相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
親子間の土地の使用貸借とは 贈与税と相続税の取扱い~親が所有する自宅の敷地の一部に子が自宅を建てた場合~
以下の例のように親の土地に子が建物を建てたとき、子は親からB土地を買取るか、借りなければなりません。借りる場合には、有償か無償か、有償の場合には権利金や賃料をいくらにするのかという問題がありますが、そのような場合のほとんどは、無償(タダ)又は固定資産税の負担で済ませていることが多いのではないでしょうか。
一方、一般取引では、土地の貸借が行われる場合、借手は地主に対して地代を支払います。
権利金の支払が一般的となっている地域においては、地代のほか権利金などの一時金を借地権設定の対価として支払うのも通例で、借手に借地権という財産が生じます。
そうすると、親の土地を無償で借りた場合にも借地権などと同様に土地を使用する権利(以下「使用借権」といいます。)が発生し、子が親から使用借権相当額の贈与を受けたとして贈与税が課税されるのではないかという疑問が生じるのではないでしょうか。
今回は例のように親の土地を無償で借りて、子が自宅を建てた場合のケースについて、建てたときの贈与税や親が亡くなったときの相続税の課税がどうなるか説明します。
1 使用貸借とは
親の土地を子が建物を建てるために無償で借りるような状況のことを、使用貸借といいます。厳密にいうと、相続税と贈与税の取扱いにおける使用貸借とは、民法第593条に規定する契約です。
民法第593条に規定する契約とは、他人の物を無償で借りて使用及び収益をするという契約です。無償という点で賃貸借と異なりますが、相続税及び贈与税における取扱いは、有償であっても対象土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものはこれに該当し、対象土地の借受けについて地代の授受がないものであっても権利金その他地代に代わるべき経済的利益の授受のあるものはこれに該当しないとされています。
(「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日)1後段)
2 「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日)
⑴ この取扱いの定め
この「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日)(以下「使用貸借通達」といいます。)は、個人間の土地の貸借(使用貸借)関係を定めたものです。当事者のいずれか一方が法人である場合のその一方の個人については、原則として、従来どおり法人税の取扱いに準拠して取り扱うこととなりますので、この取扱いの適用はありません。
定められているものは、以下の5つ+経過的取扱い2つで、このうち今回のケースに適用されるものは、①及び③となります。
① 使用貸借による土地の借受けがあった場合
建物又は構築物(以下「建物等」という。)の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては、借地権(建物等の所有を目的とする地上権又は賃借権をいう。以下同じ。)の設定に際し、その設定の対価として通常権利金その他の一時金(以下「権利金」という。)を支払う取引上の慣行がある地域(以下「借地権の慣行のある地域」という。)においても、当該土地の使用貸借に係る使用権(使用借権)の価額は、ゼロとして取り扱う。
この場合において、使用貸借とは、民法(明治29年法律第89号)第593条に規定する契約をいう。したがって、例えば、土地の借受者と所有者との間に当該借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものはこれに該当し、当該土地の借受けについて地代の授受がないものであっても権利金その他地代に代わるべき経済的利益の授受のあるものはこれに該当しない。
② 使用貸借による借地権の転借があった場合
(省略)
③ 使用貸借に係る土地等を相続又は贈与により取得した場合
使用貸借に係る土地又は借地権を相続(遺贈及び死因贈与を含む。以下同じ。)又は贈与(死因贈与を除く。以下同じ。)により取得した場合における相続税又は贈与税の課税価格に算入すべき価額は、当該土地の上に存する建物等又は当該借地権の目的となっている土地の上に存する建物等の自用又は貸付けの区分にかかわらず、すべて当該土地又は借地権が自用のものであるとした場合の価額とする。
④ 使用貸借に係る土地等の上に存する建物等を相続又は贈与により取得した場合
(省略)
⑤ 借地権の目的となっている土地を当該借地権者以外の者が取得し地代の授受が行われないこととなった場合
(省略)
― 経過的取扱い ―
⑥ 土地の無償借受け時に借地権相当額の課税が行われている場合
(省略)
⑦ 借地権の目的となっている土地をこの通達の施行前に当該借地権者以外の者が取得している場合
(省略)
⑵ 今回のケースへのこの取扱いの当てはめ
① 建てたときの贈与税の課税
今回のケースを上記⑴①に当てはめると、子には、自宅という建物の所有を目的とした使用貸借による土地の借受けがあり使用借権が発生しますが、使用借権の価額はゼロとして取り扱われることになりますので、贈与税が課税されることになりません。
ゼロ円の価値の権利が親から子へ移転(贈与)しますが、ゼロ円に課税したとしても税額はゼロ円となりますので、実質課税されることはありません。
② 親が亡くなったときの相続税の課税
そして、将来親から子供が相続する時に、使用借権のある土地の取扱いは、上記⑴③に当てはめ、使用貸借に係る土地を相続により取得した場合として、当該土地すべてが自用地として相続税の課税価格に算入することになります。
⑶ 評価単位
なお、使用貸借による借主の権利は、貸主、借主間の情誼により無償で発生するもので借主の権利は極めて弱く、宅地の評価に当たってはこのような使用借権の価額を控除すべきではありません。そのため、所有する宅地の一部を自ら使用し、他の部分を使用貸借により貸し付けている場合として、その全体を1画地の宅地として評価することになります。(財産評価基本通達7-2)
したがって、今回のケースにおける評価単位は、1画地の宅地としてA、B土地全体です。子が自宅を建てる前と評価単位は変わりません。
3 まとめ
今回のケースについては、子が取得することになる使用借権はゼロ円と評価されることから贈与税が課税されず、将来、親の所有する土地を相続により取得するときにおいても使用借権は考慮されず当該土地は1画地の自用地として評価され、相続税が課税されます。使用借権があろうとなかろうと課税に影響はないということです。
ただし、相続税における小規模宅地等の特例(被相続人等の事業の用又は居住の用に供していた宅地等のうち、一定の面積までの部分について、相続税の課税価格を80%又は50%減額するという特例)については、他の要件を満たすか否かにより違いますが、B土地部分がこの特例の対象にならないことがあります。
簡単に土地を貸している借りていると表現されますが、対個人なのか対法人なのか、権利金の有無、賃料の有無、賃料があればいくら払っているのかなど、確認しなければ相続税の課税価額を算出することができません。
赤の他人への貸付けは、自分が損しないように一般的な取引となり単純に判断することが容易にできますが、身内への貸付けだとどうしてもその辺があいまいになってしまい、なかなか難しい問題となります。ご自身での判断が難しいとお思いになられたのであれば、転ばぬ先の杖、独りで悩まず信頼できるベテラン税理士を見つけて相談なさることをお勧めいたします。
田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
JTMI税理士法人日本税務総研/相続支援ナビ https://souzoku.jtmi.jp/taxprime/
税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。