「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
平成29年の地価公示価格が発表になりました。
■地価公示とは
地価公示については、昨年10月のコラム(平成28年の都道府県地価調査基準地の価格が発表になりました。)で概要を説明していますので、そちらをご覧下さい。
平成28年1月からの地価動向
■ H26~H29公示 変動率(圏域別・用途別)の表及びグラフ
上記の表は、ここ4年間の地価変動を示しています。
名古屋圏の住宅地、商業地の平均変動率は、昨年1年の平均変動率よりも上昇幅がやや小さくなっていますが、それ以外のエリアでは、昨年はおととしよりもさらに《上昇幅拡大、下落幅縮小》となっています。
昨年1年間で、世界経済に大きな影響を与えるのでは!?と話題になった出来事としては、イギリスの国民投票でEU離脱が選択されたこと、アメリカの大統領として共和党のトランプ氏が選ばれたことや、欧米でのテロ多発などが挙げられます。
実際、日本でも、イギリスのEU離脱やアメリカ大統領選挙の直後は、株価が急落し、同時に円高になりました。投資の対象として不動産の価格は、株価とも連動していますので、不動産価格も暴落か!?との懸念もありましたが、現実には、超低金利の継続や海外からの旅行者の増価などもあり、東京圏、大阪圏では、昨年よりも商業地の地価の上昇幅は大きくなりました。
今回の地価公示で特筆すべきことは、商業地の地価上昇率上位5位までが全て大阪圏(すべて大阪市内)で占められたことです。私の記憶する過去にはなかったことです。
大阪の商業地の価格上昇要因の主なものは、海外からの観光客などインバウンド需要であると言われています。東京も銀座に観光客が集中していますが、どうしてでしょうか。
これは、海外からの観光客の日本への旅行目的が、爆買いから文化体験へと変化しつつある中で、大阪市内「ミナミ」と呼ばれる地域では、「高級ファッションブランドの店舗」「ホテル等の中高級飲食店舗」だけでなく、併せて「B級グルメの飲食店舗」「歓楽街」までもが狭い範囲に集中して立地していますので、短い時間で一気に体験できるから、とも言われています。
東京都の区部では、全域で下落地点は0になりました。
住宅地では、利便性と住環境を踏まえた区内のエリアで分譲マンションの建設ラッシュ、価格高騰が平成27年から続いていましたので、マンション用地も価格の上昇が続いています。今のところ、低金利が継続していますが、分譲価格が高騰してきていることもあり、やや警戒感が生まれてきています。
一方、東京都内でも、多摩地区では依然地価の下落が止まっていない地域もあります。鉄道の駅から距離があるなどの要因により、下落率が昨年よりも大きくなってしまっている地域もあります。
近年では、地震や水害などの自然災害に対する人々の意識の高まりが、地価に影響するようになってきています。
昨年は熊本地震がありました。災害が大きかった地域では、平成27年中には、ほぼ下げ止まりに向かっていた地域でも、大きな下落となりました。
東日本大震災の被災地では、復興需要や立地の違いによる価格の二極化が進んでいます。
各自治体が積極的にハザードマップを公開していることから、大雨による浸水被害を受けやすい地域や、土砂崩れなどの危険がある地域の土地については、供給は増えていますが需要は減少しています。このような地域では今後も下落傾向が続く可能性が高いと思われます。また、土砂災害に関しては、法令で建築物の構造を規制するようになってきています。今後も比較的交通利便性の高い地域であっても、地盤に高低差や急な傾斜がある土地は建築の規制を受けることがありえます。今後は、自然災害という現象への認識のみではなく、自然災害による被害を防止するための法令や規制に対する人々の意識も高まってくると思われますので、さらに地価への影響も加わってくるでしょう。
今後の地価動向に影響を与えそうなことがらについて
発表されている数値はあくまで過去の取引事例等をもとに導き出された結果を表したものです。現時点の取引の参考にはなりますが、今後の動向を予測する際は、政治・経済・社会情勢等、日々の様々な変化に注意が必要です。
昨年は特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(いわゆるIR推進法(IRは、カジノを含む統合型リゾート))が成立しました。1年以内にIR設置に必要となる法制上の措置(いわゆるIR実施法)が整備される予定です。IR実施法が実現すれば、地価に大きな影響を与えそうです。
また、既に決定している東京オリンピックに向けて、基盤整備が進んでいます。この恩恵を受けて地価が上昇している地域もあります。一方、東京オリンピックに向けて建設業界では慢性的な人手不足になっていますので、全国的に建物の建築費が高くなっています。新築の分譲マンションについても、あまり建築費が高騰すると、一部の富裕層以外の需要者には手が届かない住宅の価格になってしまうこともあり、新たにマンション用地を仕入れるのを待つ動きも出てきました。
2025年の大阪万博誘致の成否や、海外の社会情勢や経済動向も引き続き注視しておく必要があるでしょう。
今月はここまでです。ありがとうございました。