相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
今知っておきたい贈与税と相続。少しだけ調査のこと-税制改正の影響について思うこと-
「贈与税暦年課税」の改正について、令和6年分贈与から贈与加算が相続前3年から7年に順次延長されることは皆さんもよくご存じのことと思います。
実は、その「順次」の部分を勘違いされている方が相当数おられるようなのです。
先日ある方とのご相談の際。
「令和6年になったので、相続税に加算する年分が伸びてしまったので4年分加算になるのですよね。」
「加算するのは、3年前までの贈与で大丈夫ですよ」
「はて?…」
確かに法律の書き方わかりにくすぎます。
令和6年1月1日以後の贈与が基準になっているというところが味噌なのです。
加算が必要な対象期間について次の表をご覧ください。
贈与者の相続開始日が令和6年1月1日~令和8年12月31日の加算対象期間は「相続開始前3年間」となっています。
加算期間は、令和〇年相続という判別の仕方ではなく、「令和6年1月1日以後の贈与で取得した財産があった場合」に着目して相続税の計算に適用されます。
例えば、令和6年8月1日に相続開始の場合は、加算しないとならないのは、令和3年8月1日から令和6年8月1日の贈与です。令和6年の贈与は、もともと3年以内の贈与の枠内に含まれています。そのため、加算対象期間は変わらないわけです。
相続開始日で見てみると、実際に影響が出るのは、令和9年1月2日相続開始以後からです。対象期間が完全に7年間になる令和13年1月1日までは、相続開始日にかかわらず「令和6年1月1日から相続開始日までの期間の贈与を加算する」ということになります。
(なお、令和9年1月1日の相続開始の場合、3年前が令和6年1月1日のため加算期間は従来と変わりません。)
相続時精算課税のご相談もあります。
「精算課税にも基礎控除が110万円できることになったし、7年間の加算も必要ないし、申請してみようかと思うのですがどうでしょう。」といった具合です。
一概には言えないのですが、私はあまり積極的にはおすすめしていません。
一度選択してしまったら、撤回することができないからです。
110万円の控除があるということは、逆にそれにしばられた相続対策しかできないということを意味します。
特に相続税の税率が高くなってしまうことが想定される方の場合は、年間110万円では焼け石に水の場合もあります。
(何と言っても、相続税の累進課税における最高税率は55%です!)
贈与者60歳で申請して、85歳の相続開始の場合、25年間かかっても3,000万円に満たない財産シフトにとどまってしまうのです。
暦年課税の7年分の加算(770万円分)のために有効な対策の検討さえできないのです。
また、相続時精算課税を選択した瞬間から、その2人の間では、亡くなるまでの贈与をすべて加算しないといけないことになります。(令和5年までは全額。もちろん、基礎控除が創設された以降のものは、その金額を超えた額です。)
前出の例で、25年前に精算課税を選択していたものの、20年前に500万円贈与があり、うっかり申告していなかったとしましょう。
その場合も、相続税の申告時には、それを加算して申告しないとならないのです。
見方を変えると、時効がなくなるとも言えます。
もちろん、無申告を助長するわけではありませんが、「うっかり」という言い訳も、20年経っていようとも、その500万円をとっくに使ってしまっていても相続財産に加算するというのが相続時精算課税の制度なのです。
そこで、相続税調査ですが、暦年課税の加算期間が徐々に伸びるに従い、当然のことながら、7年間の贈与に関する調査がされることになるでしょう。
また、相続時精算課税適用者が増加することになれば、「贈与」言い換えれば「資産のシフト」状況のチェックが、より長期間に渡ることも考えられます。
今回の改正は、相続時精算課税制度を広めたいという国策です。(実は、これまで利用が広がっていたとは言いがたい状態でした。)
早期に、次の世代に資金を移すことにより消費に回してもらいたいという志向も理解できます。
とは言え、逆らうわけではないですが、改正相続時精算課税も万人に有利というものではないので、資産の種類や総額、家族構成など「110万円の基礎控除が有効に活用できるかどうか」の見極めは大切です。
「早合点は大間違いの基」
少しでも疑問があれば、相続・贈与に精通した税理士にご相談ください。