相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
相続税が課税されない遺贈寄付の寄付先
最近、雑誌やインターネットで相続と遺贈(寄付)の関係を見かけることが多くなってきました。その中で、亡くなった人が遺言書を作成して財産の寄付(以下「遺贈寄付」といいます。)をすれば、相続税が非課税になる旨の説明があるのですが、その説明だけではどこに寄付すれば相続税が課税されないのか説明が不十分なものが多いので、以下で相続税が課税されない理由と課税されない寄付先を説明していきます。
なお、遺贈寄付の寄付先は、国・地方公共団体、学校法人、NPO法人、社団・財団法人、社会福祉法人、宗教法人など様々な選択肢があるところ、○○法人ということが多いため、今回の説明は、一般の篤志家(租税回避と縁のない、遺贈寄付を受ける法人の運営と全く関係のない篤志家、以下同じ)が法人へ遺贈寄付をしたときの相続税に的を絞ったものとします。相続人が相続した財産を寄付した場合の相続税や不動産など譲渡所得が発生する財産を遺贈した場合の所得税などは、別に考えていくことになります。
1 寄付先別の原則と例外
⑴ 国・地方公共団体及び法人に遺贈寄付したとき
相続税は、相続又は遺贈により財産を取得した個人に課される税です。そのため、国・地方公共団体や法人は遺贈により財産を取得したとしても納税義務が発生せず、原則として相続税は課税されません。例外として、遺言による持分の定めのない法人への寄付が、相続税を不当に減少させるために行われた行為(いわゆる租税回避)とみなされるときは、その法人は個人とみなされ相続税が課税されます。
持分の定めのない法人:社団・財団法人、学校法人、持分の定めのない医療法人、宗教法人、NPO法人、社会福祉法人、認可地縁団体など
定款、寄付行為若しくは規則又は法令の定めにより、当該法人の社員、構成員が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができない法人、定款等に、社員等が当該法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人などです。
⑵ 個人及び法人格を持っていない任意団体に遺贈寄付したとき
また、遺贈を受けたものが、個人である場合や法人格を持っていない任意団体(以下「人格なき社団・財団」といいます。)の場合には、原則として相続税が課税されます。例外として、その団体等が公益的な事業を行っている場合に、非課税になります。
⑶ 寄付先別一覧表
人格なき社団・財団 : 同窓会、サークル、PTA、法人化していない地縁団体など
多数の者が一定の目的を達成するために結合した団体のうち法人格を有しないもので、単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有し統一された意思の下にその構成員の個性を超越して活動を行うもの、一定の目的を達成するために提供された財産の集合体のうち法人格を有しないもので、特定の個人又は法人の所有に属さないで一定の組織による統一された意思の下にその提供者の意図を実現するために独立して活動を行うものなどです。
2 相続税を不当に減少させるために行われた行為
ここまでで、遺贈寄付の寄付先を法人にした場合、法人は納税義務者ではないので、相続税は課税されない。例外として、遺贈寄付の寄付先を持分の定めのない法人にした場合、遺贈寄付が相続税を不当に減少させるために行われた行為とみなされるときは、相続税が課税されるということが分かります。
では、相続税を不当に減少させるために行われた行為とみなされるときは、どのようなときでしょうか。相続税法施行令33条第3項によって、判断することになります。
⑴ 相続税法施行令33条第3項の定め(要旨)
相続税を不当に減少させるために行われた行為を法は定めていません。逆に、次に掲げる要件を満たすときは、相続税を不当に減少させるために行われた行為と認められないものとすると定めているのです。その要件は大きく分けて 4 つです。それら 4 つの要件を満たさない場合は、相続税を不当に減少させるために行われた行為とみなされることになります。
要件の要旨は、以下のとおりです。
① 運営組織が適正であり、特定の一族の支配を受けていないこと
② 遺贈者、設立者、役員等の関係者に特別の利益を与えないこと
③ 法人が解散したときに、残余財産を国等に寄付する旨の定めが定款等にあること
④ 法令違反、公益に反する事実がないこと
3 一般の篤志家が持分の定めのない法人へ遺贈寄付をしたときの相続税の取扱い
さらに、一般の篤志家については、相続税個別通達「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」14⑴ただし書きにて、要旨、一般の篤志家は、上記①の要件を満たさないときであっても、②から④までの要件を満たしているときは、相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときに該当しないものとして取り扱うことになっています。
上記通達を踏まえて、一般の篤志家が持分の定めのない法人へ遺贈寄付をしたときを検討すると、相続税は、納税義務者を個人と定めていることから、原則、法人へは課税されないが、遺贈寄付を受けた持分の定めのない法人は、以下の要件を満たさないとき、個人とみなされ相続税が課税されることになります。
⑴ 遺贈者、設立者、役員等の関係者に特別の利益を与えないこと
⑵ 法人が解散したときに、残余財産を国等に寄付する旨の定めが定款等にあること
⑶ 法令違反、公益に反する事実がないこと
逆に言えば、これらの要件を満たす持分の定めのない法人は、個人とみなされないことになりますので、相続税は課税されません。
一般の篤志家が法人へ遺贈寄付をしたときの相続税の課税を図示すれば以下のとおりとなります。
4 まとめ
相続税が課税されない一般の篤志家の遺贈寄付の寄付先は、個人とみなされる法人を除く法人です。個人とみなされなければ、どんな法人でも相続税が課税されることはありません。
個人とみなされる法人(持分の定めのない法人のうち要件(上記3⑴~⑶)を満たさない法人)でないことを確認した寄付先を、遺言書に記載するようにしましょう。
分かり易く言うと、遺言書に、⑴遺贈者、設立者、役員等の関係者に特別の利益を与えていたり、⑵法人が解散したときに、残余財産を国等に寄付する旨の定めが定款等にあったり、⑶法令違反、公益に反する事実がある「持分の定めのない法人」を寄付先として記載すると、相続税が課税されます。この場合の相続税の課税は、友人や知人に財産を遺贈するケースと同じになることを承知の上、遺言書に記載してください。
遺贈時に要件を満たしていなくても、申告期限や課税庁の処分を受ける前に、法人の規則等を変更することにより要件を満たすこととなったときは、個人とみなされないことになりますが、相続人に余計な手間や負担をかけないようにしたいものです。
自分の想いと遺贈先、なかなか難しい問題です。転ばぬ先の杖、独りで悩まず信頼できるベテラン税理士を見つけて相談なさることをお勧めいたします。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。