「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の価格に影響を与える要因〔一般的要因その1〕
不動産の価格を形成する要因
2020年7月、2021年4月のコラムでは、不動産の価格に影響を与えている要因として今まで以上に一般的要因について注意を払う必要があると書きました。
不動産鑑定評価基準では「一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいう。それは自然的要因、社会的要因、経済的要因及び行政的要因に大別される。」とされています。
これらの要因は、ある要因に変化を与えることもあれば、ある要因に変化させられることもあり、相互に影響を与え合っています。自然的要因が社会的要因に影響を与え、次に社会的要因が行政的要因に影響を与え、その結果、経済的要因に影響を与える等があります。ただし、要因が変化することによる影響が全ての不動産に一律同じ程度に及ぶということではありません。ある要因の影響の大きさの違いに応じて、影響の大きい不動産が集まる地域、影響の小さい不動産が集まる地域、といった「地域」が生まれることになります。
集まると言っても、現実には土地は不動ですので、不動産が動いて寄ってくるわけではありません。まず不動産のうちでも、土地のみが持つ特徴として「人や物等を載せる」ということがあります。歴史を振り返ってみると、土地の上の人類が生活を始めることで、生活の一部として動物を飼ったり、植物を生産したり、植物や鉱物を加工したりし、物々交換から通貨という概念も生まれ…と、生活領域が徐々に連鎖的に広がっていきました。このように私たち「人」が不動産になんらかの働きかけをし、そしてその働きかけのあり方や強弱によって不動産に特色が現れるようになり、これを「人」が「地域」として認識することによって「地域」という概念が生まれるのです。
一般的要因のうちの自然的要因
一般的要因のうちの自然的要因ですが、一般のモノと大きく違うのは、土地はその位置に存在し、通常は人間の力では動かせないということです。近い将来空中で暮らすことができるようになるのかもしれませんが、現在のところ、タワーマンションの最上階のペントハウス、地上150m近い位置であっても、あくまで「土地の上に載っている」建物の空間を利用しているだけです。「土地は容易に動かせない」からこそ、次に挙げるような要因は不動産の価格に影響を与えます。
1.地質、地盤等の状態
2.土壌及び土層の状態
3.地勢の状態
4.地理的位置関係
5.気象の状態
元々地震大国と呼ばれる日本です。大きな地震が起こると、地盤が強固な地域の物件が注目され、逆に液状化した地盤がある地域の物件は避けられるようになりました。しかし、物理的な土地の修復に加え、法律や運用の見直しも行われ、例えば液状化のおそれがある地域では、基礎杭を岩盤層まで打ち込む等技術も進んで来ています。
また、ここ数年は異常気象の影響で土砂災害が頻発しています。急傾斜地が迫る山裾の住宅が土砂崩れによって崩壊するニュースの映像は衝撃を与えました。いわゆる土砂災害防止法
https://www.mlit.go.jp/river/sabo/dosyahou_review/01/110803_shiryo2.pdf
に注目が集まるようになり、国や自治体が注意喚起のためにハザードマップを作成していることをアナウンスするようになってきました。ハザードマップでは、土砂災害警戒区域(いわゆるイエローゾーン)や土砂災害特別警戒区域(いわゆるレッドゾーン)の指定についてだけでは無く、洪水や、高潮、津波、浸水想定、活断層等が示されています。さらに防災拠点、避難経路なども記されています。
ハザードマップが公開されることにより、危険性が高いと示された場所の不動産価値が下がるなど風評被害が発生するという話も聞かれましたが、大雨や台風、地震等の災害が起こる度に、結局はあらかじめ判っていれば良かったのにという意識が高くなり、さらに地震の震度予想や立体3Dハザードマップも公開されるようになってきました。
ハザードマップが示されたことによって、地価の下落が続いているエリアもありますが、災害リスクがあるとしても、古くから名声があり、景観や風通しが良い山手の住宅地は、区画が広く擁壁工事の費用が嵩んでもなお富裕層による需要が少なくない地域も依然として存在します。ある場所では、自然的要因がマイナスに働くことがあるけれども、別の場所ではプラスに働くことがあるのです。
一般的要因のうちの社会的要因
社会的要因とは、不動産を利用している「人」がどのように暮らしているか、そしてその暮らし方が不動産の価格に影響をどのように与えているかのことを指しています。
1.人口の状態
2.家族構成及び世帯分離の状態
3.都市形成及び公共施設の整備の状態
4.不動産取引及び使用収益の慣行
5.建築様式等の状態
6.情報化の進展の状態
7.生活様式等の状態
昔は子供の数が多く、親が家を所有していても、子は家を継ぐ以外は別に家を持つ必要がありました。核家族化や晩婚化が進行すると、子世代は親が買った家に住み続けることができ、その分不動産を買おうという人の絶対数が減ることになります。そうすると家は余ってくることになります。家が余ってくるということは、需要と供給のバランスから不動産の価格は低下することになります。
職住接近による利便性を重視する子育て世帯や、日常生活の利便性を重視する高齢者世帯が都心のマンションに住むということを選択するようになってきました。都心に住むことを選択する人が増えると、今まで事務所ビルばかりで食料品を買うにも不便だった地域に食品スーパーが進出するようになります。便利になった都心のマンションを欲しいと思う人がさらに増えると、不動産の価格は上昇することになります。建築の技術の発展と共に、都心部でタワーマンションが建設されるようになると、居住人口が増えることになります。都心の商業地域で、元々事務所ビルや商業店舗が建ち並んでいて居住人口は減少傾向にあった地域では、公立小中学校を廃校にしてしまっている場合もあり、学校の再編が必要になってくることもあります。
また、以前よりも「車を持ちたい」と思う人が減り、「車を所有するかどうかは、車が必要かどうかで判断する」という人が増えてきたように感じます。かつてマンションを建築する際に1戸あたり1台や、2戸あたり1台等の駐車場付置義務等が自治体から課せられることが多かったのですが、公共交通機関が豊富な都心では車は必要ないという選択をする人が多くなってくると、マンションに設置されている駐車場を借りる人が少なくなり、その結果、特に機械式駐車場のメンテナンス費用が確保できないということも起こってきます。この問題を解消するために、マンション建築の際にカーシェア制度を利用することを推奨する自治体も出てきました。駐車場のメンテナンス費用がかからない分、修繕積立金の額を抑えることができます。
一方、昨今のような新型コロナウイルス感染症感染拡大により、テレワークが推奨されるようになると、都心のマンションに住んでいた世帯がより広い郊外の庭付き戸建住宅に住もうとするということも見られます。いわゆるオールドタウン化していた郊外の住宅地域にも需要が生まれることになります。
このように、人の暮らし方の変化が不動産の価格の変化にも影響を与えているのです。
来月はあと二つの一般的要因について述べたいと思います。ありがとうございました。