2023年路線価から見通す不動産市場の現状と今後
コロナ禍からの回復により2年連続で地価が上昇
国税庁から発表された2023年の路線価によると、標準宅地の変動率は全国平均で前年比プラス1.5%と2年連続で上昇し、前年(同0.5%)より上昇幅が1%拡大しました。
路線価とは道路に面する一連の宅地の地価を求めるため、道路ごとに土地1㎡当たりの価格を定めるものです。相続税や贈与税の算定基準となるもので、毎年1月1日時点で調査される公示地価を基準としています。
都道府県別の平均値で上昇率が最も高かったのは前年に続き北海道で、上昇率は6.8%と前年より2.8%拡大しました。次いで福岡県が4.5%上昇しています。全国では前年より5県多い25の都道府県が上昇しました。
今年の路線価の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは以下のように分析しています。
「コロナ禍の影響で一時は人口の流出が見られた東京都心部にも人が戻ってきており、住宅需要の高まりが地価に反映しています。商業地でも国内旅行客の増加で観光地を中心に地価が回復しているようです。また再開発に加えて交通インフラの整備が進んでいる地方中核都市では、人口の流入が増えて地価の上昇傾向が強まっています。札幌市や福岡市では住宅需要が周辺エリアに広がり、地価上昇の動きも拡大しつつあります」
インバウンドの回復で都心の商業地も上昇に転じる
首都圏では東京都の上昇率が3.2%と前年より2.1%拡大するなど、1都3県とも上昇幅が拡大しました。
都道府県庁所在地の最高路線価では東京都中央区の銀座中央通り(鳩居堂前)が38年連続で全国トップとなり、前年比プラス1.1%と3年ぶりの上昇に転じました。さいたま市の大宮駅西口駅前ロータリーは8.0%の高い上昇率となっています。
「昨年は住宅地の上昇が地価を牽引しましたが、今年は商業地、特に物販系や観光系のエリアが大きく回復しています。昨年の秋以降はインバウンド(訪日外国人)向けの水際対策が緩和され、昨今の円安も追い風となって、銀座などの商業地で地価上昇の動きが強まっているようです。一方でコロナ禍の収束に伴う出社率の回復で住宅需要が都心に回帰しつつあるため、郊外では住宅価格の上昇に鈍化の兆しも見られます」(髙橋さん)
京都・大阪・神戸とも上昇。万博によるポテンシャル向上に期待
近畿圏では大阪府の上昇率が1.4%、京都府が同じく1.3%と、ともに2年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。また、兵庫県はプラス0.5%と、昨年の下落から上昇に転じています。
都道府県庁所在地の最高路線価では、大阪市の御堂筋(阪急うめだ本店前)、京都市の四条通、神戸市の三宮センター街がいずれも前年比で上昇しました。大阪市と神戸市は前年の下落から上昇に転じています。
「国内観光需要の回復で地価が上昇に転じた京都市にやや遅れて、大阪市や神戸市も地価が底打ちした印象です。大阪市は2025年国際博覧会(大阪・関西万博)を控えていることもあり、今後もインバウンドの回復による地価上昇が見込まれます。万博は単発のイベントとしてだけでなく、交通インフラの整備や跡地の活用など継続的なポテンシャルの向上が期待できるでしょう」(髙橋さん)
再開発が活発な名古屋市、福岡市とも上昇幅が拡大
愛知県の平均変動率はプラス2.6%と、前年より上昇幅が1.4%拡大しました。最高路線価である名古屋市の名駅通りも2.6%の上昇と、前年より上昇幅が1.3%拡大しています。
「名駅周辺から栄にかけては商業施設やオフィスビルの建て替えが進んでおり、地価の上昇傾向が強まっています。三河地域などでも好調な自動車産業が地域経済を牽引していますが、住宅需要が一戸建てに向かいやすいため、マンション開発が活発なエリアに比べると地価の上昇は限定的です」(髙橋さん)
福岡県の平均変動率は4.5%の上昇と、上昇幅が前年より0.9%拡大しました。最高路線価の渡辺通りはプラス2.7%となり、横ばいだった前年から上昇に転じています。
「『天神ビッグバン』など再開発の進展で人口の流入が増加傾向にある福岡市では地価が高騰気味となっており、住宅ニーズが周辺エリアに波及しています。今後はアジア方面からのインバウンド需要の回復も見込まれるため、商業地・住宅地とも引き続き地価の上昇が見込まれます」(髙橋さん)
円安で海外マネーが都心に流入。国内の住宅需要は一部で鈍化の兆しも
住宅需要が堅調に推移していることから住宅地の地価上昇が続いており、インバウンドやオフィス需要の回復期待から商業地でも地価が上昇に転じる動きが広がっています。ただ、昨今の物価上昇や円安の影響などから、不動産市場に変化の兆しも見られると、髙橋さんは次のように話してくれました。
「このところの円安で東京の不動産価格が世界の主要都市に比べ相対的に割安になり、海外から都心部へ投資マネーが流入しています。一方で郊外では中古マンション価格の上昇に鈍化の動きも見られます。在宅勤務から出社への回帰で利便性を重視する傾向が強まったことに加え、物価上昇による実質賃金の低下や物件価格の高騰で住宅購入意欲に陰りが見られることも要因でしょう。今後も東京都心では再開発が進み、海外からのマネー流入も続くと見られることから、東京23区の中でも都心6区とそれ以外とで二極化が強まる可能性があります」
円安の要因となっている日銀による金融緩和は今のところ継続の見通しですが、物価動向によっては修正の観測も強まることが考えられます。今後は国内外の金融政策や物価の動きにも注意が必要になりそうです。
(データ提供:東京カンテイ)