2024年基準地価から見通す不動産市場の動向
住宅地、商業地とも全国平均が3年連続の上昇
国土交通省が発表した2024年7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)から、不動産マーケットの状況を考察してみましょう。
全国平均を見ると、住宅地が前年比プラス0.9%と3年連続で上昇し、上昇幅が0.2ポイント拡大しました。商業地はプラス2.4%とこちらも3年連続の上昇となり、上昇幅は0.9ポイントの拡大となっています。三大都市圏は住宅地がプラス3.0%で3年連続の上昇、商業地がプラス6.2%で12年連続の上昇となり、上昇幅はいずれも拡大しました。
一方、地方圏は住宅地がプラス0.1%、商業地がプラス0.9%で、ともに2年連続の上昇でしたが、住宅地の上昇幅は前年と同水準です。また地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は住宅地がプラス5.6%、商業地がプラス8.7%と高い上昇率となっていますが、上昇幅はいずれも前年より縮小しています。
全国の地価動向について、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「2024年は円安に伴いインバウンド(訪日外国人)需要の回復が鮮明となり、商業地を中心に地価が大きく上昇した地点が目立ちました。ただ、半年ごとの地価の推移を見ると、名古屋圏のほか、地方圏や地方4市の住宅地のように後半にかけて上昇率が縮小しているエリアも見られます。インバウンド需要の恩恵を受けにくい地方や、都市部でも再開発の動きが一服した地域などでは地価上昇の勢いが鈍化しているようです」
東京都心部では住宅地が9%台、商業地が11%台の上昇
東京圏は住宅地の上昇幅が前年より1.0ポイント拡大し、プラス3.6%でした。なかでも上昇幅の大きかった東京都の区部都心部はプラス9.2%と、前年より4.2ポイント拡大しています。その他の地域もおおむね上昇幅が拡大しており、千葉県はプラス4.6%と都県別では東京都(プラス4.7%)に次いで高い上昇率です。
商業地も東京圏全体でプラス7.0%と、上昇幅が前年比2.7ポイント拡大しました。東京都の区部都心部ではプラス11.0%と2ケタの上昇となっています。
「東京都心部はインバウンド需要の高まりでマンション用地がホテルや商業施設と競合し、地価の上昇度合いが強まっています。周辺では府中市や調布市、市川市や船橋市といった都心への利便性の良いエリアも高い上昇率です。また、柏市や流山市など、行政が子育て支援に力を入れている地域はファミリー層など実需が高まっており、流山市では住宅地が10%を超える上昇となっています」(髙橋さん)
インバウンドの回復により大阪市や京都市で高い上昇
大阪圏の住宅地はプラス1.7%と、上昇幅が前年より0.6ポイント拡大しました。大阪市中心6区はプラス6.6%、神戸市東部4区は同4.1%と、高い上昇率となっています。京都市中心5区はプラス2.9%と、前年より上昇幅が0.8ポイント拡大しました。
商業地は大阪圏全体でプラス6.0%と、上昇幅が2.4ポイント拡大しています。なかでも大阪市中心6区はプラス13.7%と2ケタ上昇し、大阪市全体でも10.6%上昇しました。
「インバウンド需要が復活したことで、大阪市や京都市の中心部では上昇率が高まっており、2ケタ上昇の行政区が目立ちます。特に大阪市中心部ではタワーマンションの建設が活発なことに加え、商業施設や万博関連の開発が進んでいることが地価を押し上げています。住宅地では実需層でも手が届きやすく、大阪中心部へのアクセスが便利な北摂エリアの需要が強く、守口市では5%を超える上昇率です」(髙橋さん)
名古屋市は年後半に上昇が鈍化。福岡市中心部は2ケタ上昇
名古屋圏は住宅地がプラス2.5%と上昇率が前年より0.3ポイント拡大し、名古屋市の上昇率は0.4ポイント拡大して4.3%でした。商業地もプラス3.8%と上昇幅が0.4ポイント拡大し、名古屋市の上昇率は5.8%と前年に続いて5%台の上昇率となっています。
「名古屋市は年間では上昇率が拡大していますが、半年ごとの推移を見ると名古屋圏では住宅地・商業地とも上昇率が縮小しています。名古屋駅周辺の開発が一服し、地価上昇の勢いがやや鈍化しているようです。今後、リニア中央新幹線の開業時期が明らかになれば、再び地価上昇の勢いが回復する可能性もあるでしょう」(髙橋さん)
福岡市は住宅地がプラス9.5%、商業地が同13.2%と、いずれも前年より上昇幅が拡大しました。なかでも博多区と中央区は住宅地・商業地とも2ケタの上昇となっています。商業地では早良区や城南区、筑紫野市や大野城市なども2ケタの上昇です。
「福岡市は人口が増加傾向にあり、交通インフラの整備や再開発が進んでいることも地価上昇につながっています。インバウンドの復活で観光拠点としてのニーズも高まっているようです。中心部ではマンション価格が高騰しており、居住ニーズの波及で周辺にも地価上昇が広がる動きが続いています」(髙橋さん)
東京や大阪、京都などではインバウンドの回復で商業施設やホテルの用地需要が強まり、マンション用地との競合で地価の上昇傾向が強まっています。また、東京都心では円安により海外からの不動産投資が活発になっていることも、地価高騰に拍車をかけているようです。2025年もこうした流れは続くものの、変化の兆しも見られると髙橋さんは指摘しています。
「日銀が利上げに転じたことで円安が修正されるとの見方もありましたが、日米の金利差はなかなか縮まらず、円安基調による東京都心の不動産への投資の動きは堅調です。一方で近郊エリアなどではマンション価格の高騰に実需が追いつかず、地価が鈍化する動きも見られます。今後、住宅ローン金利の上昇で実需が弱まると、地価が頭打ちになるエリアが広がる可能性もあるでしょう」
“金利のある世界”の復活が地価にどのように影響するのか。2025年の地価や不動産価格の動向に注目していく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)