相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
みなし??相続財産って相続財産じゃないの?
昼下がりのティータイムでしょうか。
ご婦人が、お二人。
相続税が気になるお年頃のようです。
―生命保険金って「みなし相続財産」っていうんですって。
―「みなす」って、「そうでないものをそうとする」とか「仮定する」っていう意味よね。
本当は、相続財産じゃないってこと?
―どうもそうらしいの。民法上では相続とか遺贈でもらったことにはならないですって。
―死亡保険金なのに?
―生命保険会社と結んだ契約によって保険会社から直接払われる仕組みになっているでしょう。亡くなった方から引き継ぐものじゃない。ということは相続しているわけでは無くて、契約によって保険金受取人のものになったという理屈らしいの。
―あら、それならどうして相続税なの?
―例えば、Aさんが亡くなったとして、Aさんの預金でもAさんが掛けてた生命保険金でも相続人が受け取る時はどっちもお金でしょ。実質的な経済効果があるものを公平にするために「みなし」相続財産として相続税法上で課税することになっているわけ。
―まあね。もらったほうから見ればある意味同じということね。ちょっと納得。そういえば、うちの父、受取人が母の貯金代わりの生命保険が相当あるらしいから、相続の時には、少し分けてもらおうかしら。
―待って、そこは注意が必要よ。あなたのお父様が保険料を支払っていた生命保険金は、相続税法上では「みなし相続財産」にはなるのだけど、本来は相続財産ではないでしょ。だから、遺産分割する対象じゃなくて、あくまで、契約上の受取人が受け取ったということになるのよ。
なのに、契約上の受取人でないあなたが保険金をもらっちゃったらどうなると思う?いったんお母様が保険金を受け取って、その後にあなたに贈与したことになってしまうの。
―そんなぁ。母がみなし相続財産で申告した上に、私に贈与税もかかってしまうのね、大変。考え直すわ。
―お父様とっても元気でいらしたから、契約内容見直してもらえれば、保険金の受取人の変更ができるかもしれなくてよ。
生命保険金=みなし相続財産とは限らない?
―ところが、いつでも相続税っていうわけでもないの。
―ええーっ!
―さっきのAさん。保険料をAさんが負担していたときは、みなし相続財産になって相続税がかかるって話したんだけど、もし、保険料をAさんの奥様が負担していて、奥様に死亡保険金がおりたとするでしょ、その時はなんと所得税がかかるの。
―元手が奥様だから、奥様が儲かったってことになるのかしら…。でも、それってちょっと怖いかも。サスペンスの香りがしない?
―なあに。想像力働かせすぎよ。じゃあね、問題よ。Aさんが亡くなった時の死亡保険金。奥様が保険料を負担していました。ここまでは同じだけど、その保険金をAさんのお嬢さんが受け取る契約だと、税金はどうなるでしょうか。
―本当、クイズみたい。お金を出したのは、奥様だし…。お嬢さんは関係なし…ブツブツ。こんがらがってきたわ。
―では、答えを発表します。
「Aさんの奥様から、お嬢さんに贈与したことになります。」
保険料負担者と保険金受取人を考えればわかりやすいかしら。
死亡保険金の課税関係は
➀被相続人が保険料を負担した保険金の部分は、「みなし相続」⇒相続税
➁保険料負担者=保険金受取人の保険金の部分は「一時所得」⇒所得税
➂保険料を負担したのが、被相続人でも保険金受取人でも無い保険金部分「贈与」⇒贈与税
となるので、この場合は➂贈与税。
―その説明、保険金の「部分」という言い方が何だか気になったんだけど。
―いい質問ね。もっと複雑になるけど、覚悟して。Aさんの保険契約で、最初はAさんが保険料負担していたのだけど、10年後に入院して、その後は奥様が5年間保険料を支払っていたとします。Aさんがお亡くなりになり、奥様が死亡保険金を6,000万円受け取りました。こんな時は、保険料負担の割合で判断するの。だから、保険料負担がこの場合は2:1なので、相続税の対象が4,000万円、奥様の一時所得として2,000万円として分けて申告する必要があるのよ。1つの契約でも保険料負担で「部分」分けする場合もでてくるわ。
―とにかく、だれが保険料を支払っているかと受取人の関係が大事だってことだけはわかった気がする。一度、うちの家族の保険や実家の保険、確認してみるわ。契約の時もちゃんと考えないといけないわね。