相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
法定調書と相続税 part 1
「法定調書」ってご存知でしょうか。
税法で税務署に提出を義務付けられている資料のことです。マニアックなものを含めて、なんと全部で60種類(令和4年5月1日現在法令等)もあるのです。
ちなみに、内訳は次のとおり。
○所得税法で規定 43種類
○相続税法で規定 5種類
○租税特別措置法で規定 8種類
○内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
(簡略にすると国外送金等調書法)4種類
計60種類
何のため?
言わずもがなです。「支払調書」が最も多く、法人や個人が支払った金額などを記載して税務署に提出しなくてはならないのです。その反対側のお金を受け取る人の課税漏れをチェックするために使われるに決まっていますよね。(簡単すぎる質問でした…。)
ところで、『相続税法』で規定されているのは
① 生命保険金・共済金受取人別支払調書
② 損害(死亡)保険金・共済金受取人別支払調書
③ 退職手当金等受給者別支払調書
④ 保険契約者の異動に関する調書
⑤ 信託に関する受益者別(委託者別)調書
の5種類です。
➀から➂は、保険や退職金です。支払った内容について記載されたものが保険会社や勤務先から提出されます。相続税の申告漏れがないかなどがチェックされるわけです。
特に生命保険の申告漏れは税務署に把握されていますので、しっかりと確認したいものです。
➃や➄は贈与税にも関係しています。保険契約の書き換えなど無造作にやってしまうのも考え物なのです。
では、そのほかの法定調書は相続税の調査などには無関係なのでしょうか。
『所得税法』で規定されたものの中には皆様もご存じの「給与所得の源泉徴収票」(一定の条件に該当するもの)や、そのほかにも「配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」、「生命保険契約の一時金の支払調書」、「不動産の使用料等の支払調書」、「先物取引に関する支払調書」、「金地金等の譲渡の対価の支払調書」など全部をここでご紹介できないほど多岐にわたっています。なにせ43種類ですから。
提出された法定調書をもとに、所得税や法人税の審査をするのは当然として、相続税にはどう関係してくるのでしょう。
過去の給与や配当・報酬あるいは生命保険の満期額、不動産や金地金の譲渡による収入の額が直接的に問題になることが考えられます。「収入から考えて、遺産の額が少なすぎる。」とか、「このお金は何に使ったか。」というような具合です。
それ以上に、税務署側の参考になると思われるのは、支払調書により、取引のある(あるいは過去に取引があった)金融機関や会社、株式の銘柄、遠方の土地の所有状況などを把握することが可能となることです。それを切り口に調査を展開することも。
また、資料はデータ化されていますので、長期間にわたって資料を保管蓄積が可能、抽出もできます。
そのため、相続の場合はご本人がお亡くなりになっていますから仕方のないことかもしれませんが、相続人の方々が全くご存じなかった事を「税務署だけが知っていた」なんてことが実際にあるのです。
少し、相続から離れてしまいますが、所得税に関連して、フリーランスのお仕事や、今流行の副業等の報酬などに対して依頼者から「支払調書」を受け取ったことがある方もおられるかもしれません。
ただ、それは、慣習的に、報酬を受け取る本人にも税務署への提出用と同じ内容のものを交付してくれたものであり、提出義務があるのはあくまでも税務署に対してだけとなっています。税務署だけにしか、提出していない事業者があるかも知れませんし、今「支払調書」をもらえているところからも、今後もずっともらえるとも限りません。
確定申告の際には、受け取った支払調書だけに頼らず、売上や収入の管理をしっかり行うことが重要です。
相続税、所得税、いずれの申告においても、申告する側には、「法定調書」に負けないくらいの資料の収集や管理が大切だということです。
*次回は、みなさんも提出する必要があるかも知れない法定調書「財産債務調書」・「国外財産調書」についてお話します。