相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
金・地金を売った時
コロナ禍や激動の国際情勢の中で、金価格は変動しながらも高値で推移していましたので、手持ちの金・地金を売却された方もおられるのではないでしょうか。
なかには、2月に入ると税務署から『確定申告のご案内』などという封書が届く方もいらっしゃるかもしれません。
驚いてしまう前に、少しご準備を。
土地や建物など不動産の譲渡については、登記異動資料をもとに何十年も前から申告案内されていました。金・地金についても、平成24年1月1日以降の譲渡について、「譲渡対価の支払調書」の提出が法定化されたことから同様に案内が送られてくることになっています。ただ、業者から資料が提出された時期や、売却の回数などの影響で、案内が届かないこともありますので、「案内が来た場合だけでよい」というわけではありませんので、年間の売却内容は把握しておくことが必要です。
金・地金を売却した利益は、一般的には『総合譲渡所得』として、給与や事業、年金などの所得と併せて計算する総合課税の対象となります。
売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えているかどうかで【総合短期譲渡】と【総合長期譲渡】所得に分けて計算します。
㊟売却の日で判定するわけではありません!!
計算の仕方は次のとおりです。
・総合短期譲渡所得
総収入金額-(取得費+譲渡費用)-*特別控除=短期譲渡所得
・総合長期譲渡所得
{総収入金額-(取得費+譲渡費用)-*特別控除}×1/2=長期譲渡所得
*特別控除は、譲渡益を限度として50万円
ということで、50万円を超える利益があれば課税所得が算出されることになります。
譲渡所得の計算で重要なことは、前出のとおり5年を境とする長期か短期の判定です。
まとめて売却した場合でも、取得した時期で分けて計算する必要があります。
また、特別控除は短期・長期併せて50万円が限度ですので、まずは短期分の計算に適用後、控除額の残額を、長期譲渡の計算で控除しましょう。
次に大切なことは、取得費です。
不動産でも同じですが、相続や贈与で引き継ぐことも多い資産の譲渡の場合、売却される方ご自身で購入されていないケースも多いと思います。
金・地金の取得費は(土地などの不動産と同様に)、相続時等の額ではなく、先代(代々相続の場合は更に遡って)が、最初に購入したときの取得金額を採用することになります。
また、ご自分で取得されていても、長期間保有のため購入価格が良く分からない方もおられるかもしれません。
何もわからないとなると、税法では、売却した価格の5%という「概算取得費」で計算することになってしまいます。
そうなると、ほとんどが利益という計算になってしまうことがお分かりかと思います。
特に、相続・贈与の場合は、親御様やご親戚が取得した金額となるため、まずは、引き継いだ時に、取得費のわかるものを徹底的に探してみてください。
金・地金などと一緒に伝票のようなものが保管されていることもあります。
金を取引していた業者がわかった場合は連絡してみましょう。相続してあまり時間がたっていなければ取引履歴などが確認できるかもしれません。売却時にあわてても、相続後何年もたっていると、何もわからなくなってしまいます。
もちろん、ご自分で購入される場合には、しっかり資料を保管しておきましょう。
また、売却してしまう前に、現物の写真を撮っておくこともお勧めいたします。
地金の刻印や、金貨の特徴から、購入当時の金額がわかる場合があるからです。
そのほか、相続開始の日から3年以内に売却する場合(相続財産の分割時に換金して分割する場合などを含む)は、相続税の一部が取得費に加算されるなどの特例(措置法39条)が適用可能なケースもありますので税理士にご相談下さい。