相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
税務署に相談するときのポイント―今どきの流儀―
近年は、「税金」について、国税庁のホームページやネット検索でもいろいろ調べることができるようになっています。
ただ、実際は、自分のケースがどれにあてはまるのか、その情報は最新かどうか良くわからなかったりして心配。(あるある。)
税務署での相談は、もちろん無料ですが、予約制で時間枠もあります。
「何を聞かないとならないか、それが分からないので来ました。」という感じになってしまっては目的を果たせないかもしれません。
『税務署に電話を掛けた時の相談窓口は、3つある』
税務署の電話番号にかけると、音声案内が流れますので、番号をプッシュします。
「1」⇒国税局電話相談センターへ接続
更に音声案内で相談する内容を選択するシステムとなっています。
ちなみに「1」所得税、「2」源泉所得税関係、「3」譲渡所得や相続税などの資産税関係、etc.
担当の相談官が対応してくれます。
聞きたい事柄がある程度はっきりしている場合や、一般的な内容の確認などの場合は、こちらでも相談可能だと思います。
「2」⇒税務署の受付担当へ接続
実際に、具体的な課税関係が発生していたり、申告が必要な場合は「2」のほうが良いと思います。
受付に、担当部署や要件を伝えます。担当部署が分からなくても「要件」で判断して電話をつないでくれます。
(その担当部門で詳しく話して、担当が違うようなら、更に別の電話に回されることがあるかも知れません。また、税務署が担当していない住民税など別の公的機関へ相談が必要な場合も出てくることもあります。少しおおらかな気持ちでいてください。職員も専門分野でないと分からないことも多いのです。)
もちろん、電話だけで解決する場合もありますが、具体的に書類や事実関係を確認する必要がある場合などは、予約を取り面談で相談することになります。
「3」⇒インボイス制度専用の相談センターへ接続
『窓口での面談相談は、必ず事前に税務署に電話をかけて相談予約を取る』
税務署での対面による相談窓口は、基本的に予約制になっています。
前述のとおり、税務署に電話をかけて「2」を選択して予約します。
署によって、相談日が決まっているので、「近くまできたので」では、まず対応してもらえないと考えてください。
相談希望の方も多いので、ずっと先まで相談枠が埋まってしまっているという税務署もあるかもしれません。
特に注意したいのは、個別相談をご希望の場合は、年内に、かつ、早めに予約を取ることです。
税務署では、年が改まった1月以降になると、確定申告の手続き (還付申告等) が可能になり、その後は、確定申告本番に突入します。
そのため、会場等での確定申告関係の相談以外は現実的に出来なくなってしまうのです。
よほど特殊な理由が無い限り、1月から3月の間での個別相談の予約は難しいでしょう。
会場での確定申告書の作成の経験がおありなら、ゆっくり相談するのはとても無理な状態であることはご存知のとおりです。
『税務署は基本的には申告するためのところ』
法律の内容を確認したいという場合も対応してもらえなくはないでしょうが、パンフレットの内容を説明する程度と思ってください。
税務署で相談するメリットのひとつは、指導通りに申告すれば、「認めてもらえる申告」になることです。申告書を提出する税務署で相談することが理想的と言えるでしょう。
ただ、相談時に詳細等が伝わっていない場合には、100%認められる申告ができるとはかぎりません。「たら」「れば」では、質問する側も回答する側も曖昧になってしまいがちです。
それを避けるためには、相談のたたき台として、具体例や取引資料を持参することが有効です。
例えば、不動産を売却した場合などは、売買契約書や領収書などの資料を持参し、具体的な金額がわかれば、譲渡所得の計算のサポートを受けることが可能です。
なお、単身赴任や、高齢、病気療養中のご家族に代わっての相談の場合は、相談者の利用できる税務署での対応もできますので、安心してください。
譲渡所得の計算を済ませておけば、後は、給与や年金などの資料と合わせて年明けに申告するようにすればいいのです。
そのためにも、予約の電話の際に、状況を説明し、どのような資料を持参すればよいのか確認することを忘れないでください。
面談で相談しているうちに、足りない資料が出てきて、再度足を運ばないといけないことはあるかも知れませんが、少なくとも一歩前進です。
担当の職員の名前もメモしておきましょう。
『相続税の申告書は、自力作成。税務署では、質問事項をまとめて確認しよう』
相続税の申告書をご自分で作成した方はあまりおられないと思います。
所得税の確定申告書を作成するのとは、ボリュームも内容も全く違います。
手書きですべて作成するのであれば、税理士でも記入するだけで数日かかってしまうのではないでしょうか。相続人の方で、書き方のマニュアルを読むのに1週間以上かかったと伺ったこともあります。
相続税の申告が必要かどうかの判定程度であれば、遺産の額や相続人の数・続柄などを示せば、税務署で対応可能です。ただし相続税の申告書を代わりに作成してくれるということはありません。
もし、申告が必要な場合は、税理士に依頼される方が無難と言えるでしょう。
それでも、ご自分で作成・申告される方が皆無というわけではないのですが、やはり、作成してみないと、質問事項もわかりません。
「自分たちでやるぞ!」と決心したら、まずは、マニュアル「相続税の申告のしかた」(国税庁のホームページからダウンロード可)を参考にして取り組んでみましょう。
『税務署での税務相談はコンサルティングではない。』
税務署では、税法等での処理の仕方、いわば申告や計算の仕方、考え方などについての質問に対応しています。
「提示いただいた資料や条件の場合は、税法等ではこのような判断(計算)となります。」という回答になるのが普通です。
一方、「この不動産を売却するか、賃貸するか迷っているのです。」とか、「税法が改正されて今後の対策はどうすればいいか。」等の質問には、答えてくれません。
「それは、ご自身で決めていただく問題です。」ということになります。
また、ある方は、『税務署で「相続したマンションの取得時の契約書がないのです。」と譲渡所得の相談をしたところ、「取得費が分からなければ、譲渡価額の5%が取得費で計算するしかない」と言われてしまいました。』と事務所に駆け込んでこられたことも。
税務署では、プランニングやコンサルティング、個別の資料収集はしてはくれないのです。
税理士に依頼するのは、「申告書の作成」だけではありません。知恵袋としての存在です。
もちろん、上記の質問の場合であれば、シミュレーションやメリット・デメリットの比較をとおして、ご一緒に検討することとなります。資力や今後の相続を含めて考える必要があるかもしれませんね。
また、特例の適用、資料の収集のアドバイスやお手伝いをすることにより、適正な申告ができ、結果として税金の負担が減少した事例は実際にたくさんあるのです。
そのためにも、”申告書の作成ができるだけ”の税理士でなく、得意分野や経験などを重視して”信頼のおける”税理士に相談することが大切なのです。