相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
不動産賃貸をされている方の相続 貸付不動産の収入を引き継ぐのは誰、確定申告はどうなるのか
不動産賃貸をされている方が亡くなった後、その不動産収入は誰のものになるかご存じでしょうか。
多くの方が、不動産を相続した人のものと考えるでしょう。
遺言書がある場合には貸付不動産を相続する人が指定されていますので、その指定された人のものになりますが、遺言書がない場合はどうでしょう。貸付不動産を誰が相続するかを決める遺産分割協議をして相続する人を決めることになります。
では、貸付不動産を相続する人が決まるまでの間の不動産収入は誰のものですか。それも、不動産を相続した人のものと考えるのでしょうか。
遺産を誰が相続するか決まっていない未分割の相続財産は、民法では、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法 898 条)と定められ、各相続人の共有状態にあることから、その収入は、各相続人がその相続分に応じて得るものとするという考え方がある一方、遺産分割の効力は、民法では、「遺産の分割は、相続の開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」(民法909条)と定められ、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができるとする考え方があります。
1 最高裁判決
これらの考え方に対して、最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決は、「遺産は、相続人が複数あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは個別の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」として、前者の考え方民法 898 条を採用しています。
2 税務の取扱い
そのため、税務上も相続開始から遺産分割成立までのその相続財産から生ずる収入は、各相続人にその相続分に応じて帰属するものとなり、各相続人がその法定相続分に応じて申告することになります。
例えば、不動産賃貸をされている方が亡くなって、遺言書がなく配偶者(法定相続分1/2)と子A(法定相続分1/4)及び子B(法定相続分1/4)が法定相続人とすると、相続開始から遺産分割成立までの貸付不動産の収入(1,000万円として)は、
配偶者は法定相続分の1/2である500万円を所得税の確定申告で申告
子Aは法定相続分の1/4である250万円を所得税の確定申告で申告
子Bは法定相続分の1/4である250万円を所得税の確定申告で申告となり、3件の所得税の確定申告が必要です。
年の途中で遺産分割が成立(子Aが貸付不動産の全てを相続したとして)すれば、遺産分割成立から年末までの貸付不動産の収入(300万円として)は、子Aは上記相続開始から遺産分割成立までの貸付不動産の収入250万円と合わせて550万円として所得税の確定申告で申告することになります。
3 青色申告
以上のように遺言書がない場合には、各相続人の意思にかかわらず不動産収入を得てしまうことになり、金額によっては確定申告の必要があります。
その際、税制面で有利な条件で申告することができる青色申告※の申請の期限は、以下のとおり最短で2カ月です。期限が過ぎないよう注意する必要があります。
※ 青色申告とは、一定の帳簿を備え付け、帳簿に日々の取引を記帳し、その記録にもとづいて、正しい所得金額や税額を計算し、確定申告をおこなう制度です。主な青色申告の特典として、利益から控除を受けることができる青色申告特別控除(「10万円控除」「55万円控除」「65万円控除」)、損失(赤字)が出た場合、その損失を3年間繰り越して黒字と相殺することができる純損失の繰越、30万円未満の固定資産は経費にすることができる減価償却の特例、家族への給与を経費にすることができる専従者給与があります。
⑴ 被相続人が青色申告をしていない(以下、「白色申告者」という。)の場合(その年の1月15日以前に業務を承継した場合) ・・・・・・・・・・・・その年3月15日
⑵ 被相続人が白色申告者の場合(その年の1月16日以後に業務を承継した場合)
・・・・業務を開始した日から2か月以内
⑶ 被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の1月1日から8月31日)
・・・・・・・・死亡の日から4か月以内
⑷ 被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の9月1日から10月31日)
・・・・・・・・・・・その年12月31日
⑸ 被相続人が青色申告者の場合(死亡の日がその年の11月1日から12月31日)
・・・・・・・・・・・・・翌年2月15日
4 まとめ
遺言書がある場合には、遺言書により指定された者が指定された割合で貸付不動産の収入を引き継ぎます。
遺言書がない場合には、相続開始から遺産分割成立までは法定相続人が法定相続割合で貸付不動産の収入を引き継ぎ、遺産分割成立後は遺産分割により決定した取得者が貸付不動産の収入を引き継ぎます。
貸付不動産の収入を引き継いだ者は、所得税の確定申告をする必要がある場合がありますが、税制面で有利な青色申告をしたいときは、申請の期限が短いので注意が必要です。相続税の申告納税期限は、相続を知った時から10カ月となっている為、ゆっくりしていると、相続人の所得税の確定申告について白色申告となってしまい、青色申告の優遇制度が適用できないことになります。
被相続人が青色申告をしており遺言があれば、被相続人が白色申告で遺言がない場合にくらべて、相続人の負担は大幅に少なくなることでしょう。転ばぬ先の杖、生前から信頼できるベテラン税理士を見つけて相談されておくことをお勧めいたします。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。