2024年路線価の動向と不動産マーケットの現状
3年連続で地価が上昇するも、二極化が進む
国税庁が発表した2024年の路線価によると、標準宅地の変動率は全国平均で前年比プラス2.3%と3年連続の上昇となり、上昇幅は前年の1.5%から0.8%拡大しました。
路線価は道路に面する一連の宅地の地価を算出するため、道路ごとに土地1㎡当たりの価格を国税庁が定めるものです。毎年1月1日時点で調査される公示地価を基準としており、相続税や贈与税を算定する際の基準とされています。
都道府県別の平均値で最も上昇率が高かったのは福岡県で、上昇率は5.8%と前年より1.3%拡大しました。前年1位だった北海道は上昇率が1.6%縮小し、5.2%で4位となっています。全国では前年より4県増えて29都道府県が上昇しています。
今年の路線価の動向について、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「アフターコロナとなり、ヒト・モノ・カネの集まるところは地価が上昇し、集まりにくいところは下落するという二極化がより顕著になった印象です。上昇しているのは都市中心部の駅前など再開発が進んでいるところのほか、半導体工場が進出しているエリアにも勢いが見られます。北海道の千歳市ではラピダスが工場を建設しており、熊本県の菊陽町でも世界的な半導体メーカーであるTSMCの進出で地価が20%以上上昇しました。もともと地価が低かったエリアに世界的な投資マネーが集まり、急激に上昇した形です」
出社回帰で都心寄りエリアの地価上昇が顕著
首都圏では東京都の平均上昇率が全国3位の5.3%となり、1都3県とも上昇幅が拡大しています。
都道府県庁所在地の最高路線価で39年連続の全国トップとなった東京都中央区の銀座中央通り(鳩居堂前)は前年比プラス3.8%と、2年連続で上昇しました。さいたま市の大宮駅西口駅前ロータリー(11.4%)と千葉市の千葉駅東口駅前広場(14.9%)は二桁の上昇率となっています。
「コロナ禍で郊外の住宅地にニーズがシフトしましたが、最近では多くの企業が出社にシフトしていることもあり、通勤利便性の高い都心寄りのエリアへの回帰が見られます。東京都心部ではマンション価格が高騰しているため、千葉や埼玉の23区に近いエリアで、沿線開発などで将来性に期待できる駅の周辺は特に地価上昇の動きが顕著です」(髙橋さん)
大阪市中心部は交通インフラ整備に期待がかかる
近畿圏では大阪府の上昇率が3.1%、京都府が2.4%と、いずれも3年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。兵庫県は1.2%の上昇と2年連続で上昇し、こちらも上昇率が拡大しています。
都道府県庁所在地の最高路線価では、大阪市の御堂筋(5.4%)、京都市の四条通(7.9%)、神戸市の三宮センター街(6.4%)がいずれも上昇し、上昇率が前年から拡大しました。
「大阪や京都ではインバウンド(訪日外国人)が回復し、商業地を中心にニーズが高まっています。特に大阪は梅田駅周辺で再開発が進んでおり、二桁の億ションも登場。2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)のあとも、なにわ筋線の開業など交通インフラの整備やカジノ構想などが控え、地価が上昇しやすい状況です」(髙橋さん)
名古屋市の上昇は一服。福岡市は人口増加で上昇続く
愛知県の平均変動率はプラス3.2%と、上昇幅が前年より0.6%拡大しました。一方で名古屋市の最高路線価である名駅通りの上昇率は0.6%と、前年より2.0%縮小しています。「リニア中央新幹線の開業にメドが立っていないこともあり、名駅周辺の再開発による地価の上昇はやや落ち着いている状況です。一方で三河エリアなどは自動車産業の業績が堅調なこともあり、住宅地のニーズが高まっています」(髙橋さん)
福岡県の平均変動率は5.8%の上昇と、前年より上昇幅が1.3%拡大して全国1位でした。最高路線価の渡辺通りもプラス4.4%となり、前年より1.7%高い上昇率です。
「福岡市では『天神ビッグバン』や『博多コネクティッド』など再開発が進展し、今後もしばらくは人口流入が続くと予測されるため、お金とヒトが集まり、さらに開発が進むという好循環が続いています。地理的に東アジアのハブ的な位置付けにもなっており、国内外からの投資が活発化している状況です」(髙橋さん)
都心へのマネー流入が続く一方で、周辺では価格高騰の影響も
低金利を背景に住宅需要が堅調に推移し、アフターコロナでオフィス需要やインバウンドが回復していることから、都市部を中心に住宅地・商業地とも地価の上昇傾向が続いています。長く続いた円安により海外からの投資マネーが都心部などの不動産市場に集まっていることも、地価を押し上げる要因となっているようです。ただ、マンション市場ではこのところの物件価格高騰の影響が出始めていると、髙橋さんは次のように指摘しています。
「建築コストの高騰や地価上昇で新築マンションの価格は上昇傾向が続いていますが、中古物件は都心周辺エリアなどで売り出し価格が購入層の予算をオーバーして反響が鈍るケースが増えています。一方、日米の金融政策の違いからこのところ円安が是正される場面も見られますが、両国の金利差が急速に縮まるわけではなく、円高が急速に進む可能性は低いでしょう。そのため円安を背景とした都心不動産への海外マネーの流入は続くとみられ、都心と周辺エリアとで地価の二極化が進むことが考えられます」
日本では日銀の利上げにより住宅ローン金利が上昇し始めていることも、堅調だったマンション需要に影響しつつあるようです。今後の日米の金融政策や為替の動きにも注意しておく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)