相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
遺産の相続と分割
親族・相続関係の民法改正が令和2年4月1日までにすべてが施行されました。多くの場面で改正についての解説を目にするところですが、実際に相続が開始したときは、個別の知識より、全体的な流れを大掴みにしておくことも大切です。今回、復習を兼ねて「遺言」や「遺産分割協議」を中心に整理していこうと思います。
「相続」という仕組み
相続が開始すると、日本の法律では、亡くなった方は権利の主体となることはできません。そのため、その人(以下、被相続人といいます。)の財産がどうなるのかを民法で規定しています。
分割の実行
被相続人の財産(遺産)は、相続開始のその瞬間から相続人に継承され、相続人が数人いる場合には遺産は各相続人の共有ということになります。
この遺産を「相続人の誰に帰属するのか」、「その割合はどうするのか」などを分配する手続きが「遺産分割」です。手順はおおむね次のとおりです。
遺言による分割方式の指定
遺言による分割方式の指定がない場合
協議による分割方式の指定 (ぜひ、ここで決着したいところです。)
協議が調わない場合
調停や審判による分割
遺言と分割協議と法定相続の関係
1 遺言は、被相続人が生前に行った自分の財産の処分について意思表示されたものです。『人』は自分の財産の処分を自由に決めることができますので、遺言がある場合には法定相続分ではなく、遺言者の意思が尊重されることになります。原則としては、被相続人の遺言内容が優先されるのです。
2 それでは、遺言の内容以外の分割は絶対にできないのでしょうか。
遺言自体が作成されてから、期間の経過により、相続人の皆様の望みとかけはなれたものになってしまっていることもあるかも知れません。
もし、遺言書が存在する場合でも、「無条件」ではありませんが、遺言書の内容とは異なる遺産分割協議は認められています。
しかし、次のいずれかにあてはまる場合には、遺言以外の遺産分割はできないということになります。
・遺言者が、遺言と異なる遺産分割を禁止している。
・遺産分割協議に反対している相続人が一人でもいる。
・遺言書の存在を知らない相続人が一人でもいる。
・遺言書によって相続人以外の受遺者がいる場合で、その受遺者が反対している。
・遺言執行人がいる場合で、その遺言執行者が反対している。
など。
要するに、「関係者全員」が納得する必要があるということです。
別な言い方をすれば、たった一人でも遺産分割協議の方法について納得がいかなければ、多少問題点を内包していても、結局は遺言に従うほかなくなってしまいます。
遺言を作成される場合は、民法や相続税との関係、相続人や受遺者の想いにも配慮する必要があります。
3 法定相続分とは、
・遺言がない場合
・遺産分割協議がない場合
・協議がうまくいかずに裁判になった場合
に分割する目安となりますし、遺留分侵害請求権の金額の計算などにも用いられます。
基本的には、法定相続分にとらわれる必要はなく、遺言や遺産分割協議などで自由に分配することができます。
分割協議のやり直し
遺産分割協議が成立すると、やり直しはできません。(原則)
しかし、遺産分割協議を相続人全員の合意によって解除(合意解除)してやり直しすることも可能です。この場合も、相続人一人でも反対し合意が得られなければ、やり直すことはできません。
また相続税・贈与税の取り扱いでは、すでに行った遺産分割を一旦「完了したもの」と扱われます。
遺産分割のやり直しで移動した財産については、「贈与」または「譲渡」とみなされ、贈与税や所得税がかかる可能性がありますので注意が必要です。相続や贈与に明るい税理士にご相談されることをおすすめします。
※ 「相続人の範囲」や「相続分」などの民法の規定等については、このホームページの「相続の法律Q&A」に掲載されていますので併せてご覧ください。