「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
相続税路線価が発表になりました
今年は7月1日に国税庁から相続税路線価が発表されました。新聞やテレビやWebなどのニュースで「路線価が発表されました」と言われている「路線価」は相続税路線価を指しています。
路線価が記載されている路線価図は、国税庁のホームページなどで確認することができます。
相続税路線価とは
相続税路線価は、毎年夏頃に国税庁が発表しているその年の1月1日の価格です。
相続が発生し、遺産の中に不動産がある場合には、納めるべき相続税額を計算する際に用いられます(厳密には相続税だけに用いられるのではありません。「相続税路線価とは」については、本コラム「2016年1月号 土地の価格(前篇)」でも説明していますので詳細はそちらもご確認ください)。
今年の路線価からみる地価の動向
都道府県庁が所在する都市の最高路線価が国税庁から発表されています。
平成28年分都道府県庁所在都市の最高路線価【価格順】
※国税庁発表資料「平成28年分都道府県庁所在都市の最高路線価」を基に、筆者加筆・加工
平成28年分都道府県庁所在都市の最高路線価【上昇率順】
※国税庁発表資料「平成28年分都道府県庁所在都市の最高路線価」を基に、筆者加筆・加工
本年1月のコラム「2016年1月号 土地の価格(前篇)」でも、気をつけることの1つとしてあげましたが、この7月に発表された相続税路線価の価格はその年の1月1日時点の価格です。3月に国土交通省が地価公示標準地の価格(公示価格、以下「公示価格」と記載)を発表していますが、これもその年の1月1日時点の価格です。ですので、発表の時期が違うだけで、全体としてのその年の1月1日までの1年間の地価の動向は、相続税路線価も公示価格も同じです。
以下にも述べますが、これらの価格は、あくまでその都道府県の中で最高の路線価の額が示された地点の一覧であることに留意しておいて下さい。
相続税路線価は、同じ時点(各年1月1日)の公示価格の80%を目安として表示されていますので、路線価が32,000千円/㎡だとすると、40,000千円/㎡(=32,000千円/㎡÷0.8)が公示価格ベースの価格と捉えることができます。
地域毎の地価の動向を知るためには、今年の公示価格も確認しよう
国税庁からは、各都道府県内の最高価格地とその路線価、前年の路線価からの変動率が一覧で発表されますが、あくまで最高価格を示した土地の路線価のみの変動率であって、その都市全体の路線価の平均変動率ではありませんので注意が必要です。
3月に発表された公示価格の1年間の地価変動率を見ると、路線価の最高価格地よりも大きく上昇している場所もあります。
東京では、路線価の最高価格地のある地域と公示価格の最高上昇率を示した場所はいずれも『銀座』で、変動率自体も大きな違いはありません。しかし、大阪をみると、路線価の最高価格地である大阪市北区角田町の御堂筋沿いの路線価上昇率は+22.1%ですが、公示価格ではこれを上回る上昇率の地価公示標準地が7地点もあります。公示価格で全国最高の上昇率を示した地点は、心斎橋筋商店街で、+45.1%、次点は道頓堀で+40.1%です。また、名古屋でも、少なくとも10地点以上の公示価格が路線価の最高価格地の上昇率を上回る上昇率を示しています。
三大都市圏である東京・大阪・名古屋のみならず、地方圏においても同様で、例えば金沢市の路線価の最高価格地の価格は+14.1%ですが、地価公示標準地の価格が最高に上昇した地点は、その率が+31.2%と倍以上の上昇傾向を示しているものもあります。
このように、実際の地価の動きは、同じ都市内でも大きく異なることがありますので、一定の地域毎の地価の動向を知るためには、路線価の最高価格地だけではなく、公示価格のデータも併せて確認する必要があります。
個別の不動産の地価の動向を把握するためには、1、2年前の路線価も確認しよう
同じ場所の昨年の路線価、一昨年の路線価を調べることによって、だいたいの地価動向を掴むことができます。ただし、路線価は千円未満は表示されませんので、土地単価が10万円未満の土地の場合には、微妙な動きは把握しにくいと言えます。
その年の1月以降の経済情勢や税制の変更に注意しましょう
先にも記載しましたが、路線価は1月1日時点の価格を示していますが、路線価が発表される時期は1月1日から半年が経過しています。上記の方法で昨年、一昨年の価格から過去の地価の動向を掴むことができても、その年1月以降に国内外の経済情勢や税制が変化したり、地震などの自然災害が発生したりした場合には、地価動向が同じ傾向で続いているとは限りませんので、注意が必要です。
相続が発生する前に、遺産となる不動産の相続税評価額を確認しておこう
相続税路線価は公表されていますので、誰でも確認することができます。
平成27年から相続税に関する法律が改正されて、遺産に係る基礎控除の額が引き下げられました。また、このところ土地価格が上昇している地域があります。
そのため、不動産を所有している場合には、これまでは相続税を申告する必要がなかったけれども、ひょっとしたら今は相続税を納めなければならなくなっているかもしれません。
早めに納税の可能性の有無を把握し、納税が発生しそうな場合は、その額をざっくりとでも把握しておくことが大切です。
特殊な土地の場合には、不動産の専門家の意見を確認しよう
相続税を納めるための土地の評価額は、国税庁の定める財産評価基本通達に基づいて算出されます。この通達は、大半の不動産に適用することができる計算方法になっているのです。そして、公示価格よりも20%程度低位な価格である路線価がベースとなり、その土地の個別的なプラス要因やマイナス要因による加算や減算も原則としてこの通達に則って行われます。ただし、以下のような特殊な土地の場合には、このような一律な計算方法を適用して価格を算出した結果、形式的には公示価格の20%程度低位な価格として算出されていることになりますが、現実の市場価値よりも遙かに高い価格で計算されてしまう場合があります。
相続の対象となる土地が上記の様な特殊な土地に該当しそうな場合、または該当するかどうか判らない場合も含め、早めに不動産の専門家にご相談いただくか、納税の申告を依頼されている税理士の方を通じてご確認いただくことで、適正な市場価値を早めに把握することができるようになります。
また、そのような土地に該当する場合には、不動産鑑定士が鑑定評価を行うことによって、適正な市場価値に基づいて納税することができます。
●鑑定評価が活用できるケース(土地(画地)条件に問題があるケース)
1.間口2m未満の土地
2.対象の土地そのものが大きく傾斜している土地
3.道路に面しない土地
4.前面道路が建築基準法第42条規定の「道路」に該当しない土地
5.底地(借地権の負担がある土地)
6.道路及び隣接地と大きな高低差のある土地
7.前面道路に路線価が付設されていない土地
8.道路との間に水路が介在する土地
9.一体で利用しているが、法務局の図面では赤道(里道)や水路で分断されている土地
10.高圧線が上空を通過している土地
11.土砂災害警戒区域や急傾斜地崩壊危険区域内の土地
12.土壌汚染がある土地
13.市街地山林、市街地原野、市街地農地
14.マンション利用に向かない、面積の大きな土地(広大地)
【路線価を確認する方法】
①国税庁のホームページ:平成22年分から平成28年分までを見ることができます。
②全国地価マップ:過去4年分の路線価を見ることができます。タイムラグあり。
③国税局:最新発表年から遡ること10年分(このコラムの時点だと、平成19年分まで)は、土地の所在する地域を管轄する国税局や管轄の税務署で閲覧することができます。コピーも可能です。
④国公立図書館:過去10年よりもさらに古い年の路線価を知りたい時。ただし、全ての年が揃っているとは限りませんので、予め確認してから訪問することをお勧めします。
【路線価図の見方】
詳しくは、国税庁のホームページに書かれていますが、千円単位で表示されています。
【路線価がない地域の宅地の価格はどのようにして把握するの】
宅地で、道路に面しているのに路線価図を見たら道路に路線価の記載がない場合、『評価倍率表』を確認しましょう。「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」欄の宅地の欄を見ます。
次のような2つのパターンがあります。
(1)「路線」と記載されている。
その場合、対象の場所に路線価を設定してもらうように税務署に申し出を行います。
(2)宅地の欄に「1.1」等と数字の記載がある場合
固定資産税評価額にその数字を乗じて相続税のための評価額を計算します。