相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
空き家の税金~アメとムチ
「空き家問題」がクローズアップされてから、久しいです。
昭和の中頃までは、住宅がそもそも足らなかったのですが、昭和43年(1968年)ごろになると、やっと全国の住宅件数が世帯総数を上回りました。
そして、高度成長期が完了する昭和48年(1973年)には、どの都道府県でも、住宅総数が世帯総数を上回るなど、充実していったのです。
ところが近年、空き家総数は、30年間(1988年~2018年)で1.5倍(849万戸)に増加しています。そのうち、居住目的のない空き家(別荘や賃貸用・売却用を除いたもの)は、1.9倍(349万戸)に膨れ上がってしまいました。更に、349万戸のうち、240万戸が戸建木造で7割近くをしめているのです。
そのまま「なんとなく空き家」にしているのは、あなただけではなく、何百万人もおられるという現実なのです。
アメ「空き家特例」の新設 (関連コラム2021年12月号)
【アメ①】
平成28年4月1日から、平成31年12月31日までの間、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」―いわゆる空き家特例―が新設されました。
当時、私は税務署職員でしたが、税理士会の支部での研修講師として、この新しい税法を説明しました。国土交通省の資料も参考にしたことを覚えています。
「ついに、国も空き家に本腰を入れたな。」と思いました。
「空き家特例」は、被相続人が一人暮らしで相続後は空き家になってしまう場合にしか使えない特例です。また、建築基準法での旧耐震基準に該当する昭和56年5月31日以前の建築分のみに適用となります。古い空き家の除去を目的としていることは明らか。
既存の居住用の特例は、自分が住んでいた場合しか使えませんので、平成28年4月以前の譲渡なら、相続物件に居住用の特別控除額は全くなかったのです。
また、所有者(相続人)と居住者(被相続人)が違うにもかかわらず、特別控除額が既存の居住用の特例と同じ3,000万円になったことにも少し驚きました。
【アメ②】
空き家特例は平成31年末までが期限となっていましたが、令和5年12月31日まで4年間延長されました。
その時に、特定事由という考え方を導入しました。
一定の条件はあるものの、要介護等で老人ホーム等の施設に入所後亡くなられた場合などは、施設入所直前の居住状況で判断し、特例の対象に追加されたのです。
例えば、自宅で一人暮らしの方が要介護になり、特別養護老人ホームに入居して、5年後にお亡くなりになった場合。
施設入居の直前で判断するという改正がされたことにより、空き家特例が受けられることになりました。(ほかの条件はクリアしているという前提ではありますが)
施設で5年後もずっとお元気だった場合の売却であれば、居住用の特例の条件である「転居後3年を経過する年末までの譲渡」でないため、3,000万円の居住用の特例は受けられないということになってしまいます。
ある意味、本家本元の居住用の特例よりも、条件が甘い部分さえできたということです。
【アメ③】
令和5年12月31日までの適用でしたが、一部改正されて、令和6年1月1日から令和9年12月31日まで更に4年間延長されました。
従来は、売主側が居宅に耐震基準に適合するように追加工事を行うか、取り壊して更地にするかを売却までにやらなくてはなりませんでした。
実はこの工事が、近隣や相続人同士の関係、譲渡前の費用の工面、遠方に居住しているなど、いろいろな理由からネックとなっている場合は、少なくなかったのです。
何と言っても売主側は、不動産の素人がほとんどですから。
令和6年1月1日以降の売却の場合は、譲渡後から翌年の2月15日までに、耐震工事や取り壊しをしても特例が認められるようになります。
ということは、当然買主が取り壊す(工事をする)ということです。
契約書上で、取り壊し等の取り決めをした上で、確実に履行されなくてはならないのは言うまでもありません。けれども、買主側は、不動産のプロということが多いですし、家屋の取り壊しも手慣れたものでしょう。
売主側の実務上の手間や心理的な負担は相当軽減されるので、取り組みやすくなるのではないでしょうか。
ただし、今回の改正では、この空き家やその敷地を取得した相続人が3人以上である場合、特別控除額が相続人各人の上限は2,000万円とされています。
ムチ?! 「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下空家法)
この原稿を執筆している折も折、空家法の改正案が、6月7日の参院本会議で可決、成立したというニュースが飛び込んできました。
「空家法」はそもそも、平成27年(2015年)に施行された法律です。
放置すると倒壊の恐れがあるなど特に危険性が高い空き家を「特定空家」に指定し、最終的には地方公共団体が撤去までできるようになったのです。
また、勧告により固定資産税の減免が受けられなくなるというデメリットもありました。
固定資産税の制度として、空き家でも住宅として固定資産税と都市計画税が減免されています。それが、更地にしない理由となり、建物敷地の有効活用を阻害しているという専門家の意見もありました。 (固定資産税が上がるのは誰でも嫌ですものね…。)
*税額の減額は次のとおり。
住宅用地のうち
200㎡以下の部分(小規模住宅用地) 固定資産税 1/6 都市計画税 1/3
200㎡超の部分(一般住宅用地) 固定資産税 1/3 都市計画税 2/3
しかし、空家法の施行後も、空き家は一向に減ることもなく増え続ける一方。
その間にも、一部は放置されて年々老朽化し、防災性・防犯性の低下、不法投棄、衛生問題、景観の悪化等々の問題発生につながって、ついには「特定空家」となってしまう恐れがありました。
今年3月の空家法の改正が閣議決定されたとき、斉藤国土交通大臣は、「今後さらに空き家が増加すると見込まれる中、対策強化が急務となっている。特定空家になる前にしっかり手を打ち、活用を進めていく」と述べました。
それをうけて、今回の改正後は、概ね次のとおりの流れとなります。
〇放置すれば、「特定空家」になる恐れがある物件を新たに「管理不全空家」に指定。
〇管理指針にそって市区町村長から助言・指導し、適切な管理を求める。
〇助言・指導に従えば、勧告をうけることはない。(固定資産税は上がらない。)
〇助言・指導等に対する適切な対応が無ければ、勧告をうけることになり、固定資産税の住宅用地特例(1/6等に減額)を解除。
〇固定資産税は、1月1日が基準日となっているので、勧告の翌年から固定資産税が高くなる。
いうなれば、「管理できなければ、税負担を増やすぞ」という”ムチ”の施策と言えるでしょう。
なお、「管理不全空家」に判断される基準などは、順次詳細が詰められて、12月の法律が施行されるまでには明らかになると思われます。
アメの「空家特例」のほうは、相続後3年を経過する年末まででないと効果はありませんから、遺産分割協議を行う際など、早い段階からの検討が重要です。
それを過ぎて、そのままになっていた「なんとなく空き家」についても、方針を考えなくてはいけない時期に来ているのかもしれません。