「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の個別性(個別的要因)と価格について
2016年3月号までは、不動産の価格を知るためには、次の3つの内容について調査・分析を行うことが重要ですとお伝えしてきました。
1.不動産がどのような地域に属しているか
2.その地域の標準的な使用方法はどのようなものか
3.その地域の価格水準はどれ位か
しかし、個々の不動産に同じものは二つとありません。例えば、ニュ-タウンなど一見同じ様な不動産が集まっている地域もありますが、それでも土地の面積が異なっていたり、一方向でのみ道路に面している土地もあれば、二方向で道路に面している土地もあるなど多種多様です。
一般に、モノにはカテゴリ-ごとにそれぞれ個別性があり、デザイン、材質、機能性、希少性、持続性、ステイタス性などによって価格が異なります。不動産においても同様にそれぞれ個別性(鑑定評価の実務では個別的要因といいます)があり、その個別的要因が異なると価格が異なることになります。
不動産の個別的要因は「土地」、「建物」、「建物及びその敷地」ごとに存在します。さらに「土地」は「宅地」、「農地」、「林地」があり、価格に影響する要因自体が異なります。
価格に影響を与える個別的要因について、皆様にも身近な「宅地」の中でもさらに身近な「住宅地」で例を挙げてみます。
①その土地が接している道路との位置関係
②接している道路の幅
③土地の形状
④日照・通風の善し悪し
⑤地勢・地質・地盤の状態
⑥上下水道・ガス・電気の供給状況
⑦土壌汚染の有無
⑧埋蔵文化財・地下埋設物の有無
今回は、住宅地に関する個別的要因のうち特に価格への影響が大きい①「その土地が接している道路との位置関係」と③「土地の形状」を取り上げます。
その土地が接している道路との位置関係
(1)角地・二方路地等
図1のように、一方でのみ道路に面している土地(これを、鑑定評価を行う場合に中間画地と呼んでいます)に対し、角地とは二つの道路で角ができている土地のことをいいます。また、二つの道路に挟まれている土地を二方路地といいます。
皆さんは上記の角地や二方路と中間画地を比べてみてどのように感じられますか?なんとなく角地や二方路地の方が中間画地よりもよさそうと思われる方が多いでしょう。
まさにそのとおりで、道路の幅にもよりますが、一般に角地や二方路は中間画地よりも陽当りや風通しが良くなっていることが多く、二方向からの進入が可能になり、一定の条件の下で建ぺい率が緩和される場合もあるなど、中間画地よりも好条件の土地といえます。そのため、角地や二方路地の価格は中間画地の価格に比べて高くなるのが一般的です。同じ角地でも、北側と西側で道路に面している土地よりも南側と東側で道路に面している土地の方が陽当たりの点で優れており価格が高くなっているのが一般的です。不動産会社の広告でも「南東角地で陽当たり良好」や「南東角地!」などのPRコメントが書かれていたりします。
では、三方が道路に接面している三方路地、四方が道路に接面している四方路地はさらに高くなるのかというと、住宅地の場合は必ずしもそうとも限りません。もちろん、開口部が裏側にも設けやすいなど、敷地上に建てようとする建物の設計の自由度は高くなり、日照の点でも一方でのみ道路に面している土地よりも良いといえますが、三方・四方の道路からの不特定多数の人の視線が気になる場合や、侵入への備えも広い範囲に対して必要になるため、外構や外塀に費用をかけなければならないこともあるからです。
(2)無道路地
無道路地とは、文字どおり道路に直接面していない土地のことをいいますが、ここでいう道路は、『建築基準法上の道路』です。建築基準法第43条で『建築物の敷地は、道路に2m以上接しなければならない』とされています。その道路は、同法の第42条で定められています。このコラムでも、以下『道路』とあるときは建築基準法上の道路を指します。建築基準法が適用される地域内では、道路に全く面していない土地には、原則として建物を建築することができません。建物を建てないまでも、駐車場や資材置場、家庭菜園として利用する場合でも、道路からその土地に至るまでの間の土地(上記図では隣接地)を通行させてもらわなければなりませんので、隣接地の所有者に許可を得て、場合によっては通行料を払うなどして、通行させてもらうことになります。
このように、その土地単独で建物を建築することができず、自由に行き来できないような土地を積極的に購入したいと考える人はほとんどいないといえます。したがって道路に面していない土地の価格は、道路に面している土地と比較して低くなっています。
土地の形状
土地の形状は多種多様で、長方形や正方形の土地もあれば、台形、三角形、多角形、凸凹形、旗竿のように細長い土地など様々なものがあります。
例えば図3のA地、B地、C地のように、同一面積の土地上に同規模の戸建住宅が建っている新築物件があるとした場合、A地の物件が最も自由に建物を設計・配置することができます。戸建住宅で、駐車スペ-スが必要となる駅から遠い地域では、車庫スペースの確保も大事です。車庫スペースと建物の配置もA地が最も容易です。
このように建物、車庫、庭などを合理的に配置できるA地が最も優れており、当然、人気が高くなります。人気が高いということは、需要が供給を上回り、価格も高くなります。
一方、B地やC地のような台形地や三角地の場合、駐車スペ-スを確保すると、建物や庭の配置や形状を犠牲にしなければならなくなることもあります。
このようにB地やC地では、A地に比べてマイナス要因が存在しますので、A地よりも価格は低くなります。
今月のまとめ
今回は住宅地における「その土地が接している道路との位置関係」と「土地の形状」という個別的要因に的を絞って説明しました。しかし、現実には先に挙げた複数の個別的要因などが相互に関係しており、その組合せは無限大です。
例えば、図4のように、中間画地も角地も南側の道路とは等高に接していますが、角地の東側の道路が土地よりも高い場合、角地は東側の道路から低くなってしまい、陽日当たりや通風の点で中間画地よりも悪くなってしまっているかもしれません。
そして、図5のように、北向きのひな壇になっている地域と、南向きのひな壇になっている地域では、北東の角地と南東の角地の価格の差は異なります。北向きのひな壇になっている地域の方が、北東の角地と南東の角地の価格の差は大きいのが一般的です。
図4や図5の例の様に、「角地」という要因のみではなく、⑤の「地勢」という要因が影響し、さらに、地勢の要因は④の「日照・通風」に差を生じさせるという影響を与えます。
先に列挙した①~⑧はあくまで例示で、実際には、権利関係や公法規制等も含め他にも沢山の要因が価格に影響を及ぼします。だいたいの価格ではなく、実際の価格を把握しておきたい場合には、不動産鑑定士に調査をご依頼いただくか、売却される場合には、信頼できる不動産会社にお問い合わせいただくと安心です。
今月はここまでです。
ありがとうございました。