相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
相続人以外の方が遺贈を受けた場合、相次相続控除の適用はありません!
相次相続控除とは、前回の相続において課税された相続税額のうち、一定の金額(1年につき10%の割合で逓減した後の金額)を今回の相続に係る相続税額から控除しようという相続税法上の制度です。
例えば、父親が3年前に亡くなり母親が財産を相続して、今度は母親が亡くなったというような場合、同一の財産について2回も相続税の課税を受けることになり、相続人の負担が大きくなります。
そこで、上記の例で説明すると、最初の相続である父が亡くなったときから(1次相続)、2回目の相続の母が亡くなったときまで(2次相続)が10年以内の場合、1次相続で払った相続税の一部を差し引く事ができるのです。
相次相続控除を受けるための要件
この控除を受けられるのは、次の全てに当てはまる人です。
1 被相続人の相続人であること
相続の放棄をした人及び相続権を失った人がたとえ遺贈により財産を取得しても、この制度は適用されません。
2 2次相続の開始前10年以内に開始した1次相続により2次相続の被相続人が財産を取得していること
3 2次相続の開始前10年以内に開始した1次相続により取得した財産について、被相続人に対し相続税が課税されたこと
そうすると、1次相続で相続税が発生していなかったのであれば、この制度を適用することは出来ません。なお、ここでいう財産の取得には、相続や遺贈、相続時精算課税制度を利用した贈与が含まれます。
※ 遺贈とは、遺言によって、遺贈者(遺産を贈る側)の財産の全部または一部を、受遺者(遺産を受ける側)に無償で譲与することです。受遺者には法定相続人以外の人もなることができます。
相次相続控除の適用ができないケース
被相続人(亡くなった方)が遺言書を残しており、相続人ではない人が財産をもらうといったようなケースがあります。(子がいる場合の孫、甥・姪やいとこなどのケース)。
相続人ではない人が財産を取得した場合は、相次相続控除の適用はありません!
被相続人の相続人であること
被相続人の相続人とは、民法第五編第二章の規定による相続人をいいます。
したがって、上記例2のように、相続人ではない孫が財産を取得した場合は、相次相続控除の適用はありませんが、同じ例の場合で子が妻より先に亡くなっており孫が相続人となるときには、相次相続控除の適用があることになります。
文書回答事例
民法に詳しい方は、「包括受遺者は民法990条で相続人と同一の権利や義務を有していると規定されている。」ことから、包括受遺者も相次相続控除を受けることができるのでは?とお考えになるかもしれません。
国税庁はこの点について、文書回答事例「相続人以外の者が包括遺贈により財産を取得した場合における相次相続控除の適用の可否について」で以下のように説明しています。
国税庁文書回答事例要旨
相続税法の規定の中には「相続人」に包括受遺者を含む旨を規定しているものがありますが(相続税法第1条の3第2項、第14条第3項、第21条の17第1項、第27条第2項)、相次相続控除の規定である相続税法第20条は、そのような規定にはなっていません。このことからすれば、相続税法は、「相続人」と「包括受遺者」を別に扱っているものと考えられます。
そして、「包括受遺者」は「相続人」と同一の権利義務を有するものの、財産の取得に被相続人の遺言を要する点で「相続人」と異なることからすれば、相続税法において両者を別に扱っていると解することも適当であると考えられます。
この回答は、税法の趣旨・目的に合うように解釈する方法と他の法律の定義と同一と解釈する(借用概念)方法のいずれもカバーしており、隙がありませんね。
まとめ
遺贈により相続人ではない人が財産を取得した場合は、相次相続控除の適用はないことになります。遺贈が包括遺贈、特定遺贈のどちらであってもこの結論は変わりません。
最近では、独身のまま過ごされている方や子供がいらっしゃらないご夫婦が、世話を掛けた或いは掛けるであろう甥や姪に遺言で財産を遺そうとする場合も多いので、ご自身が2次相続の被相続人になる可能性があるのであれば、受遺者の負担等を考えて養子縁組や早めの贈与等を検討するのも一考でしょう。遺せる財産が多ければ、受遺者に喜ばれます。
遺言書を作成するときや作成後に財産に変化があった際には、転ばぬ先の杖、ぜひ経験豊富なベテラン税理士にご相談ください。ご相談者様、受益者様に有益なアドバイスがある筈です。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。