マンション市場の供給・価格動向と2024年の見通し
首都圏1都3県とも新築供給が2ケタの減少
まず2023年のマンション市場について、エリア別に東京カンテイのデータを基に振り返りましょう。首都圏では年間の新築マンション供給戸数が前年比19.1%減の3万5247戸と、3年ぶりに4万戸を下回りました。都県別では前年に大幅増となった埼玉県が反動で同38.6%減となるなど、1都3県はいずれも2ケタの減少です。平均坪単価は埼玉県が前年比で5.0%低下した以外は上昇しており、特に東京都は同33.5%の大幅アップとなりました。
一方、中古マンションの流通事例数は前年比23.8%増加しており、直近10年間で最も多い件数です。平均坪単価も上昇しており、特に千葉県は同7.4%と最も高い上昇率でした。
首都圏マンション市場の動向について、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように分析しています。
「新築マンションは価格高騰が続いており、それに伴って供給の調整も続く状況となっています。都心部では坪単価が1000万円を超えるような超高額物件の売れ行きが好調ですが、周辺部では価格の上昇に実需層がついてこられなくなりつつあるためです。またデベロッパーが単年度に過剰な利益を出して翌年に減益となることを防ぐため、販売を抑制するという供給側の事情も影響しているのでしょう。一方、中古マンションの価格も上昇が続いてきましたが、千代田区・港区・渋谷区の都心3区以外では反響が鈍って在庫が増加してきており、直近では価格が弱含む動きも見られます」
近畿圏は2府1県とも新築供給が2年連続で減少
近畿圏では2府1県の新築マンション年間供給戸数がいずれも2年連続で減少し、合計では前年比マイナス16.7%の減少となりました。大阪府と兵庫県はともに2ケタの減少でしたが、京都府は同マイナス5.8%の減少にとどまっています。平均坪単価はいずれも上昇していますが、大阪府では同0.2%の上昇とほぼ横ばいでした。
中古マンションの流通事例数は2府1県とも増加しており、合計では前年比21.4%増加しました。平均坪単価は上昇傾向が続いており、特に京都府は同6.6%のアップと高めの上昇率になっています。
「新築マンションの価格が上昇し、供給が鈍化している動きは首都圏と共通しています。そんな中でも京都府は国内外の富裕層ニーズが強まっており、年間2000戸前後の供給を維持しました。一方で新型コロナの5類への移行で東京への一極集中が強まったこともあり、大阪では居住ニーズがさほど強まっておらず、供給が絞られている状況です。中古マンションは価格上昇で在庫が増加していますが、価格が大きく下落する状況ではありません」(髙橋さん)
新築供給が愛知県で大幅減、福岡は微減。中古流通はともに増加
愛知県の新築マンション供給戸数は2022年まで3年連続で増加していましたが、2023年は一転して前年比マイナス29.5%と大きく減少し、年間では5105戸でした。平均坪単価は前年にいったん下がりましたが、2023年は同9.6%の上昇となっています。中古マンション流通事例数は同18.6%増加し、平均坪単価は同2.7%上昇しました。
「自動車産業など地域経済が好調なこともあり住宅ニーズは強まっていますが、マンション価格の高騰で需要が一戸建てにシフトする傾向が見られます。リニア中央新幹線の開業時期が見通せず、愛知県全体で人口が減少しているため、デベロッパーも供給を増やしづらい状況でしょう。中古マンションも価格上昇で在庫が増加しており、2023年の後半は平均価格が弱含みになっています」(髙橋さん)
福岡県の新築マンション供給戸数は4931戸と2年連続で減少しましたが、前年比マイナス5.9%と減少幅は限定的です。平均坪単価は同マイナス0.7%の215.3万円とほぼ横ばいでした。一方、中古マンションの流通事例数は同17.5%と2年連続で大幅に増加し、平均坪単価は同0.7%上昇しています。
「福岡県には九州のその他のエリアなどからの若い世代の流入が活発で人口が増加しているため、新築マンションの供給戸数は5000戸前後を維持しています。ただ、海外からの投資ニーズがさほど強くないこともあり、価格相場はやや弱含みです。中古マンションは流通件数が増えていますが、価格の上昇に需要が追いつかず在庫が積み上がっている状況です」(髙橋さん)
東京都心は価格高騰、それ以外は中古相場に弱含みの動きも
2023年はコロナ禍が収束に向かい、人の流れが回復する中で新築マンションのニーズは引き続き堅調に推移しました。建築資材や人件費の高騰を背景に新築価格の上昇が続き、中古マンション価格も上昇傾向となっています。ただ、マーケットの動きを細かく見ていくと、変化の兆しも見えてきていると、髙橋さんは話してくれました。
「新築マンションの価格が高騰し、デベロッパーによる供給の絞り込みが続いている中、これまでは住宅ニーズの受け皿となる中古マンション価格の上昇傾向が続いてきました。東京都心部では引き続き中古相場が上昇していますが、それ以外のエリアでは価格高騰で売れ行きが弱まり、在庫が積み上がって値下げの動きが広がるという二極化の動きも広がっています。日米の金利差に伴う円安傾向から都心の不動産に投資マネーが流入する動きが続いていますが、物価上昇による実質賃金の低下によって実需マーケットでは需要が弱含みとなっており、今後さらに価格調整が進む可能性もあるでしょう」
2024年はウクライナ情勢に加えて中東危機の再燃など、エネルギー価格の上昇につながる地政学リスクが強まっています。日銀が金融緩和の解消時期を探るなか、大統領選を控える米国では利下げのタイミングが不透明さを増しており、マンション市場に影響が大きい経済動向を今後も注視しておく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)
※新築は2023年のデータに限り速報値