相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
令和の上場株式物語
令和4年あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおった。
二人は以前自営業をしておったそうで、年金は多くはなかったが、若い頃から株好きで、配当がザックザック入っておって、たいそう楽な暮らしをしておった。
「おじいさん、大変じゃあ」
「なんじゃ、ばあさん。桃でも流れてきたか?」
「いんや。大変なんじゃ。私らの毎年の株の配当は500万円くらいじゃろ。」
「そうじゃ、『確定申告』して配当控除やなんやらで、源泉された所得税の70万円から80万円はだいたい全額還付になっとる。年金が少なくても大丈夫じゃ、心配はいらん。それに、国民健康保険なんかが上がらんように、『住民税』では配当の金額が加算されんように「申告不要」にしとるしな。年金の額だけで保険料が決まっとるから役所やらに払う分は大したことない。」
「それがよ。所得税と住民税を得な方で別々に選べるのは、令和4年分の確定申告が最後らしいんじゃ。」
「ええっ。どうなってしまうのか知っとるんか?」
「おじいさん、聞いてくださいな。令和5年度の住民税や、社会保険料は今年の令和4年分の所得で決まるから、ええんじゃ。今まで通り、所得税と住民税を別々に選んだらええ。けどな、令和5年分確定申告の時はよう考えんといかんらしい。確定申告で今までみたいに「申告分離課税」を選んだら、住民税でもそのまま「申告分離課税」とされて配当の金額が所得に加算されてしまうんじゃと。住民税の所得は、税金だけじゃのうて、国民健康保険料や介護保険料、もしかしたらお医者様の窓口での負担額まで色々と関係するらしいわ。所得税で「申告不要」にして、源泉徴収だけで終わらせて確定申告をしなかったら、住民税でも「申告不要」に自動的になるから保険料も上がらん。けど、申告せなんだら、配当の源泉された所得税は戻ってこんし。」
「ばあさん、どうしたもんかのう。」
「おじいさん、どうしましょうかねえ。」
めでたしめでたし とはいかないようです。
令和4年度税制改正により、「令和5年分所得税確定申告と令和6年度住民税」以降の取り扱いからは、上場株式等の配当所得と譲渡所得(源泉徴収ありの特定口座での売却)の課税方式を『住民税』と『所得税』で一致させることになりました。
所得税と住民税を一体として設計するという考え方を踏まえ、公平の観点から異なる課税方式の選択ができなくなります。
現行では、例えば、おじいさん、おばあさんのように所得税で「総合課税」を選択し、配当控除の適用を受けて源泉徴収された所得税の還付申告をし、住民税では、「申告不要」を選択して国民健康保険等への影響が出ないようにしている方がおられるのではないでしょうか。
所得税額のシミュレーションは例年の申告が参考になるでしょう。
しかし、確定申告での配当控除で還付を受けたほうが有利か、それとも「申告不要」として源泉徴収で終わらせる方がよいのかは、加入しているのが国民健康保険等なのか、会社の社会保険なのか、配当やそれ以外の所得の額などでケースバイケースとなります。
また、保険料率などは、市町村などで異なっていることもあり、判断は容易ではありません。税金だけでないことが、余計に問題を複雑にしているのです。
1年以上先とはいえ、市町村の役所に行く機会があれば、確定申告書の控え等を参考にして、どのくらい負担が増えるのかなど、窓口で相談してみてもよいかもしれません。
令和6年度の各保険料等の通知が市町村から届いて、慌てることの無いようにしたいものです。