「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
相続税を納める前にチェック
昨今、「相続でもめないように」がよく話題にあがっています。
私がその昔、民法の「親族・相続」の授業を受けた時、教授はこうおっしゃっていました。
「本来、民法は、『亡くなった方の財産をどう分けるかということに関しては、法よりもまずは、亡くなった方に関わっていたそれぞれの人が、故人の生前に故人の生活にどのように寄与していたのかに応じて、家族・親族で話し合って決めましょう。話し合いがつかない場合には、しかたない、法を使って分けましょう』ということを前提としている。だから、法定相続分で分けなければならないということがまずありきではない。」
先日もお話を伺う機会があり、再確認しましたら「そのとおり!」と仰っていました。
それでも、いざ相続が発生し、相続する財産が不動産が主という場合に、相続人である兄弟姉妹でもめてしまうとやっかいです。
Aさんが相談にお越しになりました。
相続された不動産については次のような内容でした。
・父親名義の土地150坪と建物(母屋と離れ)があり、離れはもう何年も空家である。
・土地は、北の一部と南の二方で土地に面しているが、北側の道路への間口は車が1台停められる程度しかない。
・東側の隣接地は、約2m低くなっていて、コンクリートの擁壁になっている。
今、兄弟でどういう話し合いをしているかをお話下さいました。
・Aさんは3人兄弟の次男だが、結婚してからずっとご両親の家に同居し、ご両親の面倒をみてきた。お母様をずいぶん前に看取り、この度はお父様が亡くなった。
・長男のBさんは、独立して別の市にお店を持ち、自宅も別にある。
・三男のCさんは、サラリーマンで実家を離れておられ、実家周辺に戻ってくる気はない。
・Aさんは、この家に長年住んでいるので、母屋にそのまま住みたい。
・本当なら自分(Aさん)がこの土地と建物を全部相続し、他の兄弟に現金で精算するのが良いが、現金はないし、母屋の敷地さえあればいいので、母屋の敷地以外の部分を、長男と三男で所有すればいいと思う。
・長男Bさんは、分割してしまうと、土地値が安くなってしまうかもしれないから、このまま分割せずに売ってしまった方が良いのではないかと言っている。
・三男Cさんは、お兄さん達に従うと言っている。
兄弟3人でああかもしれない、こうかもしれないと話していても、結局は決定的なことである【価格はどうなのか】が解らないので、次のことを確認して早く解決したいとおっしゃいました。
①土地全体で売った方が、分割してしまうよりも高く売れるのか?
②分割するとしたら、長男Bが、離れのある付近がいいと言っている。そこで、次のような分割を考えている。この場合、B地とC地を一体で売った方がいいか、別々に売った方がいいか?
Aさんは、予め土地家屋調査士に依頼して土地全体の実測図を作成されていました。
ご依頼を受けることになり、物件の調査です。
そうすると、実際には図面だけではわからなかった、色々なことが判明しました。
1.B地の中ではないのですが、道路上の対象土地の至近に電柱と支線が設置されていました。
2.南側の道路は東へ下がっていっているため、B地の大半は道路と等高なのですが、A地付近になると若干道路よりも高くなっていています。
3.南側の道は市道ですが、北側の道は周辺の土地の所有者が道路を持ち出している私道です。私道の下にガス管や上下水道管が埋設されているのですが、市役所で「既存の公共下水道管の修理であっても、道路を掘削するときは私道の所有者の同意書が必要」と言われました。しかし、みなさん相互に同意されておられます。
次に、価格水準について調査をしました。
このあたりは、電車で20分程度で都心部へアクセスできる便利な地域で、古くから敷地規模100坪を超える戸建住宅が建ち並んでいた閑静な住宅街だったのですが、最近は40~50坪程度に分割されるようになってきました。100坪を超えると総額が大きくなるため、40坪程度の土地と比べると価格は30%程度安くなっています。
長方形の50坪くらいの土地の価格水準(㎡単価:X円)をベースにすると、全体の価格、B地、C地のそれぞれの価格、B地とC地を一体にした価格(㎡単価)はそれぞれ、次のようになりました。
全体の価格 Xの約70%
B地の価格 Xよりややマイナス。
C地の価格 Xの約80%
B地とC地一体の価格 Xの約70%
単純に単価で比べると、全体で売るより、B地、C地それぞれで売った方が高く売れるとわかりましたが、B地とC地を一体で売った方が良いかどうかは、B地、C地のそれぞれの面積をどうするかで総額が変わってくるという結論がでました。
B地とC地の単価が違うので、総額がほぼ同額になるようにB地、C地のそれぞれの面積を割り振ると、B地の面積は小さくなりますが、長男Bさんは納得されました。三男のCさんは、初めにおっしゃった「お兄さん達に従う」という意見に変更はありませんでした。
その後、測量も済まされて、無事に分割協議が整いました。
相続人の誰かが率先してとりまとめるのは良いことなのですが、ともすれば「自分への利益誘導じゃないか?」などという疑心暗鬼を生じさせることがあります。
幸いにも私に直接ご相談いただいたケースは、まだもめ事にはなっておらず、相続人全員が「分けたいけれど、金額がわからないから相談しよう」と意見が一致している場合や、自分はその遺産の分割には関係ないけれども、他の相続人がもめるのは望ましくないので、あらかじめ相談しておく、というような場合でした。
相続人・被相続人となる皆さんで早めに専門家にご相談いただくことが、もめることなく円満に相続手続きを終わらせる早道だといえます。
vv