

相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
火事と保険金 災害大国日本に生まれて
想像に難くないとは思いますが、年が改まってから確定申告が終わるまでが、税理士である私にとっては1年のなかでも最も忙しい時期でした。
(コラムもお休みさせていただいておりました。)
そんな期間中にもふと手を止めてしまう時がありました。
能登半島地震・阪神淡路大震災、そして、東日本大震災。
加えて、今年は、山火事。
途切れることなく、災害のニュースが流れてきます。実は、私も阪神間居住のため、30年前に自宅が大規模半壊(ほぼ全壊)でしたから、他人事とは思えないのです。
心配したり、応援したりすることしかできず、どうか無理なさらないでと祈るだけでした。
これからお話しすることは、とても悲しいテーマなのでコラムにはどうかとずっと思ってきたのですが、災害が多いこんなときだからこそと思い切ってとりあげることにいたしました。
火災で死亡した場合の相続財産について
相続財産とは、「現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいいます。」(国税庁タックスアンサーNo.4105より抜粋)とされていますが、火災などの場合の取り扱いはどうなるのでしょうか。
【事例】
火事で家屋が全焼し、老夫婦が巻き込まれてしまいました。
ご主人は、焼け跡から焼死体で発見されました。
奥様は、なんとか助け出されたものの、重症だったため、残念なことに10日後に亡くなられてしまいました。
家屋には、家屋の所有者により火災保険がかけられており、2か月後、相続人に3,000万円の支払いがされました。
ここで相続財産は、家屋なのか、保険金の請求権なのか考えていきたいと思います。
1 家屋の所有者が夫だった場合
相続財産は、建物と考えるのが普通です。なぜなら、火災保険は鎮火時の焼失状態により確定するからです。事例のご主人のように、死亡時刻が特定できない場合は、3,000万円の保険金の請求権を取得して、その後相続により相続人が保険請求権を取得したと考えることには、無理があります。
その家屋については、焼失していたのですから価値は無くなってしまっていると考えられます。評価は0になるのではないでしょうか。
(ただし、火災保険の保険事故が確定していないという点から考えると、その契約を相続開始時に解約するとした場合に支払われることとなる金額(解約返戻金)に相当する額については相続財産になるのではないかと思われます。)
2 家屋が妻の所有の場合
相続財産の中には、権利も含まれるのは先に述べた通りです。
相続財産は、火災保険金請求権として3,000万円となります。
火災保険(建物保険金等)は、鎮火した段階で、判定されるのが通常です。
そのため、保険会社の処理などで保険金の実際の支払いが2か月後になったとしても、火災保険金を請求する権利は既に生前に発生していたと考えられるのです。
また、このケースでは、すでに家屋は相続開始の10日前に焼失してしまっているのですから、相続財産にはなりえないといえます。
いかがでしょうか。相続人が同じように火災保険を受け取っても、亡くなられた状況によって、相続税の課税財産は全く違うものになります。
また、一口に火災保険といっても、建物保険金だけではなく、家財保険金や取壊料保険金、死亡保険金などが含まれる契約になっていることもあります。その場合は、その保険金が支払われた内容の1つ1つを分別して判断する必要があるのです。
平穏な毎日が何物にも代えがたいのはいうまでもありません。
とはいえ、備えあれば憂いなし。
防災グッズの点検、ハザードマップのチェック等々、取り組んでいかなくてはと決意する今日この頃です。