「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
安くてお得な物件はあるか【収益物件の利回りと価格の関係】
利回りには、結果としての利回りと、投資家が期待する利回りの両面があります。例えば、上記の物件では、「4%」と提示されています。
400万円 ÷ 10,000万円 = 4%
この場合は、不動産の価格がまずありきでそれに対する収益額の割合という意味での利回りです。
一方、同じ年間の収益が400万円得られる物件であっても、その物件からいくらの利回りを得たいか、という視点から見ると、物件の価格が変わることになります。
AさんとBさんで得たい利回りが違う時で見てみましょう。
Aさん「利回りは5%は欲しい」と思っています。
Bさん「利回りは4%でいい」と思っています。
AさんとBさんが期待する利回りを確保しようとすると、物件の価格はそれぞれ次の様になります。その物件から得られる収益は、400万円ですから、
Aさん 400万円 ÷ 5% = 8,000万円
Bさん 400万円 ÷ 4% = 10,000万円
売り出されている価格は、10,000万円ですので、Aさんはこの物件を買おうとはせず、Bさんは買おうとするかもしれません。
このように、得られる収益が物件価格に対して何パーセントになったらいいか(買うか)という利回りを【期待利回り】と言います。実際に取引が行われた物件の、収益の物件価格に対する割合は、【取引利回り】と言います。
投資用不動産の取引では「この物件の期待利回りは**%」というような言われ方をします。
今までの説明だと、期待利回りは投資する人によって異なるはずなのに、なぜでしょうか。
Bさんは4%でいいなと思っているので、その物件を買うことができますが、Aさんは、5%必要と思っているので、その物件を買うことをしません。Bさんの様に、4%でもいいと考えている人が多い時には、その物件は4%で計算した価格で売買されます。
その物件と似たような物件が、4%で取引されるということが増えてくると、「この様な物件の期待利回りは4%」と言われるようになります。
しかし、「他の人にその物件を取られたくないので、3.8%でもいい」と考える人からすると、物件価格は、「400万円 ÷ 3.8% ≒ 10,500万円でも買う」となります。
そして、このような、買い手(需要)の期待利回りの低下を、売り手(供給)が把握すると、物件価格が上昇していきます。そして、多数の人が期待する利回りが一定の水準を示すようになると、「その物件の期待利回りは3.8%」と言われるようになります。
逆に、買い手(需要)の多くが、利回り4%では低すぎるな、と考えていることを売り手(供給)が把握すると、売り手は物件価格を下げて売りに出すようになります。物件価格が下がれば、収益が一定なら、結果として利回りは上がることになり、買い手が現れるようになります。
例えば、先ほどの物件が4%の利回りでは売れなかったので、売り手が物件価格を9,500万円に下げました。
400万円 ÷ 9,500万円 = 4.2%
利回りは4%より高くなっています。それでも、買い手が出てこなかったので、物件価格を9,000万円に下げました。
400万円 ÷ 9,000万円 = 4.4%
価格を下げたら、利回りは上がりました。
この価格だと、買い手が数人出てきたとなると、「この物件の期待利回りは4.4%」と言われるようになります。
買い手の期待する期待利回りは、その利回りで取引されると、実現して取引利回りとイコールになりますが、期待利回りが変化すると、それに伴って取引利回りも変化します。
取引の結果である取引利回りは、単純に、その取引価格に対する収益の割合を示していますので、それが集積してくると、投資家も、「先日似たような物件が、**%で取引されたので、この物件もこの位の利回りが欲しい(と、期待する)」というように、期待利回りに影響を与えます。
期待利回りは、物件の内容、金利の動向、これらを踏まえた投資家の投資スタイルによって異なります。
不動産投資も、株式やJ-REIT、その他様々な金融商品の金利や利回りと比較して投資額を決めることになりますので、リスクが低いと考えられる物件の場合は、リスクが高い物件よりも利回りは低くなります。また、リスクが高いと考えられる物件の場合には、リスクが低い物件よりも利回りは高くなります。
リスクが高い物件というのは、どんなものがあるでしょうか。
①設備が古く、あるいは、メンテナンスが行われていなかったため、今後高額な修繕費がかかってくる可能性があるもの
②専用部分の設備の仕様が古いため、退去者が出ると、なかなか次の入居者が決まらない可能性があるもの
③周辺に、新しいビルやマンションが建築されることによって、新しいビルやマンションに入居者が流出してしまう可能性があるもの
収益は400万円、物件価格も10,000万円と同じである、物件XとYで比べてみましょう。
物件X:
一般的なメンテナンス費用がかかるだけ。400万円 ÷ 10,000万円 = 4.0%
4%の利回りが確保できる物件
物件Y:
設備が古く、3年後には改修工事費用1,500万円の出費が見込まれる。一旦出費すれば10年は大規模メンテナンス不要。10年で均すと、年間150万円
400万円 - 150万円 = 250万円
3年後の実質的な収益から利回りを見ると、
250万円 ÷ 10,000万円 = 2.5%
大規模メンテナンス費用も見込んで、利回りを4%確保するためには、
250万円 ÷ 4.0% = 6,250万円
6,250万円で買わないと採算が合わないということになります。
①は物件を調べることによって、一定程度把握することができますが、②、③については、その物件のある地域の市場を調べることによって把握することになります。
多くの投資家は、物件の購入にあたって借り入れを併用していますので、借入れ金利の水準も影響します。ただし、借入れの割合は投資家によって異なります。
全額自己資金で購入する投資家の場合には、不動産以外の金融商品と比較して、どちらがリターンが大きいかという側面から、利回りだけを気にすればいいのですが、購入にあたって借入れの割合が大きい投資家の場合には、購入後に、金利が上昇すると、借入金の金利返済額が増えることになり、ひいては収益の手のこりの額を減らすことになるので、実質的な利回りは低くなってしまいます。
収益が4%の収益物件がある場合、100%借入金で購入する需要者にとって、手のこりと期待利回りの関係は、以下のように言い表せます。
貸出金利2%の時 手のこりは、2% 期待利回りは下がる余地がある。
金利負担を2%差し引いても、収益は2%残ります。「収益の手のこりが1.9%や、1.8%でも、物件を得たい」という需要者がいれば、期待利回りは3.9%や3.8%と下がる可能性があります。この場合、「物件価格が上がる可能性がある」とも言えます。物件を購入(投資)しなければ、収入は0円ですが、手のこりが0円よりすこしでも大きければ、投資する余地があるということです。
ただし、金利が上昇するリスクがありますし、誰もが、「収益の手のこりが2%を切ったら利益が少なすぎるので、この物件は買わない」と考えるならば、期待利回りは下がらず、むしろ上がる可能性も出てきます。
貸出金利4%の時 手のこりは、0% 期待利回りは上がる。
貸出金利6%の時 手のこりは、マイナス 期待利回りは上がる。
単純な話ですが、金利の上昇局面では、手のこりが少なくなるリスクを織り込んで期待利回りは高くならざるを得なくなり、採算面から、物件価格は下がっていくことになります。
お得だと思える収益物件を手に入れるには、物件の状態、地域の状態、その地域の不動産市場の状態、そして金融市場の状態を踏まえた上で、自分自身の投資スタイルを考慮して、その物件の利回りが、自分が期待する利回りより高いか低いかを判断することが大切です。
今日はここまでです。
ありがとうございました。