相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
相続税と所得税の狭間(基礎編)
相続と確定申告
相続税の申告相談の際に、
「確定申告もしないといけませんか?」
「主人の扶養には入れないのでしょうか。」
更には、
「国民健康保険、相当高くなるのでしょうか。」
などのご質問を受けることがあります。
遺産相続をしただけの場合は、相続人が確定申告する必要は原則ありません。
もちろん、扶養にも入れますし、健康保険料が上がることもありません。
相続税と所得税、どちらも税金ですが、税法も税金の計算の仕方も全く違います。
所得税は、個人の1年間の所得に対してかかる税金であり、「収益」に対するものというイメージでしょうか。
それに対して相続税は被相続人の財産の承継に対してかかる税金で、「財産の偶然な取得」に対するものとされており、所得税法上の「所得」とは分けられているのです。
相続税の課税財産(死亡保険金などのみなし相続財産を含む)に計上されるべき取得財産は、所得税上の「所得」ではないのです。
相続後の所得は、相続人の所得
それでも、所得が発生し確定申告が必要となり、扶養親族になれず、社会保険料も上がってしまうこともあります。
ある日の税務署でのやりとり。
職員 「相続された〇〇市××町▲▲番の土地の売却について無申告になっているようですが」
相続人「相続税を申告しましたよ。税金もちゃんと払っていますけど。親の土地のままでは遺産分けも難しいので、売って現金にして相続人全員で分割しただけです!」
職員 「相続税と売却に対する所得税は課税が別です。被相続人が昔に購入した金額から値上がりした分に税金がかかることになりますので申告が必要ですよ。」
相続人「なら、預貯金を同じ額だけ相続した人はどうなんですか?」
職員 「その方は、資産の売却がなければ、所得税はかかりません。」
相続人「親の財産をもらったことに変わりないのに、納得いかないよ。」
相続が開始すると日本の法律では、亡くなった方は権利の主体となることはできません。
もちろん、亡くなった方が資産を売却することなど不可能。
ところが、「母の土地を売った」「父の貸家の収入」というイメージをもっている方が少なからずおられます。
相続開始後、前出の税務署での相続人の方のように、売却して譲渡益が発生したり、貸し付け物件の家賃収入があった場合(仮に相続による名義変更をしていないとしても)には、その収益はすべて相続人に帰属します。ですから、所得税の確定申告が必要になってくるのです。
申告が必要になるケースをいくつか例示してみましょう。
1、相続した遺産を売却した場合
相続した不動産や株式などを売却し、利益が出た場合には、売却益に対して所得税がかかります。
相続した遺産の換価分割もこれに該当します。
換価分割とは、遺産を売却し、現金化して分割する手法ですが、相続人により売却したことになってしまいます。
前出の税務署でのやりとりはまさしくその例です。
(2022年10月号 相続と確定申告part1でも上場株式の譲渡申告が必要な場合をご紹介しています。)
資産を譲渡した日の翌年、3月15日までに確定申告が必要です。
2、収入が生じる遺産を相続した場合
賃貸マンションやアパート、駐車場などの賃貸不動産を相続した場合、相続発生日以降の賃貸収入は所得税の確定申告の対象です。
遺産が未分割の場合は、法定相続分で申告することになります。
3、相続した遺産を寄付した場合
不動産や株式の寄付を行う場合、通常は譲渡所得の対象となり、上記1の場合と同様に、先代が取得した価額より時価が値上がりしていれば、所得税の申告が必要です。
一方、相続税の申告期限までに、国地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人や認定NPO法人に寄付した場合は、その財産や支出した金銭は相続税の対象としないことになっています。
(譲渡所得も非課税となる特例もありますが、これらの特例等の詳細は、2021年5月号、6月号、8月号で、税理士の田中から説明しておりますので、そちらに譲らせていただきます。)
寄付金は、相続税だけでなく、所得税でも寄付金控除の適用を受けることができます。所得税の負担が軽くなる場合は、忘れずに確定申告したいですね。
また、意外と知られていないのですが、ふるさと納税は、地方公共団体への寄付ですので、所得税の寄付金控除だけでなく、相続税の非課税対象となる寄付金でもあります。相続税の申告期限内にふるさと納税をするという検討も「あり」といえるのではないでしょうか。
4、公的年金の未支給年金などを受け取った場合
厚生年金などの未支給年金は、受け取った相続人の一時所得の取り扱いになります。(企業年金などで相続財産になるものもあります。)
ただし、一時所得には50万円の特別控除がありますので、申告不要な場合がほとんどかと思われます。
未支給年金以外にも一時所得があれば、合算して計算すると、確定申告する必要があるかもしれません。
* 死亡保険金などを受け取った時でも、相続税ではなく、保険金の負担者や、保険金の受取人の実態により、所得税や贈与税の申告が必要な場合があります。2022年4月号「みなし??相続財産って相続財産じゃないの?」を参照してください。
次回は、相続税法と所得税法の居住用不動産の特例関係について少しお話したいと思います。