相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
「相続開始前3年以内の贈与加算」の適用を受ける人・受けない人?
暦年課税を活用した贈与は、最も一般的な相続対策です。その理由としては、以下(1)から(5)のとおりです。
(1)贈与税の暦年課税は、財産をもらう人に110万円の基礎控除がある。
(2)110万円以下の贈与には贈与税がかからない。
(3)毎年、相続人のみならず法定相続人以外の人へ贈与することができる。
(4)相続財産を減少させることができる。
(5)相続税と贈与税を比較した場合に有利であると考える人が多い。
このため、相続対策として贈与税の暦年課税を適用して生前贈与を行う人が多いのです。
「相続開始前3年以内の贈与加算」とは
次に贈与税の暦年課税を適用して、贈与してくれた人(以下「贈与者」といいます。)の相続が開始されるまで生前贈与を行うと仮定します。
この場合、財産をもらった人(以下「受贈者」といいます。)は、贈与者の死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間にもらった財産の贈与時の価額を、贈与者の相続税の課税価格に加算しなければなりません(以下この制度を「相続開始前3年以内の贈与加算」といいます。)。
これは、贈与税が相続税の補完税であることから、相続税を回避することだけを目的として、相続開始直前に駆け込みで生前贈与をすることを防ぐ目的で規定されているものです。
上記を基に更に具体的な【例】として、以下のように贈与があり、贈与者が平成31年4月12日に亡くなったと仮定します。
受贈者は平成28年8月贈与120万円、平成29年7月贈与100万円及び平成30年5月贈与150万円の合計370万円を、贈与者の相続税課税価格に加算することになります。
平成31年4月12日における贈与者の財産が現金8,000万円のみとした場合、贈与者の相続税課税価格は、相続開始前3年以内の贈与財産370万円を加算した8,370万円となります。
「相続開始前3年以内の贈与加算」の適用を受ける人
ところで、この相続開始前3年以内の贈与加算は、受贈者すべてに該当するのでしょうか。
相続開始前3年以内の贈与加算の適用要件を正しく解釈すると、
「相続又は遺贈(以下「相続など」といいます。)により財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産を加算する。」
となります。相続開始前3年以内の贈与加算は、相続などにより財産を取得した人を対象としているのです。
「相続開始前3年以内の贈与加算」の適用を受けない人
相続開始前3年以内の贈与加算は、相続などにより財産を取得した人を対象としているため、法定相続人以外の孫や実子の配偶者などは、遺贈や代襲相続などがない限り相続などにより財産を取得しないので、相続開始前3年以内の贈与加算を適用する必要がありません。又法定相続人であっても、相続放棄した人や遺産分割で財産を取得しないとした人も相続開始前3年以内の贈与加算を適用する必要がありません。
但し、相続などにより財産を取得という文言には、相続税法3条に定めるみなし相続財産(以下「みなし相続財産」といいます。)を取得することも含まれています。
このため、みなし相続財産を取得した人は相続開始前3年以内の贈与加算を適用する必要があるのです。
なお、ここでいう財産は、相続税法上の課税財産(非課税ではない財産すべて)と非課税財産(課税価格に算入しないもの)両方を指します。
つまり、相続開始前3年以内の贈与加算の適用を受けない人は、法定相続人以外の人ではなく、相続などにより財産(みなし相続財産、相続税の非課税財産を含む。)を取得していない人となり、「相続開始前3年以内の贈与加算」の適用を受ける人は、相続などにより財産(みなし相続財産、相続税の非課税財産を含む。)を取得した人となります。
みなし相続財産の受取人が被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けている場合
みなし相続財産とは、以下(1)から(6)のとおり契約などによって指定された受取人に対して支払われるものです。
(1)生命保険金
(2)退職金
(3)生命保険契約に関する権利
(4)定期金給付契約に関する権利
(5)保証期間付定期金給付契約に関する権利
(6)契約に基づかない定期金に関する権利
上記の【例】で、受贈者が相続などにより財産(みなし相続財産、相続税の非課税財産を含む。)を取得していない場合、相続などにより財産を取得した人は贈与財産を考慮しないで相続税の申告納税をすれば良く、受贈者は相続税の申告をする必要はありません。
みなし相続財産は契約などによって指定された受取人に対して支払われるものですから、法定相続人以外の人にも支払われる可能性があるのです。
みなし相続財産の受取人が被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けている場合、みなし相続財産の受取人と法定相続人らは、相続税の申告をするため、それらを把握し、相続税の申告書に反映させる必要があります。仲の良い人であっても、お互いがそれらを理解し実行することは難しいでしょう。
相続開始前3年以内の贈与財産は、ベテランの税理士がみなし相続財産の基となる契約などを確認、ヒアリングや見直しをしないと申告から漏れてしまうことが多々あります。
転ばぬ先の杖、ぜひ、相続税対策にはベテラン税理士を見つけて早めに相談なさることをお勧めします。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。