相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
相続税が課税されない遺産の寄付先
前回に引き続き寄付の説明となります。
前回は、こちら☛2021年5月号 相続税が課税されない遺贈寄付の寄付先
前回は、亡くなった方が法人へ遺贈寄付をすれば、相続税が課税されない旨の説明をしましたが、今回は、相続人が相続した財産を寄付すれば、相続税が課税されない旨の定めを説明します。
被相続人が遺言書で相続人に寄付を託すか、相続人が被相続人の想いを遺贈先に寄付を通じて託すことになります。
1 相続財産を寄付した場合の相続税の非課税規定(租税特別措置法70条)概要
原則、個人である相続人が相続又は遺贈により取得した財産には相続税が課税されますが、財産を相続又は遺贈により取得した相続人又は受遺者(以下「相続人」といいます。)が、その取得した財産を⑴ 相続税の申告期限までに⑵国又は地方公共団体、寄付時点で存在している限定列挙された公益性の高い事業を行う法人(租税特別措置法70条1項・10項、租税特別措置法施行令40条の3)に⑶ 寄付をした場合には、当該寄付をした財産の価額は、当該相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入しない(非課税となる)というものです。ただし、寄付をした者又はその親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税を不当に減少させるために行われた行為とみなされる場合は除かれます。
なお、寄付先が、寄付があった日から2年を経過した日までに①限定列挙された公益性の高い事業を行う法人に該当しないこととなった場合や②寄付した財産を公共目的事業の用に供していない場合には、相続税が非課税となりません。(租税特別措置法70条2項)
2 上記相続税非課税規定の要件
上記相続税非課税規定の相続人に対する要件の詳細は、以下のとおりとなります。
⑴ 「相続又は遺贈により取得した財産を」について
寄付をする財産は、相続又は遺贈により取得した財産そのものであることが要件です。不動産や有価証券を譲渡することにより換価した金員は、相続又は遺贈により取得した財産に該当しません。(租税特別措置法通達70-1-6)
相続又は遺贈により取得した財産には、相続税法の規定で相続又は遺贈により取得した財産とみなされる生命保険金、退職手当金等も含み、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産、相続時精算課税の適用を受けた財産を含みません。(租税特別措置法通達70-1-5)
⑵ 「相続税の申告期限までに」について
相続税の申告書の提出期限は、相続又は遺贈があったことを知った日から10カ月です。それまでに上記⑴の相続又は遺贈により取得した財産を寄付しなければなりませんから、遺言書がなく相続人が複数人であるときには、遺産分割協議や寄付先の選定など、期限を気にしながら行わなければならないことになります。
⑶ 「国又は地方公共団体、限定列挙された公益性の高い事業を行う法人に」について
限定列挙された公益性の高い事業を行う法人は以下のとおりです。
(租税特別措置法70条1項・10項、租税特別措置法施行令40条の3)
① 独立行政法人
② 国立大学法人及び大学共同利用機関法人
③ 地方独立行政法人(試験研究、病院事業、社会福祉事業等一定の事業を営むものに限る)
④ 公立大学法人
⑤ 自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団及び日本赤十字社
⑥ 公益社団法人及び公益財団法人
⑦ 一定の学校法人
⑧ 社会福祉法人
⑨ 更生保護法人
⑩ 認定NPO法人
⑷ 相続税を不当に減少させるために行われた行為とみなされないこと
この要件については、前回説明させていただきましたので、説明を省略させていただきます。
3 非課税の対象となる法人、ならない法人
相続人に相続税が課税されない寄付先は、前回説明した、相続税が課税されない一般の篤志家の遺贈寄付の寄付先と異なることがお分かりになったと思いますので、図に整理します。
4 まとめ
相続した財産について、相続税が非課税となる財産の寄付先は、国又は地方公共団体、限定列挙された公益性の高い事業を行う法人です。相続税が課税されない一般の篤志家の遺贈寄付の寄付先とは、相違があります。
誰が(被相続人or相続人)誰に(法人(どの種類の法人にするか)or個人)何を(遺産そのものor遺産を換価した代金)寄付するのかにより、相続税は相続人に課税されたりされなかったりするのです。
そのため、遺言書を作成する場合には、相続税の課税がどうなるのか検討し納得の上、寄付先を遺言書に記載したいものです。
譲渡所得の基因となる財産(不動産や有価証券など)を法人へ寄付した場合には、寄付者が被相続人、相続人を問わず、原則として所得税が課税されますが、今回と同様に、寄付先によっては非課税の定めがありますので、また別の機会に説明させていただきます。
自分の想いと遺贈先、なかなか難しい問題です。転ばぬ先の杖、独りで悩まず信頼できるベテラン税理士を見つけて相談なさることをお勧めいたします。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。