相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
マンションの評価 1
―ねえ、今年から相続税のマンションの評価が変わるらしいけど、そもそもマンションの評価の方法を私、全然知らなくて。きっとあなたならご存知よね?
―評価が変わるっていうより、調整が必要な場合がありますっていうことなの。だから、今までの評価のしかたが基準になることには変わりないわ。
分譲マンションの場合だと、①建物は区分所有している専有部分の固定資産税の評価額を基準にするの。②土地部分はまずマンション敷地全体を路線価などで評価する。それから、敷地利用権の割合を掛けるとそのお部屋に対応した土地の評価額が計算できるのよ。
区分所有建物と敷地利用権の合計がマンションの相続税の評価額なの。
もちろん、そのマンションを貸付していれば、建物は貸家として、敷地利用権は貸家建付地としての評価できるわけ。
―あ、敷地権って、あの何十何万分の5931とかいうところね。
でも、評価の方法は、戸建ての住宅と原則は同じなのね。
それなのに、評価の見直しをする必要があるのかしら。
―そうね、覚えているかしら?
タワーマンションの相続税の評価をめぐって、裁判になったことあったでしょ。
路線価や固定資産税の評価額でなく、売買価格を時価として課税されることになった判例よ(2022年4月19日最高裁)。
―ええ、覚えているわ。タワーマンションの相続税評価が安いことを利用して、税金がかからないようにしたんでしょ。やりすぎだって言われてしまったということよね。
もしかして、そのせいで私の住んでいるマンションの評価も高くなってしまうということ!?
―きっかけという意味では、一理あるかもしれないわね。
実は、以前からマンションの「相続税評価額」と「市場の売買価格」との大きな差がみられるケースがあったので検討されていたらしいわ。
それもあったのかしら、今年の令和6年1月1日からの相続や贈与の評価のしかたが定められて調整が必要になったの。
―区分所有であれば、どの建物も新しい評価方法をしないといけないの?
―必ずしも、そうじゃなくてよ。
今まで通りの評価の方法を適用する区分所有建物もあるらしいわ。
昨年、令和5年9月28日個別通達『居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)』が公表されました。令和6年1月1日以降の相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価についての取り扱いが示されたのです。
「区分所有補正率」を算出して、相続税評価額と時価との差が大きすぎるものを調整するという趣旨です。
今回から2回に分けて、取り上げてみたいと思います。
「マンション」とか「ビル」など一概に呼ばれるすべてのものが新しい評価法になるわけではありません。
以下、「対象外」のものを確認してみたいと思います。
2階建て以下のもの
2階建て以下の低層マンションやテラスハウス等は区分所有物件であっても対象外となります。
構造上、主として居住の用途に供することができるもの以外のもの
具体的には、事業用のテナント物件やオフィス等の商業ビルなどを指します。
通達の標題の中にもはっきり「居住用の区分所有財産」とうたってあります。専有部分について、「構造上主として居住の用途に供することができるもの」に対する評価方法ですから、対象にならないのです。
原則的な見分け方は、登記情報の「専有部分の建物の表示」の部分を確認してください。「①種類」の欄が「居宅」となっている場合は、新しい評価の対象ということです。
ですから、たとえ事務所に使用していても、構造上主として「居住の用に供する」ことができるものであれば、この通達での評価が必要になります。
区分建物の登記がされていないもの
たとえば、一棟所有の賃貸マンションなどにはこの個別通達の適用はありません。
㊟ただし、(このような事例は少ないかもしれませんが、)部屋ごとが区分所有とされている場合に、そのすべてを一人で所有することにより、結果的に一棟すべてがその人の所有となっても、ここでいう一棟所有とはなりません。その場合は、部屋ごとにこの通達を適用して、合計することになります。
一棟の区分所有建物に存ずる居住の用に供する専有部分一室の数が3以下であって、そのすべてを区分所有者又はその親族の居住の用に供するもの
国税庁のパンフレットにはこのようにありますが、一読ではなんのことかわからないと思います。
例にしてみましょう。
3階建てで各階が区分所有されている場合を思い浮かべてください。
その建物には、1階は両親、2階に長男夫婦、3階には独身の二男が居住しています。
それって、つまりは、二世帯住宅の事ですよね。
いわゆる二世帯住宅には、「区分所有補正率」は適用されないのです。
たな卸商品等に該当するもの
「商品」なので、販売する場合の価格を基準に売却にかかる一定の経費等を差し引いて評価額を算出します。この場合も、評価のしかたがスタートから全く違いますので、この個別通達の対象にはなりません。
「居住用の区分所有財産」とは、いわゆる「分譲マンション」とほぼ同義であることが、これらの除外する対象からもわかるところです。
次回は、実際どのように調整されるのか、「区分所有補正率」とはどういうものなのかについて進めていきたいと思います。