相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
「贈与」と「名義」
先月は、贈与税の精算課税制度について少しお話させていただきました。
そのつながりでもありますが、「贈与」をテーマにしてみましょう。
「贈与」とは、自分の財産を無償で相手方に与える意思表示をして、受け取る相手方がこれを承諾して初めて成立する契約です。(民法 549)
お父さんが「お前に○○会社の株式を1,000株あげるよ」、息子さんが「ありがとう、お父さん。僕の株式として僕の口座で管理していくよ。」
「あげました」、「もらいました」という双方の認識が必要なのですね。
それらが不十分なため、親族名義の財産が贈与されたものではなく被相続人(お亡くなりになった方)の遺産とされた判例はいくつもあります。もちろん、税務調査で認定されたものはそれ以上に多数あるということです。簡単に事例を紹介しましょう。
1 親族名義の預貯金
毎年、相続対策として贈与税の非課税限度枠内で、親族名義の預け入れを行っていた事例。
次のことから、贈与の意思は認められないとして被相続人の財産とされました。
① 被相続人の財産(所得)が資金の元手だった
② 各預金の管理を被相続人が行っていた
③ 被相続人が親族名義の預金の一部を自らのために使っていた
④ 被相続人が死亡するまで、親族名義の各預金証書等を保管していた
(東京地裁平成26年4月26日判決)
2 名義株(被相続人以外の名義となっている株式)
相続人である二男とその妻子名義の上場株式が相続財産とされた案件。
次のように購入、管理、処分などを行っていたのは被相続人であり、被相続人の財産と認めることができるとされました。
① 株式の購入資金を各名義人(親族)が自ら出資したと認められない
② 被相続人は親族名義を用いて株取引を継続的に行っていた
③ 売買に関する判断は被相続人が行っていた
④ 二男やその家族は、運用状態に関心が無かった(関与していなかった)
(大阪高裁平成12年3月15日判決)
おわかりいただけたでしょうか。
親(祖父母)が、親族の名義で「預金口座」を運用したり上場株式や債券を購入する「名義貸し(借り)」という形態は、日常的に行われているのが実情かもしれません。
けれども、被相続人の財産かどうかの判定は、単に名義のみによって判断されるものではありません。税務調査においても、「原資」「運用」「管理」など総合的に考慮されてしまうのです。
「贈与したつもり」が認められないことにならないように、「あげる人(贈与者)」から「もらう人(受贈者)」へ財産が移転していることが重要だということです。特に、先に掲げた事例のような金融資産などは、贈与以降、あげた人のものではないのですから、もらった人の自由にできるようにするのが基本なのです。
記憶に新しいところですが、昨年は、週刊誌やネット上で「生前贈与がダメになる」との見出しが躍っていました。心穏やかではなかった方もおられるかもしれません。
将来の法改正について前広な視点も大切ではあります。しかし、「あげる人」「もらう人」の双方が、「贈与」の意味をしっかり理解しておかないと、ご家族への想いを込めた相続税対策が無に帰することになってしまうかもしれないのです。