相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
令和6年からの「相続時精算課税制度」どうなるの?【贈与税 相続時精算課税編】
相続時精算課税制度
・ 親や祖父母からそれぞれ最大2,500万円まで贈与税を非課税にしますが、その贈与した人が亡くなったときには、その遺産だけでなく、相続時精算課税を受けた贈与財産を加算して一緒に相続税で課税するという制度。
・ 贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の続柄が「親子」か「祖父母と孫」であること、贈与者が贈与した年の1月1日に60才以上、受贈者が18才以上などの条件があります。 (2022年7月号関連コラム搭載。)
「この間、ニュースで聞いたの。終活についてのアンケートで、80代以上でも3人に1人を超える方が、終活なんてまだ早いって思っているという結果だったらしいの。でも、贈与税の暦年課税も改正になることだし、やっぱり、家族で考えたほうがいい時期なのかもしれないわね。」
「そうそう、相続時精算課税制度のほうも令和6年から変わるって聞いたけど。私も実は、以前どうしようか考えたことがあるの。でも、選んだら二度と暦年課税には戻れないって聞いて二の足を踏んでいる感じ。選択したら最後、暦年課税にはもどれないから基礎控除110万円も受けられなくなって、おまけに少しでも贈与してもらったら、申告しないといけないとかいろいろあるみたいだし。」
「そういう人が多かったから、改正されることになったんじゃないかしら。一度選択するとその贈与者からの贈与は、暦年課税に戻れないというところは変わっていないけれど、精算課税の基礎控除110万円、新しくできるのよ。」
「ちょっと待って、ということは、相続時精算課税にしたら、母方の祖父母は健在だから100万円ずつでしょ。そして、父から100万円、母から100万円とか、無税でもらえちゃうってこと?!」
「あら、そこまでは甘くないのよ。基礎控除額は、もらったあなたの申告の控除額だから上限が110万円。贈与者の人数や金額には関係ないの。暦年課税の基礎控除の110万円と同じなのよ。」
「なんだ。そうなのね。」
― 時々、暦年課税においても、一人の贈与者から110万円の控除ができると思い違いをなさっている方をお見受けします。贈与税は、財産をもらった方=受贈者の申告ですから、受贈者が贈与された財産が合計110万円を超えると、例えば、親から100万円+配偶者から100万円贈与してもらうと200万円ですから、基礎控除を超えることになり申告が必要なのです。
相続時精算課税制度を選択した複数の贈与者から合計110万円を超えた贈与を受けた場合にも申告が必要です。その場合、基礎控除はその贈与財産額に応じて、按分計算します。贈与者各人ごとに、相続税で精算すべき財産の額を把握しておく必要があるからです。
某マダムの夢想した贈与を例にしてみましょう。
祖父、祖母、父、母 各100万円ずつの贈与(精算課税制度適用)
祖父からの100万円について以下の通り。
○基礎控除額の按分計算
1,100,000(基礎控除額)×1,000,000/4,000,000=275,000
○相続財産に加算する額の計算
1,000,000-275,000=725,000円
同様の計算により、祖母、父、母についても、各々725,000円ずつが、相続税申告時に加算すべき財産ということになります。
「110万円が上限だったら、暦年課税とそんなに変わらないってことかしら。」
「先日、暦年課税の相続開始前の贈与加算が3年から順次7年に期間拡張されるってお話ししたじゃない(2023年1月号)。覚えているかしら?」
「もちろん。その期間は、たとえ基礎控除以下でも、加算されるのよね。」
「相続時精算課税だから、適用選択後は基礎控除を超えた分を合計して、相続財産に加算しなければならないのは、初めからのお約束。でも基礎控除分は、暦年課税の7年加算と違って加算の対象にならないの。相続時精算課税制度は、7年縛りじゃないのよ。だから…」
「わかったわ!!精算課税では毎年の基礎控除の110万円を超えなければ、贈与されても、相続時に加算されないってことね。父に話してみようかしら…。とにかく、精算課税制度のこと、ちゃんと調べてもう一度検討する価値はあるわね。」
― 令和5年12月31日までは、精算課税制度選択の場合、基礎控除がないので、110万円以下でも贈与があった年は、2,500万円の特別控除の残額を減らすというような申告をしなくてはなりません。更に、毎年の贈与総額が2,500万円を超えると、やはり少額の場合でも、贈与税を申告して20%の納税をする必要があります。
令和6年からは、精算課税制度に年間110万円の基礎控除が設けられ、基礎控除以下の場合は、申告不要となります。これは、税額の面もさることながら、常に申告しないといけないというプレッシャーからも少しは解放されて、気持ちにも余裕ができますよね。
また、令和6年以降に初めて精算課税を選択する場合は、
○ 基礎控除を超える場合、「贈与税の申告書」と「相続時精算課税選択届出書」及びその添付書類をセットで提出する。(従前と同じ)
○ 基礎控除以下の場合、「相続時精算課税選択届出書」及びその添付書類を提出する。(改正分)
ことが必要です。相続時精算課税制度は、特例ですので初年度の申告期限(贈与の翌年の2月1日から3月15日)までに、必ず提出することが重要です。期限内に提出されないと、相続時精算課税制度が適用されず、暦年課税の取り扱いとなりますのでご注意ください。
相続時精算課税を選択した場合は、贈与税の申告書や届出書の控えは後に相続税の申告に必要となりますので、必ず保管しておいてください。
すでに、改正前の相続時精算課税を選択している場合でも、令和6年以降の基礎控除以下の贈与は申告書の提出は不要となります。(令和5年以前の贈与分にさかのぼって基礎控除の適用はできません。)
相続時に基礎控除分を加算しなくともよいため、暦年課税よりもある意味では有利といえます。令和6年以降、相続時精算課税を選択する方が増えるかもしれません。
ただし、一度選択してしまうと、選択替え(暦年課税に戻る)ができないので、すぐに飛びついてしまうのは危険です。選択する相手や贈与する財産によっては、ほかの特例との関係性から有利不利があるかも知れませんので注意が必要です。
まずは当人同士の話し合いや気持ちが第一となりますが、できれば親族の意見も含め、税理士に相談してアドバイスを受けてから「相続時精算課税制度の選択」をするかどうかを選択されることをおすすめしたいと思います。
㊟この「相続時精算課税制度」の改正は令和6年1月1日以降の贈与からの適用です。ですから、贈与が令和6年1月1日以降で、令和6年分の贈与税の申告や届出を令和7年2月3日(月)から3月17日(月)までに提出された方からが対象です。今年(令和5年)中は、従前の取り扱いのままなのでくれぐれもお間違えの無いようにしてください。