相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
令和4年12月16日に「令和5年度税制改正大綱」が閣議決定されました【贈与税 暦年課税編】
前年見送られていた「贈与税と相続税の一体化」についての見直しがついにされました。
相続開始前の贈与加算(2019年6月号参照)を3年内から7年内へ期間拡張
以前にも登場したご婦人二人、早耳です。
「ねえ、これって増税になるってこと?」
「でも、贈与をサッサと終わらせておけばいいということよね? 7年以上前なら、関係ないんだし。今でも、3年以内にかからないようにって早めに贈与するように言われてるじゃない。」
-確かに、その通りです。
この改正は、直ちに7年となるのではなく、2024年1月1日以降の贈与から段階的に期間延長されて、完全に7年間の加算期間に移行するのは2031年1月1日以降の贈与となります。2024年からの適用ですので、2023年中の贈与はある意味ラストチャンスでもあります。特に、相続税が高額になる見込みの方は、相続税より低い税額での生前贈与の検討をしていただくことをおすすめします。
今後、贈与加算を0にするためには、例えば日本人男性の平均寿命が82歳なので、7年前で贈与完了するためには、75歳までに贈与を終わらせるというプランが必要ということになります。10年計画だと、65歳から始めなくてはなりません。(親御様からの相続を心配する年齢ですよね。)
けれども実際は、日本人が長寿となったこともあり、70代でもお元気な方がたくさんおられます。相続について考え始めるのが75歳くらいからという方も多いのではないでしょうか。仮に75歳から贈与を10年間したとしたら…
(計算例)
2023年75歳から相続開始85歳まで10年間お子様3人に毎年110万円を贈与しており、お子様たちが相続した場合。
贈与の総額は 110万円×3人×10年=3,300万円となります。
○贈与加算が3年以内の場合(改正前)
3年以内持ち戻し…110万円×3人×3年=990万円が相続財産に加算要
○贈与加算が7年以内と改正された後の場合
7年以内持ち戻し…110万円×3人×7年=2,310万円
延長された4年分として100万円控除できますので
2,310万円-(100万円×3人)=2,010万円が相続財産に加算要
節税効果は、明らかに減少しています。
「父は75歳よ。なんだか焦ってきちゃう。もう間に合わないの?」
「何言ってるの。お父様お元気だし長生きなさるわよ。でも贈与をするのなら、早く始めたほうがいいわね。」
「だけど100歳までっていうのが父の口癖なのよ。実際元気だし、本当に100歳まで元気だったら、現実問題としてお金もかかるでしょう。早めにしないと間に合わないなんて言えないわ。」
「あら、あなたのところは大丈夫よ。大学生のお嬢さんと息子さんがいるじゃない。」
「ええそうよ。それどういうこと?」
-税法では「相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人」が贈与加算の対象となると規定されています。要は、相続税の申告が必要ではない人は、贈与加算は不要、贈与税だけで終わりということです。
この度、この点に対する改正は行われませんでした。ですから、孫さんや曾孫さんへの贈与は相続(生命保険金受取等含む)をしなければ7年間の贈与持ち戻しには、はなから関係ないということです。
計画的な贈与をお考えなら、贈与する対象者も考慮に入れるべきでしょう。
税制改正の考え方として、『高齢者の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねない。』としながらも、子(相続人)は厳しくするけど、孫はいいという矛盾した方向になったのは、『資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになればその有効活用を通じた経済の活生化が期待される。』ことが最大の目的だということです。
【贈与税 相続時精算課税編】に続きます。