相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
相続と確定申告 part2
「相続する」となると、「故人を偲ぶ」という大切な時間を持つことさえ難しいくらいに、ご葬儀や法要が重なり、遺産分割の手続き、相続税の申告などに追われているように感じられる方も多いかもしれません。
事業を引き継がれる方は、更にご多忙なのではないでしょうか。
所得税や消費税の税金関係の届出書には、期限のあるものも多く、その期限までに提出されていないと控除などが受けられなくなることもあります。特に、新たに個人事業主になられる方は注意が必要です。
ケース2
『親父のあとをとって、お好み焼き屋、個人でしてんねんけど、お好み焼く腕は前から俺の方が上やったから、お客さんは離れてへんし、おかげさまで商売はまあ大丈夫です。
けど、親父は死ぬまで「カネ」と「帳面」は、自分で離さんかったから、準確定申告するのは、ホンマ大変やった。やっと終わってホッとしとるとこですわ。雇われの身じゃなくなって、この店の「大将」って呼ばれるようになったことやし、気張らなあかんて思てます』
よっ、若大将! お疲れ様です。お商売うまくいって何よりです。
税務署に対してお父様(被相続人)の準確定申告(提出期限:死亡後4カ月以内)も済まされたようですね。それでは、お父様の個人事業や消費税の事業廃業届出などの提出も終わられていることでしょう。(実際には、準確定申告書を提出した段階で税務署も廃業の把握ができるので、廃業届などが提出されていなくても大きな問題はないと思われます。)
!! 安心するのは、まだ早い !!
「ご自身」の手続きはお済でしょうか。個人事業の場合、税務上は必ずしも、従前のお父様の届け出で認められたものがそのまま引き継がれるわけではありません。
このケースの若大将のように今まで従業員であった方や、相続によってはじめて事業を継承した場合には、次のような届出書が必要です。
所得税関係
○『個人事業の開業届出書』
開業(被相続人の死亡)後1カ月以内に、事業を承継した相続人の納税地の所轄税務署長に提出します。(1カ月を過ぎていても、受付されます。)
○『所得税の青色申告承認申請書』
この届出は、提出期限がありますので、”要注意”です。
亡くなったお父様が青色申告者だった場合でも、その事業を承継した息子さん(相続人)は、自動的に青色申告者とはなりません。このお好み焼き屋さんの若大将が青色申告するためには、以下の期限までに『青色申告の承認申請書』を提出しなければなりません。
1日でも遅れてしまうと、その年の申告は、白色申告しかできなくなってしまいます。
相続開始日 | 青色申告の承認申請書提出期限 |
1月1日~8月31日 | 死亡後4カ月以内(準確定申告書の提出期限) |
9月1日~10月31日 | 12月31日 |
11月1日~12月31日 | 翌年2月15日 |
○その他の届出書
事業を引き継いだ人が、新たに給与を支払うこととなった場合は、源泉所得税関係として『給与支払事務所等の開設届出書』や源泉所得税を半年ごとの納付とするためには『源泉所得税の納期の特例の承認に関する届出書』が必要となります。青色事業専従者に給与を支払う場合には『青色事業専従者給与に関する届出書』が必要となります。これらも、提出した日が関係する届け出ですから、税務署や税理士に確認しましょう。
消費税関係
○『消費税課税事業者届出書』
『相続があったことにより課税事業者となる場合の付表』
今まで、若大将は、従業員でしたが、相続により課税事業者であった亡くなった先代の事業を承継したため初めて事業者になったこととなります。この場合は、消費税の納税義務は免除されないことになります。㊟
相続の場合は、被相続人の売上高も基準期間の売上とされるためです。
㊟消費税は、前々年(基準期間)の課税売り上げが1,000万円を超えるかどうかが納税義務の有無を判定する基準となります。そのため、相続などでなく、起業などで初めて個人事業者になる場合は、2年前の売り上げがないので、開業年やその翌年は納税義務が免除されることとなります。
○『消費税簡易課税制度選択届出書』(原則的な一般課税で良ければ提出不要)
消費税課税事業者届出書を提出する相続人が、簡易課税制度の適用をしようとする場合には、相続のあったその年の12月31日までに提出します。
通常(相続でない場合)は、簡易課税制度の適用を受けようとする年の前年の12月31日までに提出しなければなりませんが、相続の場合は届出書を提出すれば、相続の年から選択することが可能となります。
同じ相続による事業継承ですが、所得税は、どちらかというと新規の事業者としての取り扱いとなりますし、消費税は、先代の売上が影響するなど、税法により取り扱いのニュアンスが異なりますので分かりにくいかもしれません。
申告や税金は、これからの事業に影響するものですので、届出を期限内に完了させるなど、基本的な部分にしっかり対応していくことが大切です。