「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
家賃の評価~家賃とは~
今月からは家賃の評価についてお伝えします。今月のテーマは「家賃とは」です。
家賃の評価の対象不動産
「家賃」というと、「家の賃料」と読めますが、現実には建物が乗っている土地も利用することができるため、「家賃=建物及びその敷地」の賃料です。建物だけではなく土地の価値も賃料に影響を与えます。ただし、賃貸借の対象が建物一棟全体なのか、建物の一部なのかによって、土地の価値が賃料に与える影響の度合いが異なります。
「一棟貸し」と呼ばれる建物全体とその建物の敷地を利用できる賃貸借契約の場合には、その土地の価値が賃料に大きな影響を及ぼします。この場合の建物の賃借人は敷地全体を利用することを前提としていますので、建物の規模や構造、形状が同じであっても、土地の形状や高低差、間口奥行の割合などの違いが賃料に大きく影響を与えることがあります。
マンションの1室を考えてみましょう。同じ性能を持つ同じ広さ、同じ築年数のマンションの場合、部屋としてのマンションの機能が同じであれば、隣同士で敷地の形状や間口と奥行の割合が違っても、角地なのかそうでないのか等の要因は、賃料の額に影響を殆ど与えないと言えます。
しかし、土地が同じ形状で隣同士であっても、片方は南側に高い建物が建っている、片方は階段で上らないとエントランスに到達しない等の場合は、賃料に差が生じることがあります。
次に、建物についてみると、賃貸借の対象となる建物の種類(用途)は様々です。
大きく分けると、住宅用・商業用・工業用に分けることができ、さらに、それぞれ細分化することができます。
この分類は、賃料の評価に限ったことではないですが、建物の価値を判断する際には、これら建物の種類に応じた比較を行う必要があります。
マンションの賃料を知りたい場合には、同じ建物内であっても店舗の賃料を参考にすることはできません。違うマンションであっても、マンションならマンション、店舗なら店舗の賃料で比較する必要があります。
家賃の価格(賃料)形成要因
不動産の賃料に影響を与える要因は、元はと言えばその不動産そのものの価値に影響を与えているものです。その要因は、土地についての要因もあれば、建物についての要因もあります。
土地についての要因は、立地だけではなく、場合によっては前述したような形状や地勢、道路の幅員等、価格に影響を及ぼしているものが賃料の水準にも影響を与えていることがあります。
建物についての要因は、建物の種類(用途)別に異なります。
そしてその土地と建物との組み合わせとの関係や、土地または建物あるいはその両方の規模の差異も賃料の額に影響を及ぼしています。
賃料の水準に影響を与える要因の主なものを建物の用途別に挙げてみました。
同じ住宅用の建物でも、戸建を借りるのと、ワンルームマンションの一部屋を借りるのとでは、皆さんも視点が異なると思います。また、商業用の建物の場合、店舗は宣伝効果等も見込んで客足の多い立地が好まれますが、事務所の場合は店舗ほど客足の多さは求められないのが一般的です。その代わり、事務所の場合、多くは専用部分の基本的な仕様に手を加えなくても使用できるように、天井・内壁・床の造作が一般的なものが提供されます。場合によっては、全ての造作が設置されていないがらんどうの状態(これを「スケルトン貸し」と呼びます)で提供されます。店舗の場合は、スケルトン貸しで、業態に応じて、テナントの負担で内装や設備を設置し、退去するときにテナントが負担して撤去するという契約が多いです。
工業用の建物の場合には、2階以上の部分を貸しているという例はあまり聞かないように思いますが、横に長い建物を縦割りにして、1・2階で貸している、という物件はしばしば見かけます。
天井が屋根と共用、内壁が外壁と共用、床は土間コンクリートというシンプルなものから、一定の内壁、天井が設置されているものまでありますが、基本的にはスケルトン貸しです。また、スケルトンではなく、機械設備が設置されたままになっていることがあります。自社用の工場や倉庫として使用していたものを貸すことにした場合や、従前のテナントのために設置していたというような場合です。
既に設置された機械設備を撤去するためには相当費用がかかることから、その設備を撤去していない場合もしばしばみうけられ、この場合、なかなか借り手がつかないため賃料は安くなってしまいます。
今年はインバウンド効果で商業地域内の家賃が上昇、流通革命で工業地域内の倉庫の家賃が上昇などのトピックがありました。
来年は家賃の評価について具体的に紹介していきたいと考えています。
よろしくお願いいたします。