2010年の公示地価から今後の市況を読む
全国的に2年連続で公示地価が下落三大都市圏や商業地で大きくダウン
国土交通省から発表された2010年の公示地価により、地価の下落傾向が全国的に続いていることが明らかになりました。公示地価とは、全国の不動産鑑定士が標準的な土地(標準地)の1月1日時点の地価を毎年調べ、同省が取りまとめて発表しているものです。今回は全国で2万8000地点弱の標準地を対象としています。
発表によると、前回(2009年公示地価)と同様、ほぼすべての地点で地価が年間を通して下落となりました。年間の平均変動率で見ると、軒並み前回よりも下落率が大きくなっているのが特徴的です。また下落率は三大都市圏のほうが地方圏よりも、商業地のほうが住宅地よりも大きくなっています。(図表1・2)
三大都市圏の公示地価は1990年代以降の下落期をへて商業地は2006年に、住宅地は2007年に上昇に転じました。公示地価は発表の前年1年間の地価の動きを表しているので、商業地は2005年から、住宅地は2006年から上昇に転じたことになります。しかしその後の米国発のサブプライムローン問題やリーマン・ショックをきっかけに不動産市場が冷え込んでしまい、2009年から公示地価が2年連続で下落したわけです。
地価上昇の反動が目立つ東京圏2009年後半は沈静化に向かう
では各地域における公示地価の動向について、少し詳しく見ていきましょう。まず東京圏ですが、住宅地は2009年のマイナス4.4%から2010年は同4.9%に、商業地は同6.1%から同7.3%に、いずれも下落幅が拡大しています。さらに細かく見ていくと、多くの地域が下落幅を広げているなか、東京都と川崎市は縮小しました。どちらも2009年は公示地価が大きく下落しましたが、2010年は下落の勢いが鈍化した地域です。
また、商業地も東京圏全体では下落幅が6.1%から7.3%に拡大していますが、東京都区部南西部や川崎市など一部の地域では縮小に転じています。こうした公示地価の動きについて、東京カンテイ市場調査部の中山登志朗氏は次のように分析しています。(図表3)
「2006年から2007年にかけての“ミニバブル”ともいわれる地価上昇の反動もあり、2008年~2009年は公示地価が各地で急速に下落しました。例えば千葉県浦安市の住宅地は海側のエリアを中心に人気が高いため地価の上昇も大きく、その反動で2010年は10%を超える下落率となっています。商業地では東京都港区の新橋エリアなどで不動産ファンドが中小規模のオフィスや商業ビルを多く購入しましたが、その後の市況悪化でファンドが撤退して放置された物件も多く、地価下落も2ケタの数値となっています。ただ、こうした急激な地価下落の動きも2009年の後半に入ると沈静化しつつあり、今後は大きな下落は想定しにくいでしょう。とはいえ、東京圏の住宅地地価はミニバブル前の2006年の水準から比べるとまだ1割前後高くなっており、今後もゆるやかな下落が続くと予測しています」
実際、国土交通省による短期の地価動向調査によると、2009年は前半よりも後半のほうが下落幅が小さくなる傾向が各地で見られます。7月1日時点の都道府県地価調査(基準地価)との共通地点を活用した分析によると、東京圏の住宅地では前半の変動率がマイナス3.2%だったのに対し、後半は2.0%に縮小しました。商業地も同様に、前半のマイナス4.5%から後半は同3.0%に鈍化しています。こうした傾向は大阪圏や名古屋圏など大都市圏では共通の動きとなっています。
大阪圏では景気低迷が地価に反映今後の動向も需要の強さ次第に
大阪圏の公示地価の動きを見ると、全体としては住宅地が2009年のマイナス2.0%から2010年は同4.8%に、商業地が同じくマイナス3.3%から同7.4%に、それぞれ下落幅が拡大しています。下落幅が比較的大きなエリアとしては、住宅地では大阪市中心6区や東大阪がいずれも6%前後のマイナスです。商業地でもやはり大阪市中心6区がマイナス13・8%と、下落幅が目立っています。
「東大阪では京阪線沿線など中小企業の工場などが多いエリアの地価が下がっており、景気低迷の影響が反映した形です。大阪市中心部はミニバブル期にファンドによる物件購入が過熱したため、その反動で需給バランスが今も改善していません。ただ、その他のエリアでは2006年以降も公示地価がほとんど上昇しておらず、反動による地価下落という動きは限られるようです。2008年以降の地価下落ですでに2006年の水準を下回るエリアも増えており、地価は調整済みとみてよいでしょう。今後の動きは住宅購入者による需要がどの程度出てくるかにかかっており、景気次第といえそうです」と、中山氏は今後について予測してくれました。(図表4)
名古屋圏・福岡市は中心部を除き住宅地の地価下落は緩やかに推移
名古屋圏もおおむね地価下落が続いていますが、下落幅は比較的小さなものとなっています。商業地は下落幅が5.9%から6.1%にやや広がっていますが、住宅地は2.8%から2.5%に縮小しました。今回の公示地価では全国で7地点だけ地価が上昇しましたが、そのうち5地点は名古屋市緑区の標準地となっているなど、エリアによっては地価が下げ止まる動きも見られます。
「自動車業界の低迷で名古屋市の商業地などの地価が大きく下がりましたが、減税効果もあって業績が回復するにつれて地価の下落率も縮小しつつあります。その他の地域は下落幅の大きな地点でも1ケタ止まりなので、やや弱含みの横ばいといった程度で安定しているといえます。一宮市や豊明市、瀬戸市なども名古屋圏の中では住宅地の下落率が大きいのですが、それもマイナス4%前後です。相場観がハッキリしており、売買はしやすい状況といえるでしょう」(中山氏)
このほか九州・沖縄地方の変動率は住宅地がマイナス3.4%、商業地が同5.3%でした。これは地方圏全体の変動率(住宅地がマイナス3.8%、商業地が同5.3%)とほぼ同水準です。福岡市の商業地がマイナス10・1%とやや大きな下落幅でしたが、それ以外のエリアは3~7%前後の下落となっています。(図表5・6)
「ここ数年の価格の動きは比較的緩やかで、福岡市では住宅地の平均坪単価が40万円前後で推移しています。中心部の商業地ではファンドによる売買の動きも見られましたが、ごく一部なので全体の地価動向に影響を与えるほどではありません」(中山氏)
今回の公示地価は住宅地・商業地とも全国的に2年連続の下落となったものの、2009年は後半になるほどマイナス幅が縮小するエリアが目立つなど、地価下落の動きは沈静化に向かいつつあるようです。
「今後も地価や不動産価格は緩やかな下落が続くと予測されますが、大きなマイナスは想定しにくい状況です。ただ、マンションに関しては新築物件の供給が絞られる傾向にあり、価格はなかなか下がらないでしょう。今後は中古物件も含め、幅広い選択肢の中から購入物件を選ぶのが賢明といえそうです」 と、中山氏は指摘しています。今後の価格動向は景気の先行きに左右されると見られますが、エリアによってはすでに底値に近づきつつあると見てよさそうです。マンションなど居住用不動産の購入を検討するのに適した時期といえるかもしれません。 (データ提供:東京カンテイ)