相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
ゴルフ会員権の預託金について
預託金制のゴルフ会員権
ゴルフ会員権には、預託金制・株主制・社団法人などの種類がありますが、日本のゴルフ場の80%以上は、会員がゴルフ場経営会社に一定の金銭を預託し、会社は会員に対してゴルフ場施設を継続優先的に利用させるという契約をしている預託金制のゴルフ会員権です。
なんでいまさらゴルフ会員権
ゴルフ会員権の権利とは、一般ユーザー(ビジター)よりゴルフ場を優先的に利用できる権利・また、預託金を据置期間が経過後、償還してもらえる権利の二つの権利をいいます。その権利を書面として証書に記載した物が会員権証書です。
上記会員権証書には、「日本税務総研殿 上記金額を入会預託金として確かにお預かりいたしました。上記金額は据置期間(ゴルフ場によって違う)満了後、退会時には償還いたします。」という様な内容が記載されています。
最近、このようなゴルフ会員権証書を見て、このゴルフ会員権証書の相続税評価額は1,800,000円と思ってしまう相続人の方が続きましたので、遠い昔のバブル景気を思い出しつつ、以下のようにご説明させていただきました。
預託金償還請求問題
相続人の方々は会員権証書を見て、据置期間が経過すると退会時に額面金額が返ってくるはずだと思われたのでしょう。
確かに、会員権証書に記載されている預託金はゴルフ場を造る際の新規会員募集においてゴルフ場に預託した預託金額を示しており、これは所定の期間を経て所有者に返却されるものです。
しかしながら、会員権証書に記載されている預託金はゴルフ場を造成し維持していくために使われ、赤字経営である多くのゴルフ場は預託金が償還できずにいるのが現状なのです。
日本がバブル景気時にはゴルフ人口も多く、ゴルフ会員権は、ゴルフ会員権市場でこの預託金以上の金額で取引されており、ゴルフ場運営会社は、預託金償還請求があったとしてもその預託金償還請求があった会員権を再度市場で売却するなどして資金を調達することができた(実際にはゴルフ会員権所有者は、預託金償還請求をせずに市場で売却した方が利益が大きいため預託金償還請求をしなかった。)のですが、バブル崩壊と共に相場が下落したことや若者のゴルフ離れによるゴルフ人口の減少もあり、ゴルフ会員権を持っている方は、誰も市場で換価しようとはしなくなり、据置期間が経過したら、ゴルフ場に預託金の償還を請求するようになったのです。
預託金制のゴルフ会員権の売買
預託金制のゴルフ会員権の売買は、会員権証書に記載されている預託金とゴルフ場を会員として利用できる優先的利用権をセットで譲渡人から譲受人に売買するもので、この預託金は次へ次へと新しい会員に引き継がれるものです。よって、この預託金をゴルフ場から返還してもらうということは、ゴルフ場を会員として利用できる権利をゴルフ場に返すということですので、預託金を返してもらい会員権を他の方へ売却するということはできません。
なお、ゴルフ場によっては、ゴルフ会員権を購入して会員になる時に、名義書換料の他に入会預託金や名変預託金といった名称のもの(一般的にはまとめて「入会預託金」と呼ばれています。)が必要になります。この入会預託金制度のあるゴルフ場の会員権を売買する際は、「入会預託金」は売主(退会者)に返還され、買主(入会者)は新たに収めることになります。
例外はありますが、預託金制のゴルフ会員権の売買は上記の2パターンで成り立っています。
ゴルフ会員権の評価
相続税の評価を定めた財産評価基本通達は、取引相場のあるゴルフ会員権の評価について、要旨、取引相場のある会員権は、課税時期における通常の取引価格の70%に相当する金額によることとして、取引価格に含まれない預託金等があるときには、その返還を受けることができる預託金等を前述の取引価格に加算して評価する旨定めています。
ここで勘違いがよく起きてしまうようです。ここでいう「返還される預託金等の額」というのは、通常の取引価格に含まれ売買されたとき買主へ移行してしまい返還されることのない会員権証書に記載されて取引価格に含まれている預託金ではなく、売却したときにゴルフ場から返金を受けることができる入会預託金を指しているのです。会員権証書に記載されている預託金を考慮する必要はありません。
相続税の評価を定めた財産評価基本通達が取引価格に含まれる預託金と取引価格に含まれない預託金も同じ預託金として記載しているため分かりづらいですが、「返還される預託金等の額」とは売却時に売却代金とは別に返還される預託金とイメージしていただければ分り易いと思います。
誤解を恐れずにいえば、相続したゴルフ会員権を相続開始日に通常の取引価格で売ったら、売った金額の70%とゴルフ場運営会社等から返還を受けることが出来る金額(一定の期間経過後に受け取ることが出来るものを含む)の合計がゴルフ会員権の評価となるということです。
通常の取引価格とゴルフ場運営会社から返還を受けることが出来る金額の調べ方
ゴルフ会員権の相場は、インターネットで調べることができます。その際には1つのサイトだけでなく複数のサイトを比べて平均的な数値を選択するのが無難でしょう。通達が「通常の取引価格」と定めていることから、異常な取引価格を参考としないようにするためです。課税上弊害がなければ、各サイトの平均をするなんてことはしなくてもいいでしょう。
また、インターネット上のゴルフ会員権の相場表に入会預託金等が表示されているものもありますが、入会預託金についてはゴルフ場運営会社に問い合わせをして返金の有無を確認するのが確実でしょう。
専門家へ相談
被相続人がゴルフ好きで会員権をお持ちであったとしても、その相続人がゴルフ会員権の仕組みに詳しいとは限りません。取引相場がない場合や、新しい形態の会員権や分割の有無等から同一の銘柄のゴルフ会員権であってもその評価が異なってくる場合も想定されます。
ご自身で判断ができなければ無理をせず、転ばぬ先の杖、信頼できるベテラン税理士を見つけて相談なさることをお勧めいたします。
また、相続人の手間とゴルフ場の年会費を考えると、持っているが利用していないゴルフ会員権があるのであれば、預託金の返還請求や売却を検討すべきでしょう。
ゴルフ会員権を譲渡したことによる損失は、他の所得から差引くことはできませんが、総合課税の譲渡所得となる資産(金地金、宝石、書画骨董、借家権など)の譲渡による利益からは差引くことができます。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。