相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
あなたも、もしかして…。贈与税の相続時精算課税あるある
「実は、父の3回忌の法要がもうすぐで、私が長男でもあり仕切らないといけないので準備していたのですが。先日、急に、父の相続税申告をお願いした税理士さんから電話がありましてね、税務署の調査に引っかかってしまったらしいんです。」
-まあ、何か問題でも?
「いやー、その時は、まったく心当たりはなくて、公正証書遺言で弁護士さんも入ってもらったし。父は以前から、「俺の遺言どおりにしてくれよ」って言ってましたから、揉め事もなくすんなりと相続手続きも申告も終わっていました。まさに晴天の霹靂でした。」
-実際に、税務調査になってしまったということですか。
「ええ、税務署の人が2人、家に来て、色々と質問されました。相続財産の預金通帳は誰が管理していたのかとか。この家を父と私で、2世帯住宅に建て替えたときのことも訊ねられました。平成17年、もう17年も前のことです。当時は昔気質の父に反抗することもできず、言いなりみたいなものでした。私のほうも仕事が忙しかったので父に任せっきりでしたから、担当官の質問にもろくに答えられない感じでした。」
-ほかに何か訊かれました?
「それが贈与はなかったかと質問されまして…。お金をもらったりしたこともなかったので、「ありません」と答えたんです。申告書を作成するとき、税理士さんにも同じように聞かれたのですが心当たりがなくて。」
-それが何か?
「もちろん、家を建てるにあたり私も手元の預金からいくらかは出しています。残りは、父が出してくれていたことは知っていました。共有名義で登記したことも知っています。父が中心になって手続きはしてくれました。
後で税務署の指摘について税理士さんに説明されて、言われてみればというか。」
-贈与ですか?
「ええ。どうも『相続時精算課税制度』を利用した申告をしていたらしいです。「税金は関係ないから、手続きはしておいた」みたいなことを父が言っていたことを思い出しました。てっきり非課税かなにかの手続きだぐらいに思っていたので、当時から気にしていなかったというのが正直なところです。無責任といわれればそれまでですが、確かに登記の持分も多い気はしていたものの、それこそ税務署も何も言ってこなかったですしね。」
-相続税に影響があったということですか?
「そうなんです。父もよかれと思って手続きを取ってくれたと思いますし、ちゃんと説明してくれたのかもしれないのですが、丸投げしていた私には関心もなかった。今回、相続財産に『相続時精算課税制度』の分を加算して申告する必要があったということで、修正申告をすることになってしまいました。おまけに、自宅建築をした平成17年には、非課税制度ではなかったので、枠いっぱいの控除額の2,500万円と住宅資金特別控除の上乗せ分1,000万円、併せて3,500万円を修正することになってしまいました。相続税、加算税、延滞税で相当な追加税額になりました。他の兄弟たちにも影響が出て、申し訳なかったです。」
㊟平成15年~21年の特例である「住宅取得資金の贈与における相続時精算課税の上乗せ制度の住宅資金特別控除1,000万円」については非課税贈与ではありません。
『相続時精算課税制度』とは、エッセンスだけ取り出すと、「生前贈与するとき、2,500万円まで贈与税を非課税にしますが、その贈与した人が亡くなった時には、その遺産だけでなく、相続時精算課税を受けた財産を加算して一緒に相続税で課税します」という制度です。要は、「今は贈与税をかけないけど将来相続の時は相続税として課税します」という税制です。2,500万円を超えた場合は、その部分の税率は20パーセントで一律。やはり相続税で精算しましょうということになっています。
この時点で、お気づきでしょうか。相続時精算課税制度は、「相続税」の節税効果はあまり見込めないと言うことです。なんとなれば、相続財産からは外れないからです。
特に、この事例の場合は、3,500万円が建物に投入されたとするとそれに対応する15年後の固定資産税評価額=相続税評価額は1,000万円を下回るかもしれません。
贈与税の精算課税制度を利用するより、そのままお父様の持分で登記していた方が節税になったと思われます。このように、価値が下がること(値下がり)が必須であり、自宅のように収益性のないものについては精算課税制度を利用するのはデメリットになることもあるのです。
また、住宅建築資金に限らず、贈与税の相続時精算課税を適用した案件は、100パーセント税務署で管理されています。申告漏れの場合は、税務調査の対象となることは必然といえますから注意が必要です。