相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
「CRS」って何?それは、外国税務当局との国際的な情報交換をする制度の一つ
先月10月号の法定調書のコラムのなかで「国外財産調書」に触れました。「国外財産調書」の提出内容の確認なんてできるの?と思った方もおられるのではないでしょうか。
今月は、国際つながりということで、国税庁が取り組んでいるもう一つの資料についてのお話です。
その名も「CRS」=Common Reporting Standard 。日本語では、共通報告基準。100を超える国や地域が参加しています。
「CRS」は、外国の金融機関にある口座等を利用した国際的な脱税や租税回避を防止するため、経済協力開発機構(OECD)が策定した基準で、金融口座情報を自動交換する制度です。
日本では、既に平成30年からCRSに基づいた情報交換がスタートしています。要は、日本に住んでいる人の外国にある金融口座情報が国税庁に送られているのです。
グラフのとおり、初年度の平成30事務年度から令和3事務年度(令和3年7月から令和4年6月の期間)までに、資料数、国(地域含む)が増えていることが良く分かります。
「どんなことが書いてある資料なの?」これも、気になります。
主な情報は、①住所や名前 ②金融機関の名称 ③口座番号 ④口座残高など
加えて預金口座の利息の情報や、金融資産管理口座(例えば有価証券を運用する口座など)であれば、利息・配当等の情報、金融商品の償還や売却による収益の情報なども提供されます。
CRS資料は、国税庁から各々の管轄税務署に配付され活用されています。
また、同様に国税庁は、日本国内の金融機関から報告された非居住者(個人・法人等)の情報を、その非居住者の居住する国の税務当局に対して資料提供をしています。日本からも外国に対して情報を渡しているのです。
調査の際に、その資料の財産の申告漏れを指摘されるのはもちろんの事、法定調書と同様にいろいろな切り口からアプローチされます。相続税だけではなく、所得税、法人税、場合によっては滞納税額の差押えや取立てなどにも活用されています。
そして、思い出してください。先月登場した「国外送金等調書」や「国外財産調書」などと併せて検討することもできるというわけです。
「資料はあるのに、シンガポールの財産が調書に記載されていないぞ。調査して確認しなくては。」という具合です。
その意味でも、「国外財産調書」は忘れずに提出しておきましょう。(ペナルティもありますし…)
ただでさえ国外にある財産の把握や評価は、取引しているご本人でも困難なことがあります。相続人にとってはなおさらです。
けれど、「良く分からないし、面倒。」とか、「どうせバレない。」という考えは(たとえ一瞬心をよぎっても)捨ててください。
相続財産の中に海外資産が含まれる場合、国内の金融機関より手続きが煩雑だったり、時差があったりと財産の確認にも時間がかかることもしばしばです。ここは、腹をくくって速やかに取り組むことが大切です。困難な時は、専門家に相談してください。
相続税の申告期限である「相続開始後の10ケ月」は思っているよりも、あっという間にやって来てしまうものです。