「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
安くてお得な物件はあるか【収益物件編 後編】
収益物件でお得感があるというのは、「利回りが良いかどうか」ですね。これは、投資物件については総じて言えることです。しかし、証券化された不動産に投資するのではなく、実物不動産に投資する場合には、単純に、賃料の年間総額である(収益)を不動産の価格で割った利回りが高いか低いかだけでは「利回りが良いかどうか」は瞬時には判りません。単純な利回りではなく、「実質的な利回り」を知ることが大切です。
実質的な利回りを把握するためには、収益から費用を控除して利益(純収益)を把握する必要があります。そして、先月≪収益物件編 前編≫では、収益の把握は、単純に収入が判ればいいというものではない、ということをお伝えしました。
今月は、費用その他についてお伝えします。
費用
費用は、ざっと列挙すると、次のようなものがあります。
◇修繕費・修理費
◇管理費
◇税金
◇水道光熱費
◇テナント募集費用
◇損害保険料
◇その他
費用を算出するために、必要なチェック項目を挙げてみました。
(1)修繕費・修理費
外観に関すること
外壁に貼られているタイルが剥がれていないか、外壁が塗装の場合の塗装や鉄部の塗装が剥がれているところや錆が生じていないかを確認します。屋上のコーティングやコーキングに割れ目があったり、草が生えていたりすると、雨漏りが発生していたりすることもありますので、要注意です。
建物の共用部分に関すること
廊下やエレベーター、階段部分、メールボックス、駐車場、駐輪場、バルコニーなどが挙げられます。各部屋の扉も共用部分です。
エレベーターや、機械式駐車場、ロボットゲート、オートロックがある場合には、その保守点検の費用や故障時の修繕費用がどのくらいかかるのか、残存耐用年数(会計上のものではなく、実際に使える残りの期間)のチェックが必要です。バルコニーには消防設備(梯子等の避難器具)なども設置されていますので、それもメンテナンスが行われているか確認する必要があります。
各室内
特に、キッチン、お風呂、トイレ等水回りの配管や、電気の配線のメンテナンス状態を確認する必要があります。
これらを確認した結果、思わぬ出費が生じることがあります。
エレベーターや、バルコニー、廊下、機械式駐車場等は、大きな修繕を終えると、向こう10年から15年は、修繕しなくていいかもしれませんが、それでも、一定期間が経過すると大きな修繕のための費用が発生するため、次に修繕する時期まで、毎年修繕費用の額を積立てるものとして、その額を考えておく必要があります。
その年には大きな修繕は必要がなかったとしても、共用部分の電球の交換など、ちょっとした修繕費用は毎年かかってきます。
(2)管理費
管理とは、賃料の集金、共用部分の日々の清掃がその代表的な例です。しかし、その他にも、入居者からの修理依頼への対応、賃料の支払い期限までに支払ってくれなかった入居者への支払督促や、賃料の値上げ値下げ交渉対応など色々な業務があります。
集金も清掃もオーナー自らが行うという場合、物件が自宅の目の前で交通費が要らない、という場合は費用が発生しないかもしれません。しかし通常は、交通費や金融機関の振込手数料や振替手数料等の費用が発生します。
管理を専門に行っている管理会社にアウトソーシングする場合には、管理会社への委託費用が発生します。費用は、管理会社によって異なりますし、任せる物件の数によって異なります。
(3)税金
物件を買った時は不動産取得税がかかります。所有後は、毎年、固定資産税・都市計画税がかかります。
土地の税金は、アパート・マンションなどの場合、部屋1戸当りの土地の面積が200㎡を超えることはほとんどないので、小規模住宅用地の軽減の特例を受けることができる場合が大半ですが、建物の建築費が高額な物件の場合には、築年数が経過していても税額が高額な場合があります。
また、ガレージ等を作り替えたりして償却資産が大きく計上されている場合には、償却資産税がかかることもあります。
(4)共用部分の水道光熱費
水道光熱費は、入居者持ちでは?と思われるかもしれません。ここでいう水道光熱費は、共用部分の掃除に使う水道や電気代、廊下に常時付けている電気の電気代などです。これらは、オーナーが支払います。
(5)テナント募集費用
通常は、不動産仲介業者を通じて、入居者を募集し、内覧、契約の手続までしてもらいます。
物件の宣伝や広告をするかしないかはオーナーの自由ですが、空き室が出た時に、スムーズに次の入居者に入ってもらうために、仲介業者に広告費を支払うのが一般的になってきています。
(6)損害保険料
部屋の中での火事や水漏れなどの損害に備える保険は、入居者が負担する場合が大半ですが、建物本体や設備自体の修繕義務は所有者にありますので、火災や水害、その他の不測の事故による建物の損傷に備えて、損害保険に加入する必要があります。全額自費で支払う場合は不要です。
実質的な利回り
費用の項目が判りましたので、先月みた収益物件での実質的な利回りがいくらになるか確認してみましょう。
部屋ごとの賃料は、次のようになっています。
・奥の端部屋 101、201(計2戸)は、70,000円
・入口側と3階の端部屋 107、207、301、306(計4戸)は、67,500円
・端ではない上記以外の部屋(計14戸)は、60,000円
そして、空室率は、2.8%ですと、利回りは5.83%です。
費用を順番に見てみましょう。
(1)修繕費・修理費
電球の交換や、室内の調理器の取り替えなど 500,000円/年
15年後に全体の修繕をやり直す費用を積み立てる 330,000円/年
(2)管理費
管理会社にアウトソーシングするので、収入の5%
15,000,000円×(100%-2.8%)×5% 729,000円/年
(3)税金
固定資産税・都市計画税 900,000円/年
(4)水道光熱費 150,000円/年
(5)テナント募集費用
平均年2回入れ替わるので、支払いは2回
成約時に月額賃料の1ヶ月分を支払う
15,000,000円÷12ヶ月÷20戸×2戸 125,000円/年
(6)損害保険料 150,000円/年
合計 2,884,000円/年-------B
収益は空室率を考慮すると以下のとおりです。
収益 15,000,000円 ×(100% - 2.8%) 14,580,000円/年-------A
純収益は、A-Bで、 11,696,000円/年-------C
実質的な利回りは、C ÷ 物件価格で求めることができます。
このように、売り出し広告では6%となっていても、実質的な利回りは約4.7%ということが判りました。古い建物の場合には、修繕費が大きくかかってくることもありますし、空室が多くて早く入居率を高くしたい、というときに広告費を増やさないといけないこともあるかもしれません。
低金利の時代ですので、物件をキャッシュで買うという人はあまりいないと思いますが、金融機関からの借入れで購入する場合、手元に残る金額を検討する上でも、実質的な利回りを検討することは重要です。
その他
預り金の額
収益物件の入居者は、入居する時に、賃料以外に、敷金や保証金、礼金、権利金などを、また契約の更新時に更新料を支払っていることがあります。
これらのうち、入居者が退去する時に返還することになっているものについては、売買後は、新所有者が退去する人に返還することになります(通常は、敷金(※)という名目で授受されています。ここでは、まとめて「預り金」と記載します)。
例えば、先月の広告のマンションで、全ての入居者から、敷金を賃料の3ヶ月分預かっているとすると、預り金の総額は次のとおりです。
空き室の賃料月額 67,500円、70,000円
この額は、今後いつか、現在入居している人が退去する時に必ず返さなければならないものです。結構大きな額になることもありますが、物件の売買金額に含まれる場合と、別途精算する場合では利回りが異なってきますので、この点も要注意です。
後者(別途精算)の場合は、問題はないのですが、前者の「売買金額に含まれる場合」は、預り金を返還する債務を含んだ金額が、実質的な物件価格になります。つまり、先月のチラシの例ですと、
となり、実質的な利回りはさらに低いのです。
※「敷金」については、同じ名称でも、一部の地域では賃貸借契約上の商慣習が異なります。「敷引」という慣習がある地域では、賃貸借契約で、敷金6ヶ月・敷引2ヶ月という表現になっていることがあります。この場合には、テナントが入居時に預ける一時金の額は、6ヶ月分ですが、退去時に戻ってくる金額は、4ヶ月分(6ヶ月分から2ヶ月分を差引く)です。したがって、収益物件の売買にあたって精算すべき預り金の額も、4ヶ月分です。
まとめ
いかがでしょうか。これから不動産投資を始めようとする方の大半は、短期保有でキャピタルゲインを得ようとするのが目的ではなく、長期間保有して、インカムゲインを得るのが目的だと思います。表面的な収入の額だけでその物件に飛びついてしまうと、赤字の物件を長期的に抱えることになってしまう可能性があります。
大事なのは、総収入から空室の割合や実際にかかる費用を引いた残りの額の、不動産価格に対する「実質的な利回り」です。
投資用不動産を購入する際は、実質的な利回りを確認するようにしてください。
これらをクリアすれば、安くてお得な収益物件もあるかもしれません。
今月はここまでです。ありがとうございました。