「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の鑑定評価を行うための不動産の調査~対象不動産を確定する~
今回は、不動産鑑定士が不動産を鑑定する場合、事前にどのような調査を行っているのかお伝えします。
鑑定評価の依頼を受ける時(受付時)
クライアントから「この不動産を評価してください」とのご依頼を受けるとき、色々なパターンがあります。
① 不動産登記情報や固定資産税の明細書を受け取る場合
② 場所だけを言われる場合(例えば、「〇〇ショッピングセンター」等)
③ 住宅地図またはWEB上の地図に場所を示したものを受け取る場合
④ ①~③に加えて、法務局で取得可能な公図や地積測量図、建物図面を受け取る場合
④が一番ありがたいのですが、そうはいかないことが多いです。
①は、士業(弁護士・税理士・司法書士等)の方からの依頼の場合にしばしばあります。
裁判所や弁護士の方からの依頼で、「10物件あります」と言われて確認すると、実は鑑定評価の対象としては2物件ということがあります。
裁判所では全ての係争について「事件」と呼びます。刑事事件ではなく、民事裁判でも、『事件番号 令和元年(ワ)第****号』などとなっています。そして、その事件に不動産が絡んでいる場合、不動産の明細が「物件目録」として示されるのですが、物件目録には、土地1筆、建物1棟毎に、『物件番号』が付されます。
物件1 所在 ****市***町
地番 123番1
地積 50.56㎡
物件2 所在 ****市***町
地番 123番2
地積 70.11㎡
物件3 所在 ****市***町
地番 123番3
地積 30.11㎡
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しかし、上記の様に示された物件1~10のうち、例えば、物件1~6が同じ所有者でかつ一体で使われているような場合、1筆毎の価値を鑑定評価することはクライアントも求めておらず、物件1~6一体としての価値を知りたいことが大半です。前記の、「10物件あります」と言われたけれど、評価対象としては、「2物件」だったというのはそういう訳だったのです。
物件1~10をそれぞれ単独で評価を行うと、物件1~6、物件7~10をそれぞれ一体として評価を行った場合よりも価格は低くなります。受付時に念のため「物件1~6と、物件7~10での評価ですね?」と確認は行います。
裁判所からの鑑定評価の依頼の場合には、建物も棟毎に物件目録に記載されます。建物は棟毎に物件*と番号が付されるのは良いのですが、物件目録の番号の順番は、必ずしも我々の思う評価の単位毎の順番ではないのです。上記の図の例では、土地である物件1~5が、建物である物件6の敷地、土地である物件7~9が建物である物件10の敷地と、〔物件1~6〕、〔物件7~10〕でそれぞれひとまとまりになっています。しかし、土地は土地で連番、その後に建物が続くという連番で物件番号が付されることもあるため、上記の例とは異なり、物件1~8が土地、物件9,10が建物という場合もあります。「物件1~5が、物件9の敷地」、「物件6~8が、物件10の敷地」ということがあり、どの組み合わせが一団の不動産なのかを依頼時に整理する必要があります。
一般の鑑定評価で、2件の不動産の鑑定評価額を1冊の鑑定評価書に記載する場合、
物件1 ~
物件2 ~
と記載するのが一般的なのですが、上記のような裁判がらみの鑑定評価の場合には、「物件」を用いると紛らわしいため、土地のみの場合には、「画地1」「画地2」、あるいは、「対象不動産1」「対象不動産2」とするなど、別の表現にしています。
税理士の方からの鑑定評価の依頼の際に、固定資産税の明細書(納付書に付いている明細)を示される時も同様です。明細書には、「物件番号」はありませんが、1筆毎の羅列になっており、市によっては土地の一覧に続いて建物の一覧となっているものがありますので、対象不動産の単位を確認する必要があります。
②、③の場合は必ず、登記上の地番及び家屋番号を示していただくことになります。
ですので、結局④が一番早く対象不動産を確定することができます。
法務局で確認する
法務局では、不動産に関する登記を始め、次のものを確認することができます。
土地 建物
登記事項 登記事項
公図(地図) 建物図面・各階平面図
分筆申告図
土地所在図
地積測量図
地役権図面
字図
法務局でこれらの資料を調査することで、住宅地図等と照合し、対象不動産の範囲を特定します。また、対象不動産の使用が制約される権利(地役権等)が付着しているか否かを確認します。
市役所に調査にいく
市役所では、都市計画、土地利用・建物建築に関する規制の状態、景観に関する規制、道路の種類(市道か私道か等)、建築基準法上の道路かどうか、土壌汚染に関する調査、上下水道の埋設管の状態、小中学校の校区、埋蔵文化財の有無、立地適正化計画、ハザードマップ(河川氾濫)等の調査を行います。
これらは、昨今ではWEB上で公開している自治体も増えてきています。
場合によっては、都道府県や国の機関に調査にいく
建築確認の内容を調査する場合、建築主事が市にいない場合には、都道府県が建築確認を行っていますので、都道府県の機関に調査に行きます。
そのほか、次の内容についても、都道府県の機関へ調査に行きます。
・対象不動産が国道や都道府県道に面しているときの道路の幅員等
・事業主体が国や都道府県の都市計画道路
・一級河川や二級河川の河川保全区域
・土砂災害防止法の指定区域、砂防指定地等
・保安林や地域森林計画対象民有林の状態
ガス事業者からの調査
ガス事業者がガス埋設管の埋設状況について、WEBまたはFAX送信サービス等に対応しています。
その他
・電波伝搬障害防止区域
・航空法による規制(高さ制限など)
・港湾法による規制
案件によっては、これら以外にも調査する必要がある場合があります。不動産は同じ物が二つとないため、毎回調査は新鮮な気持ちで行うことができます。
2019年もありがとうございました。
来年は、東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。そして、2018年のお正月のコラムでも触れていたIRは、いよいよ実施区域が確定します。
地政学的リスクは依然として残っていますが、来年も平和な好景気の一年でありますように。