「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
家賃の評価【建物全体の賃料と建物内の一部区画の賃料】その2
専用部分と共用部分の面積割合だけを気にすればいいのか?
同じ用途(この場合事務所)で、立地がほぼ同じ、建築時期もほぼ同じであっても、その一方の専用部分の賃料単価をもう一方の不動産の専用部分に無条件に当てはめることができない場合があります。
先月のオフィスXとYの例でみてみましょう。
二つのオフィスの共用部分の違いの主なものを表にすると下記のとおりです。
ほかにも、メインエントランスの床材や壁、外壁の材質も、オフィスXが品等の高いものを使用しています。これらの違いは「グレードの違い」と表現されます。グレードに応じ、Aクラスビル、Bクラスビルなどと表現されます。
「共用部分の面積割合が多い場合はグレードが高い」と言い切れるものではないのですが、概して「グレードの高いビルは共用部分の面積割合が多い」といえます。
専用部分と共用部分の割合はビルによって異なりますが、異なっているのはそれだけではありません。
グレードは、「こうであればこのグレード」と明確に固定的に定められているものではないのですが、上記のような、建物の規模、内外装の仕様、共用部分の配置、設備の種類や数、維持管理の状態等から区別されます。したがって、仮に専用部分と共用部分の面積割合が同じである事務所ビル内の専用部分であっても、上記で挙げた部分が異なっている場合には、賃料水準も異なってきます。
対象不動産の賃料の額を求めたい場合には、少なくとも、対象不動産と同程度のグレードのものの賃料から比較する必要があるのです。また、グレードの違いが大きくない場合には、その違いによって、どの程度需要の量が異なるかを考慮して対象不動産の専用部分の賃料単価を算出することになります。グレードが大きく異なる場合には、比較の対象とできないこともあり得ます。
オフィスXとYのグレードをみると、オフィスXの方がハイグレードと言えますので、専用部分の賃料単価も、オフィスXの方がオフィスYよりも高くなっています。
話を戻して、一棟の賃貸借を行うのがオフィスYの場合に、オフィスXの専用部分の賃料をそのまま当てはめると、設定賃料が割高になってしまいますし、その逆で一棟の賃貸借を行うのがオフィスXの場合には割安になってしまいます。いずれにしても、適正な賃料額とは言えないでしょう。
共用部分が少ないまたは殆ど無い仕様の場合
同じグレードのビルで共用部分の面積の割合が大きく異なる場合には、もう一つ気を付けるべきことがあります。それは、建築時に当初から自社ビルとして建築され、共用廊下がない、区画割が特殊、会議室や応接室、社員食堂、和室の休憩室等が設置されている場合です。このような自社ビル仕様の場合には、一般的な同グレードのオフィスビルの賃料水準から単純に比較することができません。この場合もケースバイケースで比較して算出していくことになります。
また、一般の賃貸用オフィスビルの場合には、建物や設備の維持管理は所有者である賃貸人が行うことが一般的で、専用部分の賃料には、貸主が維持管理を行うことを前提としたその費用相当分が含まれています。一棟の賃貸借の場合には、建物や設備の維持管理全般を借り主が行う場合もあります。そのような場合には、貸主は維持管理費用として負担しない部分が生じるため、賃料はその分、低くなるはずです。この場合も、契約内容に応じてケースバイケースで比較して算出していくことになります。
共益費の取扱い
共用部分を使用する対価及び警備や設備の維持管理費用、清掃などの費用として「賃料」とは別に授受され、「共益費」と別途記載されている場合があります。「賃料」に共益費が含まれている「共益費込賃料」の場合も「賃料」と記載され、共益費欄に「賃料に込」または、賃料欄等に「共益費込」と表示されています。
専用部分の賃貸借の事例で、賃料と共益費が別建てになっている場合でも、そのビルの共用部分にかかる費用の実額と共益費の額が必ずしも一致しているとは限りません。共益費が別建てになっている場合には、共用部分にかかる費用を上回る額が上乗せされていたり、逆に必要な実額よりも少なかったりすることがありますので、実態に応じて判断しなければなりません。
専用部分を使用する人が共用部分を使う割合は、専用面積の割合と必ずしも一致しない※ですが、共用部分は専用面積の割合に応じて使うものとして計算されているのが一般的です。
※「廊下をとおる」「エレベーターを使用する」等、共用部分を使用するのは、主に「人」です。広い区画を借りて1人で使用する場合と、狭い区画を3人で借りる場合には、共用部分を現実に使う割合は後者が多くなるのですが、多くの事務所ビルでは特約が無い限り、専用部分の広さの割合で共用部分を利用するものとして計算されています。
対象不動産についても「賃料」と「共益費」と分けて把握したい場合には、実際に必要となる費用を算出して分けることになります。
したがって、比較しようとする賃料の事例が、共益費が別建てになっているか否かをひとつひとつ確認する必要があります。
今月はここまでです。ありがとうございました。