「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の価値が最も高くなる使用方法~最有効使用~(その1)
不動産の価値
人がものに対してどのような「価値」を見いだすかは、人それぞれです。不動産についても同じで、例えば、先祖伝来の家屋敷や田畑、山などは、金銭に置き換えることができない価値があると考える人は多いのではないでしょうか。他の視点からでも、車通りや人通りが多い場所の土地は、商売を行っている人にとっては価値があるかもしれませんが、商売をしていない人はその場所にそもそも関心を持たないかもしれません。また、都心での職住近接を望む人は郊外の戸建住宅に関心を持たないでしょう。関心を持たないイコール価値を認めないということではありませんが、個々の人が不動産に対して持つ価値の大小は、その人の生活の中で不動産にどのように関わるのかによって定まります。したがって、特定の不動産に対する価値は人それぞれと言えるのです。
ものの価値は、貨幣の価値である「価格」で表されます。「価格」は、売り手と買い手が示す価値が一致するところで決まる金額を指します。売り手がいても買い手がいなければ、市場が成り立たないため価格は決まりません。買い手がいても売り手がいなければ、これも市場が成り立たず価格は決まりません。不動産も同じです。
鑑定評価は評価の主体の個人的価値観はさておき、その不動産に対する需要者と供給者が不動産市場でどう考えてどう行動するかを分析し、その不動産の価値を貨幣価値である価格で示すことです。したがって、その不動産に対する需要者や供給者のその不動産に対する考え方や行動は一般的であって予測可能であるということが前提となります。最初に挙げた例に戻ると、特定の不動産が「先祖伝来の土地である」という個人的な事象については、一般的ではないため、鑑定評価で価格に反映させることは難しいのです。
不動産に対してわれわれが認める効用
不動産、特に土地は、人が生活するうえでなくてはならないものです。土地をある人がなんらかの用途で使いたいと思ってその用途で使うことができる場合、その人はその不動産に効用を認めることになります。何にも使えない土地や建物に対しては効用を認められません。住宅を建てることができる「土地」や、住宅として使用することができる「建物」があり、そこに住むという効用を認める人がその不動産を購入しますし、農業を営む人は畑や田に対して効用を認めます。しかし、誰もが無制限に不動産を利用できるものではなく、法律や条令で利用方法に規制を受けます。例えば農地については、都市計画法上の市街化区域の場合には、原則として容易に宅地(建物の敷地)に転用することが可能ですが、市街化調整区域という市街化を抑制することを求められる区域内の場合には、原則として農地は農地のまま利用することとされ、建物を建てることができません。また、容積率(土地面積に対する建物延床面積の割合)が200%の指定を受けていても、容積率いっぱいを利用することができる建物(例えば8階建程度)が建つ地域もあれば、高さ制限が定められて容積率を全て利用することができない地域もあります。その土地が容積率を全て利用することができない地域にある場合でも、法律等の規制の範囲内で最大限効率的に利用すれば、その土地の効用は最も発揮されるということになります。
逆に、地方の鉄道駅前の地域で容積率400%の指定を受け、8階建の事務所ビルが建築可能であっても現実には、ほとんどの土地が3階建程度のビルや店舗併用住宅として使われていることがあります。これは、法律等によって制約を受けているのではないのですが、その地域の人口の状態や産業の状態等から、高い建築費を投じて中高層の事務所ビルを建ててもテナントが入らないと判断されてそのような使われ方になっていると言えます。このような地域では、3階建のビルの敷地としての利用がその地域内の土地の効用が最も発揮されるということになります。
不動産の効用を最も発揮させる使い方=最有効使用
需要者も供給者もその土地がある地域の法令上や経済の状態等を踏まえた上で最も効率的な使用方法は何かを検討します。最も効率的な利用方法とは、その不動産持つ効用が最も発揮されている状態です。需要と供給が一致して定まる価格は、一般的には最も効率的な使用方法を前提として成立しています。この、不動産にとって最も効率的な使用方法は、不動産の鑑定評価では〔最有効使用〕と言います。
土地の最有効使用
対象不動産が建物等や他人の権利が存在しない土地である場合には、その土地にとって法令や地域の経済情勢に応じた最も効率的な使用方法〔最有効使用〕を実現することが可能です。前記の例の地域内の各土地にとっての最有効使用は次のようになります。
例1:8階建の事務所ビルの敷地としての利用
例2:5階建の事務所ビルの敷地としての利用
例3:3階建の事務所ビルの敷地としての利用
地域内の土地はそれぞれ最有効使用の状態と言えます。
今月はここまでです。
ありがとうございました。