「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
マンションの相続税評価額と鑑定評価額
2023年6月末に国税庁により「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」という報道発表資料が公表されました。
相続税のための評価額の算出は、土地は相続税路線価があるところは相続税路線価をベースに、相続税路線価がないところでは、固定資産税評価額に国税庁が定めた倍率を乗じて出されるのが原則です。建物は固定資産税評価額が相続税でも評価額となっています。
土地の上に建物がある物件についての固定資産税と相続税の課税のための評価は、どちらも土地は土地、建物は建物として別々に評価額を算出します。土地と建物が別々の所有者の場合にはそれも合理的ですが、土地と建物の所有者が同じで建物を利用しているのも同じであったとしても、土地は土地、建物は建物の評価額の算出方法が決められています。
固定資産税の土地建物評価
土地や建物を共有している時の固定資産税は、地方税法によって所有者名義人全員が連帯納税義務者となっています。したがって、固定資産税評価額は原則としてその不動産を1人が所有していることを前提にして算出すれば良いことになっています。
この固定資産税の原則的評価方法を分譲マンションに当てはめると、専有面積が同じで敷地権割合が同じであれば、高層階でも低層階でも、バルコニーが東向き一方向の部屋と南東角部屋でも固定資産税評価額は同じになってしまいます。しかし、2022年4月のコラムでもお伝えしたように、実際のマンションの価格(市場価格)は、同じ専有面積でも低層階部分より高層階部分の方が高くなるのが一般的です。また、バルコニーが一方向の部屋よりも二方向の部屋の方が高くなるのが一般的なので、バルコニーの方向によっても価格は変わります。新しく分譲されるマンションの価格表を見たことがある方はご存じだと思いますが、上層階の方が下層階よりも売り出し価格は高くなっていることが殆どですから、購入価格は異なるにも関わらず固定資産税の額は同じということになっていました。「固定資産税評価額」はあくまでも固定資産の評価基準によって算出された結果なので実際の市場価値とはそもそも違うのです。
家屋の固定資産税評価額を決定するのはその建物がある自治体ですし、膨大に存在する固定資産(土地建物)について専有面積以外の個別の細かい違いを全ての物件に考慮した評価を行うことは現実的に難しいということもあって、2017年度までは原則通り一棟の建物の評価額に専有面積割合を乗じた額が建物の評価額となっていました。
マンションの固定資産税の課税の評価
2018年度からは、高さが60mを超える居住用超高層建築物(いわゆるタワーマンション)については、一棟の建物の評価額から得られた税額の按分を専有面積の割合ではなく、階層別専有部分の面積割合に基づく補正率(階層別専有床面積補正率)を考慮した割合で行うこととなりました(ただし、2017年以降に建築されたもののみ)。
階層別専有床面積補正率は、1階を100とし、階が増える毎に10/39を加算したものです。
N階の階層別専有床面積補正率=100+10/39×(N-1)
専有床面積(補正後)としているので紛らわしいですが、
専有床面積(補正後)= 各戸の効用積数
だと考えると理解しやすいと思います(2022年4月号のコラム)。
また、地方税法では、固定資産税の評価額自体は一棟の建物についてのみ算出され、あくまで個別の専有部分に対応する税額を算出する方法と位置づけられていますが、固定資産税評価額を用いて課税される不動産取得税の課税のための評価額もこの方法で算出されることになりました。その意味では、地方税法でのタワーマンションの建物の評価「額」方法は実質的に下記のようになっているといえるでしょう。
固定資産税評価と鑑定評価との違い
上記のように、固定資産税の評価では専有部分について建物の価値だけが変わることになります。しかし、不動産の鑑定評価では少し考え方が異なります。
建物の価値について、単純に原価の観点から考えてみましょう。確かに高層マンションは必ずエレベーターが必要である等、低層マンションよりも建築費の総額が高くなることが多いですが、同じマンションの一棟の建物に係る建築費は上層階であっても下層階であっても仕様が同じであれば同じ単価です。一方、低い位置の空間では得られない眺望や日照が高い位置の空間では得られるという効用の違いはあります。これらの効用は土地の所有権は上部空間から地下空間に至ることから、土地の持つ効用だと捉えることができます。
不動産の鑑定評価の実務では、効用を振り分ける方法には、以下の2つがあります。
① 一棟の建物及びその敷地の価格(積算価格)に配分率を乗じる方法
② 一棟の建物の価格(積算価格)、敷地価格のそれぞれに異なる配分率を乗じる方法
①は、分譲マンション全体の価格を基に振り分けるという考え方ですので、建物原価に階層別の効用の違いがあるという発想ですが、土地の価格も効用の違いを考慮して振り分けることになります。②は建物については原価の多寡に応じて振り分け、土地は階層別「地価」配分比率を用いて振り分けるという考え方です。いずれの配分方法も土地の価格を振り分けることが前提となっており、固定資産税評価の様に建物の価格だけを振り分けるという考え方ではないのです。
2024年度から改正される予定の相続税評価との違い
◎固定資産税評価と相続税評価の違い
先にお伝えしたとおり、相続税評価も土地と建物別々に評価額を算出して合算するという方法で行われます。分譲マンションであっても同じです。2018年からタワーマンションの固定資産税の算出方法が改正されたことで上層階が下層階よりも固定資産税が高くなることになりましたが、これは税額が高くなるだけで、固定資産税評価額は変わらないため、建物の相続税評価額としては、上層階であっても下層階であっても専有面積が同じであれば同じ額となっていました。しかし、2024年度からの相続税評価の見直し案では、以下のように示されています。
区分所有に係る財産の各部分(建物部分及び敷地利用権部分。ただし、構造上、居住の用途に供することができるものに限る。以下「マンション一室」という。)の価額は、次の算式により計算した価額によって評価することとする。
評価乖離率の計算方法も示されており、評価乖離率を計算するための変数に総階数や所在階を用いることとなっています。一旦土地建物の各価格を合算した価額に、階数別の効用を考慮して評価額を算出するという点で不動産鑑定評価の考え方に近いと言えます。
◎改正後の相続税評価と不動産鑑定評価との違い
上記のとおり、土地価格も含めて階層利用の効用を考慮するという点では不動産鑑定評価の考え方に近いのですが、この新しい評価の考え方は、今までどおりの算出方法による相続税評価額が理論的な市場価格の60%未満となる物件に限られていることや、変数の要因が「築年数」「総階数」「所在階」「敷地持分狭小度」に限定されていること等は不動産鑑定評価とは異なっています。例えば、この新しい評価方法でも、同じフロアの同面積の角部屋とそうでない部屋では価格差が生じませんが、細かく要因を分析して価格を求める鑑定評価では価格は異なることになります。
上記は現在示されている国税庁からの案に基づいています。今後の意見公募によって多少の変更は生じるかもしれませんのでご注意ください。
今月は以上です。
ありがとうございました。