相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
やっぱり、気になる相続税調査
税務署の新年度(?)の切り替え時期をご存じでしょうか。
「公的機関なのだから、4月じゃないかな?」と思われる方も多いかもしれません。
所得税の確定申告期限は3月15日、消費税の申告期限が3月末なので、その事務処理もあります。さすがに、それは無理。
それもあってか、税務署は少し特殊で『事務年度』という区切りを使っています。
7月から始まって、翌年6月までの期間で1年間。これを1事務年度としています。
そのため、人事異動もほとんどの職員が7月に異動となります。(一部では4月異動の人事もありますが)
税務署では、6月下旬から7月上旬にかけては、残務処理や引継ぎなどで少々混乱気味といえます。もし、税務相談窓口などを利用される場合には、急ぎの案件でなければ、少しずらして落ち着いた時期が良いかもしれないです。もう一度、同じ担当官に相談しようとしても「転勤しました。」なんていうことになりかねませんので。
ということで、もうすぐ「令和5事務年度」が始まります。
税務調査も7月スタート。受験勉強ではないですが「傾向と対策」から。
先ずは、調査の傾向はどうかというと、国税庁は毎年12月に、前事務年度の調査件数等を「令和○事務年度における相続税の調査等の状況」として発表しています。
昨年令和4年12月に発表された令和3事務年度(~令和4年6月までのもの)からさかのぼって、数年間の調査件数等の動向を表にしてみました。コロナ禍の影響が、色濃く出ているのが特徴的です。
相続税の調査と簡易な接触の状況
実地調査とは、文字通り、税務職員が自宅などに訪れて実地に調査する手法で、簡易な接触とは、文書や電話での連絡又は、税務署での面接(いわば呼び出し)で処理されることです。
実地調査の件数は、コロナ前の平成30事務年度と比べて令和元事務年度85.3%、令和2事務年度41.0%、令和3事務年度50.7%と軒並み減少しています。
簡易な接触の件数は、実地調査件数が激減した令和2事務年度132%、令和3事務年度142.6%と反対にコロナ前より大きく件数が増加しているのが見て取れます。
一見すると、実地調査と簡易な接触の件数をあわせると、平成30事務年度と比較しても、順に84.5%、82.2%、92.3%とそれほど落ち込んでいないようにも見えます。
ここが数字のマジックなんです。国税庁の言い方では「非違件数」、申告漏れを指摘されて修正申告や期限後申告を提出しないといけなかった件数の事ですが、これも表にしてみました。
非違件数の状況
平成30事務年度との比較において、元年が87.5%はともかく、令和2事務年度は58.7%、令和3事務年度は70.7%と明らかに低調だったのです。「やっぱり、実地調査しないとなあ」と、おそらく国税庁でも分析しているのではないかと思います。(なお、令和4事務年度は、令和5年6月末までの集計となりますから、12月まで発表が無いのですが、少しは、コロナ前に近づいているのではないかと思われます。)
さて、これから始まる「令和5事務年度」、当然の流れですが、実地調査を「コロナ前の水準」に戻すことが命題とされるはずです。
実地調査件数は、確実に増えることになるでしょう。また、簡易な接触については、近年国税庁が進めている「内部事務のセンター化」という施策によって、集中的に文書発送を行っているので、これも減少する要素はないと思われます。
結局のところ、相続税調査等は、増えるということです。
「調査対象になるのは、どんな案件?」
ここが、皆さんが最も気になっておられるところではないでしょうか。
令和5事務年度の調査等の対象となるのは、令和3年中に開始した相続分が中心となります。ただ、コロナ等で、計画していた調査ができずに繰り越されていることも想定されますので、一部令和2年中に相続開始したものも対象とされるかもしれません。
また、申告義務があるにもかかわらず無申告ではないかとの想定で対象となる場合は、前倒しで令和4年の前半の相続について何らかのアプローチがされることもあります。
*申告期限4か月前頃に税務署から届く「相続についてのお尋ね」は申告案内です。「相続税申告の必要はないですか?」という啓発のためと位置付けされていますので、ここでいう簡易な接触等には当たりません。
相続税を申告する場合は、そのままにしておいて何ら問題ありませんのでご安心を。
また、相続税の申告が不要な場合は、その旨を同封された回答用紙に、所定の項目を記入して返送をしてほしいという内容になっています。
調査対象となる基準は、相続税の場合、故人の財産構成や経歴等が全く違うので一概には申し上げられませんが、すべてを実地調査することは不可能ですので
① 遺産が高額
② 高額所得者(過去の所得や譲渡所得を含む)
③ 税務当局収集資料
④ その他
などが優先されます。
上記①や②は当然といえば当然です。
税務資料③については(後日その一部をご紹介する予定です)、申告内容とのチェックをして問題があればこれも調査対象になります。
その他④については、以前ご紹介した精算課税申告漏れや(2022年7月号)、現金出金が多い(2023年4月号)、家族名義資産の確認が必要な場合(2022年8月号)、同族会社との関連、等々、①~③までとあわせて複合的に対象とされます。
私も相続税申告書を作成する前には、調査対象とならないようにヒアリングを十分させていただきます。それでも、お亡くなりになった方のことですから、相続人の方々にも我々税理士にもどうしてもわからないところもあります。それは仕方がないことです。
無駄に怖がる必要はありません。税理士は、調査対応のための存在でもあるのです。
もしも、「これ、申告しなくてよかったのかな?」「こんな書類出て来たんですけど」など、心配になったときは、早めに税理士に相談して是非すっきりしてください。