相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
税理士による遺産分割協議書作成の可否
遺産分割協議書は、法定相続人が故人の遺産の分け方について話し合いをして、合意した内容や結果を示した書面です。そのため、 相続人全員が当事者となって合意(契約)する「契約書」としての役割と、対外的に「遺産分割協議が成立した」という証拠資料としての役割があるものです。
さて、この遺産分割協議書は誰が作成するものなのでしょうか。
相続人が、自分で作成しても良いですし、弁護士、司法書士、行政書士又は税理士等に依頼することもできます。ただし、税理士に依頼する場合には以下のような制約がありますので、ご依頼いただいた場合には、連携している弁護士、司法書士又は行政書士が作成することがあります。
1 税理士が遺産分割協議書を作成できる場合
税理士法が定める税理士が他人の求めに応じて作成する書類は、要旨「租税に関する税務官公署に対する申告書等、租税に関する法令に基づき作成し、かつ、税務官公署に提出する書類で財務省令に定めるもの (税理士法第2条第1項第2号) 」と規定され、税理士法第2条第1項第2号に規定する財務省令で定める書類は、要旨「届出書、報告書、申出書、申立書、計算書、明細書その他これらに準ずる書類とする。(税理士法施行規則第1条)」と定められています。
そして、遺産分割協議書は、相続税の配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例等、財産の取得の状況によりその適用の可否を判断する制度を適用した申告をするときに、申告書に添付して税務署へ提出する必要がある旨、税法(例、相続税の配偶者の税額軽減であれば相続税法19条の2、相続税法施行規則第1条の6)に定めがあります。
これらの定めにより、税理士は、税務署へ提出する必要のある遺産分割協議書を、上記の税理士法施行規則第1条その他これらに準ずる書類として作成できるのです。
2 税理士が遺産分割協議書を作成できない場合
上記1で説明したとおり、税理士は遺産分割協議書を税務署に提出する必要があるときに作成することができますが、相続税の申告が不要な場合、遺産分割協議書は税務署に提出する必要ありませんから、税理士は遺産分割協議書を作成することができません。
また、相続人間で分割協議が揉めている場合、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に定めがある場合は、この限りでない。 (弁護士法72条) 」と定められていることから、一部の相続人の代理として行う交渉はいわゆる非弁行為になりますので、税理士は遺産分割協議書を作成することはできません。
3 税理士への相談
以上のように、税理士が遺産分割協議書を作成できる場合とできない場合とありますが、税理士が遺産分割協議書を作成できない場合であっても、税金面で有利にことを進めるためには、税理士に遺産分割の相談をすることが必要です。税理士が弁護士の業務をできないように、司法書士や行政書士は税務相談ができませんので、税務面で不利な遺産分割(例えば、遺産分割のやり直しは民法で認められていますが税法の取扱いでは課税となるケースがあり、又次の相続まで含めた税負担では不利となるケースなどがあります。)を行ってしまうことがあるからです。
4 まとめ
相続人間の関係が良好で遺産分割協議書をご自身で作成できる方であれば、費用の面から税理士に相談しながらご自身で作成することをお勧めしますが、遺産分割協議書をご自身で作成できない方に税理士がお勧めの依頼先をケース別にまとめると、以下のようになります。ご事情により弁護士、司法書士又は行政書士が遺産分割協議書を作成することもあるでしょうが、税金面で不利にならないよう税理士にも遺産分割協議の内容を相談されることをお勧めいたします。
信頼できるベテラン税理士に相談すれば、相談に応じた税理士が遺産分割協議書を作成するか、税務面での検討をしてその結果を適切に反映した遺産分割協議書を作成する士業を手配してくれます。税理士だから申告の必要がある人だけしか相談に乗りませんといった士業のたらい回しを心配する必要もないでしょう。転ばぬ先の杖、信頼できるベテラン税理士を見つけて相談なさることをお勧めいたします。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。