の情報
買いたい不動産や売りたい不動産が出てきたときに、じっくり時間をかけて調べるのが一番ですが、売り時、買い時を逃してしまうことがあります。ですので、「もしかしたら、買うかも?売るかも?」という気持ちが生まれたときから、少しずつ情報収集しておくといいでしょう。
今月はここまでです。ありがとうございました。