相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
法定調書と相続税 part 2
『内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律』
と言いながら、外国関係だけじゃない!!
「そんな、海外の事なんて自分には関係ないよ。」と思った方おられますよね。
でも、そうとも限らないのです。そのうえ、事業などしていなくても自分が提出しなくてはならない場合も…。おまけと言っては何ですが、ペナルティ的な取り扱いまであるのですから、「関係ない」と思われた方もちょっと覗いてみてはいかがでしょう。
この法律で規定されたものは次の4種類。順番に説明していきたいと思います。
国外送金等調書
国外財産調書
国外証券移管等調書
財産債務調書
1 国外送金等調書とは
金融機関や郵便局が作成提出するものです。100万円を超える国外送金などの為替取引を行ったときは、顧客名や金額などその他の事項を記載した「国外送金等調書」を税務署に提出しなければならないのです。もちろん、国外からの受金も対象です。
それをもとに税務署から「お尋ね」が来て、その入出金が何のお金、例えば、送金であれば「海外の不動産を買うため」とか「海外居住の子供への贈与」とか、理由を聞かれるわけです。受金であれば、「海外での収益」だったとか。
お察しのとおり、その時には課税にならなくても、少なくとも、何らかの海外との取引があるという資料には十分になりうるのです。
2 国外財産調書とは
提出しなくてはならない対象者の条件は、事業者限定というわけではないので、少し頭を切り替えてください。国外に財産を持っているだけであなたも対象者になってしまうのですから。対象者は次のとおり。
「その年の12月31日において、海外資産の合計額が5,000万円を超える国外財産がある国内居住者」である方です。(居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において日本国内に居住していた期間が5年以下の人は除かれます。)
確定申告をするかどうかではなく、5,000万円を超えているかどうかだけで決まりますので確定申告をする必要が無い人でも提出しなくてはならないので注意が必要です。
令和5年分からは翌年の6月30日までが税務署に提出する期限となっています。(令和4年分までの提出期限は翌年3月15日です。)
特筆すべきは、提出の有無で優遇やペナルティがあることです。
国外財産調書が期限内に提出されていれば、記載されていた国外財産に関して所得税や相続税の申告漏れ等があったとしても、加算税(過少申告加算税又は無申告加算税)が5%軽減されるのです。㊟本税は当然許してくれませんが…。
他方、国外財産調書を提出してなかったり、提出していたけど一部だけしか書いていなかったり、重要な部分の記載が不十分だった場合などにはペナルティがあります。その国外財産に対する加算税が5%割り増しになるのです。
そのほか、もっと厳しい罰則も設けられており、国外財産調書の虚偽記載による提出や正当な理由なく提出しない場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するという法律もあります。
3 国外証券移管等調書とは
金融商品取引業者(証券会社や銀行など)が、作成提出します。顧客の依頼により、国境を越えて有価証券を国外証券口座へ「国外への証券移管」をしたり、国外証券口座から国内証券口座への「国外からの証券受入」をしたときに税務署に提出する必要があります。
これは、送金・受金にとどまらず、有価証券についても国外取引を利用した租税回避への国税庁の取り組みのひとつとして平成26年度税制改正で創設されたものです。
4 財産債務調書とは
この調書も事業者だけが対象というわけではありません。
所得税の確定申告書を提出しなければならない人(一定の条件の還付申告書を含む)のうちで、退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超えている場合で、かつ次の①②のいずれかに該当すると財産債務調書の作成が必要です。
① その年の12月31日に合計3億円以上の財産がある。(又は)
② 国外転出特例対象財産(有価証券等、未決済信用取引、未決済デリバティブ取引の権利など)の合計額が1億円以上ある。
“注意”
令和5年分以降からは、その年の12月31日において合計額が10億円以上の財産を有する方は、申告の有無にかかわらず提出義務者となるとの改正がされました。
平成27年の税制改正以前は、「財産及び債務の明細書」を確定申告書に添付することとなっていましたが、形式的になり、正確性や網羅性に欠ける点がありました。国外財産調書の導入を期に、「明細書」を廃止し、「財産債務調書」の提出が求められることになりました。(厳しくなる一辺倒です。)
「財産債務調書」も前出2「国外財産調書」と同様に厳格性を求められるとともに期限内提出等の有無で、加算税については、5%の軽減と5%の割増という制度が設けられています。
なお、2「国外財産調書」の提出義務もある場合は「財産債務調書」と両方とも提出しなければなりません。提出期限は「国外財産調書」と同じです。
今回のコラムでは、紙面の都合上、法定調書ごとの提出基準や各々の財産の評価の方法など一部詳細は割愛いたしましたことをご了承ください。
実際に提出する必要がある場合は、国税庁のHPなどで今一度ご確認ください。また、「財産債務調書」などの作成にあたり財産の評価を要する場合は、相続税に精通した税理士にご相談されることをおすすめします。(個人的には、もう少しご自身で作成しやすいように簡略化すべきでは…との思いです。求められる内容が専門的すぎるので。)
「法定調書」とは、適正課税のためという目的で提出を求められているのですから、当然のことではありますが、相続税にも深く関係していることがお分かりいただけたと思います。
相続税調査の対策のためにも、「国外財産調書」や「財産債務調書」の提出は忘れないようにしたいものです。