相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
マンションの評価 2
―マンションやビルのすべてが、対象じゃないことはわかったわ。
でも、私が住んでいるのは、分譲マンション。
評価額が高くなるのは、確実ってことになってしまうのね。
―そうとも限らないの。すべてのマンションの評価が安すぎるって決めつけているわけではないのよ。
確かに、マンションの評価が、売却可能額の2~3割程度というケースも散見されていたのも事実です。
どうして、そのようなことになるのでしょうか。
そもそも、相続税評価額と売買されている価格の差(乖離・かいり)の要因は、どのようなものがあるのでしょうか。
1 家屋の評価
・ 相続税評価額の家屋部分は、固定資産税評価額で評価しているのですが、実際に購入する場合は、マンションの総階数や、その分譲マンションの1室の所在する階も考慮されて購入されています。
・ 固定資産税評価額の経年による減価の率が大きく、市場価格に比べて低くなるケースもあります。
2 土地(敷地利用権)の評価
・ 高層マンションほど、敷地利用権等の面積が細分化されて、1戸当たりの敷地利用権が狭小になる傾向があります。
そのため、立地条件が良い場所、つまり路線価が高い場所でも相続税評価に反映されにくくなり、結果として市場価格(売買実例価格)に比べて、低くなることが考えられます。
そこで、新評価の方法はそれらを反映するために、新しい補正率を導入することになりました。
通常の評価、覚えていますか?「建物部分は固定資産税の評価額」、「敷地権部分は、敷地全体の路線価評価をした後、敷地権割合(持分)を掛けた額」でしたよね。
その価額を調整するために「区分所有補正率」という新しい率を、従来の相続税評価額に掛け合わせて算出するようにしたのが今回の改正点です。
「区分所有補正率」にたどり着くまで、いくつかの数値を計算する必要があります。
順を追って概略をお話してみましょう。
少し、複雑でわかりにくいのですが、どうぞご安心ください。
国税庁ホームページに「B2-6 居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」というExcelファィルの計算ツールがありますので、試算することもできます。
(なんなら、理屈はさておき登記事項証明書を用意して、計算してみるというも「あり」です。)
【評価乖離率】
各個別のマンションごとに、次の要素(A~D)をもととして「評価乖離率」(理論値ではありますが)という数値を計算します。市場価格と相続税評価額の価格比率のようなものです。
「時価が相続税評価額の何倍になっているか」という風にとらえると理解しやすいかもしれません。
A「築年数」とB「総階数」、それから評価する居室のC「所在階」、D「敷地持分狭小度」(建物の専有面積と敷地持分の面積の割合)の4つの要素で、時価と相続税評価との差額についての原因を、統計上で解析し計算式が作られました。
評価乖離率 = A+B+C+D+3.220
A=築年数(1年未満切り上げ)×△0.033
B=総階数÷33×0.239 (総階数÷33が1を超える場合は1×0.239)
C=所在階×0.018 (所有階が地下の場合は Cは零)
D=敷地の面積×敷地権の割合÷専有部分の面積×△1.195
【評価水準】
従来の相続税評価が想定される時価に対してどのくらいの率になっているかを求めます。もちろん、値が小さいほど安すぎるということになります。
評価水準 = 1÷評価乖離率
【区分所有補正率】
区分所有補正率は、必ずしも評価を上振れさせるものだけではありません。上の評価水準の数値によって、補正率の適用が決まります。
次の(1)、(2)、(3)の場合に分けて区分所有補正率を求めて、従来の評価に乗じることで評価額を算出します。
(1) 評価水準 < 0.6 の場合
従来の評価が6割より少額になっているということを意味していて、「安すぎる」と判定されたわけです。その場合の区分所有補正率は、
評価乖離率×0.6 になります。
(2) 0.6≦ 評価水準 ≦1 の場合
従来の評価額と計算値のバランスに問題がないということで、
補正なし となります。
(3) 1 < 評価水準 の場合
従来の評価額の方が高額になっているということです。
区分所有補正率は
評価乖離率 になります。
評価乖離率が1よりも小さくなるため、評価額は減額されることになります。
※ 評価乖離率を求める算式及び上記の0.6の値については、適時見直しされる予定です。
大阪市内の30階を超えるタワーマンションの売買実例についてサンプルとして計算してみました。(金額は概算です)
・実際に売買された価格 約1億5,000万円
・従来からの財産評価基本通達に従った相続税評価額 43,000,000円
・評価乖離率 3.397
・評価水準 1÷3.397=0.2943773918
(評価水準<0.6 なので)
・区分所有補正率 3.397×0.6=2.0382
∴43,500,000×2.0382=88,661,700円…補正後の相続税評価額
確かに、評価額が約2倍になりますので、相続財産評価が大きくなることは否めません。
しかし、実際の売却額との差は
150,000,000円-88,661,700円=61,338,300円
と高額ですので、見方によれば節税効果は未だあるとも言えます。
(なお、売却額1億5,000万円×0.6=90,000,000円となり、補正後評価額の88,661,700円と近似値になっていました。統計恐るべしです。)
※ それでも、国税側は、タワマンスキームの轍を踏むことが無いようにか、解説等には「著しく不適当と認められる場合には、評価通達6が適用される」旨の一文を入れて、通達とは異なる評価もありうることを示して、牽制しているようです。
減額になるパターンも試算してみました。
特に、郊外のマンションや、築年数の古いマンション、低層マンションなど敷地持分の面積が大きい場合は、土地の路線価評価の影響が過大となり、従来の相続税評価が高くなる傾向があります。
そのようなマンションでも、「0.6≦評価水準≦1」となり、「補正なし」のカテゴリーに含まれるケースが多いようです。
ちなみに、敷地面積の持分が、50㎡ほどになるようなマンションは、評価水準が「1」を上回り、減額対象となりました。
※ 令和6年1月1日以降の相続等においては、「小規模宅地等の特例」の適用は補正後の評価額を基に計算します。(「Q&A相続税の基礎知識」の小規模宅地の項目も参考にしてください。)