「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
区分所有建物及びその敷地の価格の評価【その1】
区分所有建物
区分所有建物とは、構造上区分され、独立して住居・店舗・事務所・倉庫等の用途に供することができる数個の部分から構成されているような建物のことです。詳細については、不動産用語集でも説明していますのでご参照ください。
ここに記載しているように、代表的な区分所有建物としては分譲マンションがあります。分譲マンションは、それぞれ別の者が所有する住居部分が複数あるほか、その複数の住戸を使用する人が共同で利用する廊下や階段、エントランスホール、エレベーターや管理人室等で構成されています。前者の分譲された住居部分は「専有部分」、後者の共同で利用する部分を「共用部分」と言い、専有部分と共用部分を含めた建物全体を「一棟の建物」と呼びます。専有部分として区分されていれば区分所有建物ですので、2フロアで階段のあるメゾネットタイプのマンションは、2フロアで一つの専有部分です。専有部分が住居ではなく、オフィスや店舗、倉庫となっていることもあり、高層店舗付マンションで、1~3階が全部店舗で1人の所有者が所有し、4階以上のマンション部分は個人がそれぞれ分譲マンションとして所有している場合などもあります。
区分所有建物の住居としては、分譲マンション以外にも連棟式住宅も該当することがあります。連棟式住宅は不動産の広告でテラスハウスと表示されています。テラスハウスは建物が隣の建物と繋がっていますが、隣の建物と繋がっていること以外は上や下に他の専有部分がなく、戸建住宅と同じ様に玄関は一つです。一般的なマンションの場合、通常マンション全体の建物のエントランス(玄関)と、専有部分の玄関がありますね。
マンションの価格
建物は宙に浮かせて建てるということはできませんので、必ず土地を使用して存在することになります。したがって、「分譲マンションの価格」は、例外的に「建物のみの価格」を知りたいということではない限り、「区分所有建物の価格」ではなく、正確には「区分所有建物及びその敷地の価格」です。したがって、分譲マンションの価格の評価を行うためには、専有部分の資料だけではなく、一棟の建物の敷地になっている土地全体に対する資料も必要です。
また、専有部分は一棟の建物に含まれる共用部分の機能を利用しているため、共用部分の持つ機能やその状態も専有部分の価格に影響します。したがって、共用部分に関する資料も必要です。分譲マンションを購入する際、専有部分の状態や、管理費、修繕積立金の額は気になると思いますが、新築分譲ではなく中古マンションを仲介によって購入するのであれば、なおさらそのマンション全体の修繕積立金の残高や、過去の大規模修繕の有無や将来の予定等の情報にも関心を持っておくことをおすすめします。
図1
このような、区分所有建物及びその敷地の価格は、次のような構成になっています。
専有部分の建物の価値+土地の価値+共用部分の価値
なお、土地及び共用部分については、専有部分の権利の価格割合に応じて割り振った額になります。
テラスハウス(連棟式住宅)の価格
テラスハウスも区分所有建物及びその敷地なのですが、必ずしも上記のような分譲マンションと同じ権利関係や利用関係になっているとは限りません。大きく次の三つのパターンがあります。
(パターン1)分譲マンションと同じように一つの敷地で、建物は低層でかつメゾネットタイプの専有部分が横にのみ連続している場合
一棟の建物の中ではなく、同じ敷地の上に別棟で管理人室、ゴミ置場、集会所、駐車場等が共用部分となっていることが多いです。分譲マンションや分譲オフィスの敷地になっている土地は、専有部分の建物所有者の共有になっていますので、土地のここからここまでが誰かのものということはありません。この場合はテラスハウスという表示ではなく、マンションやタウンハウス等と表示されていることのほうが多いかもしれません。
図2
この場合は、前記のマンションと同じ価格の構成になっています。
専有部分の建物の価値+土地の価値+共用部分の価値
(パターン2)隣と壁が繋がっているが、その敷地は建物の範囲に合わせて分かれており、建物所有者がその土地をそれぞれ所有している戸建仕様のテラスハウス(連棟式住宅)
図3
建物が上から下まで繋がっていることもあれば、1階や2階の一部だけの壁が繋がっているものもあります。この場合、登記では繋がっている建物全体が一棟の建物、対象のテラスハウス部分は専有部分となっています。対象建物の両隣の建物と同じような仕様のものもあれば、両隣とは少し異なる外壁や屋根の仕様になっているのもあります。また、門扉や外構が建物の内壁の区切りに合わせて設置されている場合もあります。この場合、登記では理論上、一棟の建物の床面積から各戸の専有部分の床面積の合計を引いたもので共有部分の床面積が算出できますが、現実には共用部分というのは無いのが殆どです。
この場合の区分所有建物及びその敷地の価格は、次のような構成になっています。
専有部分の建物の価値+土地の価値
(パターン3)(パターン2)と同じだが、直接建築基準法の接道条件を満たさないテラスハウス(連棟式住宅)
図4
この場合も、区分所有建物及びその敷地の価格の構成は(パターン2)と同じです。
専有部分の建物の価値+土地の価値
なお、(パターン2)も(パターン3)も、一棟全体でなにか規約があるかもしれませんので、この点の確認は必要です。
区分所有建物及びその敷地の価格の試算
区分所有建物の価格は他の不動産の価格と同じように、①原価、②取引相場、③収益性の3つの観点からアプローチすることができます。①は鑑定評価では原価法による積算価格、②は取引事例比較法による比準価格、③は収益還元法による収益価格です。①の観点は、一般の分譲マンション等の場合には、敷地の価格と一棟の建物の価格をそれぞれ別々に求めて合算し、建物の専有部分が一棟の建物の一部なので、土地の価格や共用部分の価格を、専有部分の権利の価格割合に応じて割り振ります。一方、(パターン2)や(パターン3)の場合には、単純に土地と建物の価格をそれぞれ求めることが市場にも合致して合理的といえます。
②の観点は、マンションやテラスハウスの実際に取引された事例の価格から比較して求めます。①の観点では更地としての土地の形状や高低差等を考慮しますが、実際のマンションの取引では、マンションの敷地の形が多少悪くても住戸の間取りがよければ問題になりにくい反面、専有部分だけでなく共用部分の状態や、管理の状態等のソフト面についても取引にあたって考慮されること、階の位置や、部屋の位置がさらに考慮されることを踏まえて比較します。(パターン2)や(パターン3)の場合は、①の原価法の段階で、土地の比準価格の試算、建物の再調達原価を求める際の比較と、土地建物別々にではありますが、取引事例から比較することになるので、①原価法で代替するのが通常です。
③の観点は、賃貸需要がある地域の場合には、適用する余地があります。
まとめると、
分譲マンションや(パターン1)の場合は、①と②は常時適用が可能で、場合によって③
(パターン2)や(パターン3)のテラスハウスの場合は、①と場合によって③
ですね。
最終的な価格の決定は、需給関係がより反映されているものが重視されるため、ファミリー向けの分譲マンションの場合には②が、ワンルームマンション等の投資用マンションの場合には②または③、テラスハウスの場合には、③が適用可能な場合には、③を重視することもあり得ますが、①を重視することが多いと思われます。
今月はここまでです。次回はそれぞれの評価についてもう少し詳しくお伝えする予定です。
ありがとうございました。