相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
マンション敷地は相続税評価額20%以上の減額?
平成29年まで500㎡以上の土地等を所有する地主等にしか縁のなかった「広大地の評価」が、相続財産の評価を定める財産評価基本通達が改正され「広大地の評価」を改め「地積規模の大きな宅地の評価」となったことから、平成30年1月1日以降、建築されている場所によってはマンションの敷地にも適用(一室の所有でも適用可能)できることとなっています。
都心の駅前やタワーマンションはこの評価減を適用することができませんが、住宅地や郊外に建築されたマンションは評価減を適用できる可能性が高いので、申告された方も、これから申告する方も確認してみてはいかがでしょうか。
1.マンションの敷地を確認
では、何を確認すれば良いのでしょうか?
ずばり、マンション敷地の面積、用途地域と容積率、路線価図の地区です。
マンション敷地の面積は、そのマンション購入時の契約書や登記事項証明書等に記載されています。
用途地域と容積率は、今は便利になり多くの自治体でネット公開されていますので、パソコン等で用途地域と容積率を確認することができます。下の図は横浜市行政地図情報提供システム「i-マッピー」というWebサイトから調べたものです。パソコンやタブレットをお持ちでない方は、市区町村の都市計画課の窓口に行って確認することになります。都市計画課には地図が色塗りされた都市計画図というものがあり、その図面を見て職員が調べて教えてくれます。
上の図で確認すると、薄ピンクで色付けされた部分の用途地域は近隣商業地域で、容積率は300%です。
次に、路線価図で路線価の地区を調べます。路線価も今は国税庁のホームページから調べることができますし、税務署の窓口でも下の図と同じ画面を閲覧しプリントもすることができます。
上の路線価図で確認すると、○をつけた路線に面する地区は普通商業・併用住宅地区です。
2.「地積規模の大きな宅地の評価」の要件
「地積規模の大きな宅地の評価」の要件は縷々ありますが、マンション敷地がこの評価に該当するか否かの要件は四つです。一つ目(面積要件)は、マンション敷地の面積が、三大都市圏※文末参考参照においては500平方メートル以上、三大都市圏以外の地域においては1,000平方メートル以上であること。二つ目(地区区分要件)は、マンション敷地を評価する路線価の地区が普通商業・併用住宅地区又は普通住宅地区であること。三つ目(都市計画要件)は、マンション敷地の用途地域が工業専用地域以外であること。四つ目(容積率要件)が、マンション敷地の容積率が400%(東京都の特別区においては300%)未満であることです。
3.「地積規模の大きな宅地の評価」をした場合の評価減は?
上記図で、薄ピンク色の地域かつ○をつけた路線に面するマンションの敷地が横浜市所在の敷地面積2,000㎡であるとした場合、「地積規模の大きな宅地の評価」をすることができるか検討し、その評価減はどうなるのかを以下で説明していきます。
該当のマンション敷地は、①横浜市に所在する敷地面積2,000㎡、②路線価地区が普通商業・併用住宅地区、③用途地域が近隣商業地域④容積率が300%ですので、上記要件にあてはめ判定すると、「地積規模の大きな宅地の評価」を適用することができることがお分かりになるでしょう。
以下「地積規模の大きな宅地の評価」を適用した場合の補正率や実際の計算をしていきます。
(1)規模格差補正率
評価対象地の評価は、要旨「地積規模の大きな宅地の評価」に定める以下の算式により規模格差補正率を計算し、不整形地補正まで計算した路線価格に規模格差補正率を乗じて計算することになっています。実際に前述のマンション敷地の例を基にその規模格差補正率を計算すると、以下のとおりその補正率は0.75となり、「地積規模の大きな宅地の評価」をしない場合に比べ20%以上の減額となることがお分かりになるでしょう。
上の算式中の「B」及び「C」は、地積規模の大きな宅地が所在する地域に応じ、次に掲げる表のとおりです。
(2)マンション敷地の評価額
規模格差補正率を計算したことにより、以下②のとおりマンション敷地の評価額を求めることができます。「地積規模の大きな宅地の評価」を適用しない(規模格差補正率1.00)場合の評価額以下①との差額は1,850,000円となり、インパクトは割合に比べ少なくなりますが、この金額はマンションの1室の敷地権割合を100分の1と想定し、1室のみ所有している場合を評価した金額ですので、1棟又は複数室を所有すれば、それなりにインパクトのある金額となるでしょう。
①「地積規模の大きな宅地の評価」を適用しないで計算
評価額は、敷地権割合を100分の1として「地積規模の大きな宅地の評価」(他の画 地補正等が無いものとした場合)を適用しないで計算すると、7,400,000円となります。
②「地積規模の大きな宅地の評価」を適用して計算
評価額は、敷地権割合を100分の1として「地積規模の大きな宅地の評価」(他の画地補正等が無いものとした場合)を適用して計算すると、5,846,000円となります。
4.中低層のマンションを所有している方は確認
平成29年まで適用することができなかったマンションの敷地について、その評価額を2割以上も減額することができ、しかも一部屋の所有からでもその対象となることは、非常にインパクトのあることと思いますが、皆様はどうお思いになるでしょうか。冒頭で記述したように、都心の駅前やタワーマンションなどが建築されている地域は容積率が高くこの評価減を適用することができませんが、路線価が高額となっている東京23区内などであっても、中低層のマンションなどが建築されている地域は適用を受けられることがあります。皆様もご自身がお持ちになっているマンションの敷地について「地積規模の大きな宅地の評価」をすることができるか確認してみてはいかがでしょうか。
相続財産の評価は意外に奥深く、特に不動産の評価は物理的に見ることのできない数々の法規制を受けることになっていますので、評価で不利益を被らないよう、相続税の申告はベテランの税理士にご相談されることをお勧めします。
※国税庁ホームページ、(平成30年1月1日以降用)「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシートより
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。