相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
『上場廃止になった株式の譲渡』は上場株式の譲渡ではない!!国税庁も着目、調査も。
TOBとは、「株式公開買付」のことです。
“Take Over Bid”の略称です。
上場会社を買収したり、経営実権を握るためなどに使われる手法です。
株取引をされている方は、もちろん御存知かとは思いますが、上場企業の発行する株式を、「期間」や「株数」、「価格」などを提示して、通常の市場売買ではなく市場外で一括して買い付けることを言います。
さて、2024年もTOBが活況のようです。昨年より2か月以上も早く30件に到達したとのこと。
このペースであれば、昨年(74件)と同様70件越えが確実視されると言われています。
その中には、「上場廃止予備軍」もどうやら含まれているようなのです。
そこでこれからが本題です。
『TOBとはいえ、上場株式だし、持っている株式は全部特定口座。何にも、関係ないさ』と高を括っているあなた。
本当に大丈夫なのでしょうか。
1. まず、今使っている特定口座内でTOBに応じた取引をした場合。
これは、問題ありませんので安心してください。いつも通り、特定口座内での損益通算などの計算がされているはずです。
(一般口座での取引だと、値上がり益が出ていれば申告が必要ですが、これもいつも通り。)
2. 注意しなければならないのは、TOBに応じないまま、その株式が上場廃止になってしまった時です。
うっかり保有したままだと「どうしよう。」と不安になってしまうかもしれません。
それでも結果的には、買付者や公開買付者の親会社などに強制的に買い取られる形になるのです。
もちろん、株主には、その対価として金銭が支払われます。(ただし、一般的には上場廃止の2~3か月後までは代金を受け取ることはできないようですが。)
「じゃあ、何の問題もないのでは?」と思われるかもしれません。
違うところは、上場廃止となった株式の譲渡は、上場株式の譲渡ではないということなのです。
既に上場廃止となっているので、上場会社として取り扱うことはできなくなります。
そのため、証券会社を通さずに「買い取る会社」と「株主」との相対取引(取引者同士が1対1で直接取引すること)になってしまうのです。
その結果、税法の取り扱いが変わってしまいます。
特定口座に認められている取り扱いも、証券会社を通して売却した上場株式等にのみ認められている計算もできなくなります。
〇特定口座内で損益の計算はできません。
それは譲渡益があった場合にも、いつもは自動的に行われていた税金の源泉徴収ができていないことを意味します。
譲渡益(買取価格-取得費等で計算した値上がり益)が生じたときは、確定申告が必要に。
〇他の上場株式の譲渡所得との損益通算や繰越控除ができない。
比較的TOBの価格が高く設定されることが多く、利益が出ることも想定されますが、ほかの上場株式で大きな譲渡損失があっても、通算することができません。
前年以前の譲渡損失による繰越控除も適用できないのです。
また、仮に、相対取引で損失が出た場合も、上場株式の譲渡益との通算や、損失の繰り越しはできないことになります。
令和5年6月、国税庁「株式公開買付(TOB)成立後、上場廃止となった株式の買い取りに係る所得税(株式等譲渡所得)の申告漏れについて」という報道発表がされています。
法定調書である「株式等の譲渡の対価の支払調書」に基づき、上場廃止後に株式を売却した379人を調査、半数を超える199人が譲渡益の申告漏れとなっていたとのことです。
それを踏まえて、申告漏れがないかを確認依頼する広報となっています。
最後に次のような一文がありました。
(*報道発表資料の一部を転記。)
【今後の対応】
・国税庁においては、申告が必要と見込まれるにもかかわらず、無申告となっている方に対して、今後、積極的に調査等を行うなど、適切に対応してまいります。
TOBが成立して、その後上場廃止になってしまった株式の譲渡の場合は、1なのか2なのかで取り扱いは全く別になってしまいます。
ずっと特定口座で管理していた場合は、思い違いなど無いようにしたいものです。
高額な買い取り額のケースも散見されるので、申告の要否をしっかりチェックすることが大切なのです。