2018年の基準地価から見えてくる不動産市場の現状
全国平均の地価が27年ぶりに上昇 三大都市圏と中核四市は上昇続く
国土交通省から発表された2018年の基準地価(都道府県地価調査)によると、全国の林地を除いた全用途の宅地が前年比0.1%上昇し、1991年以来27年ぶりの上昇となりました。住宅地の平均変動率は全国でマイナス0.3%と27年連続の下落でしたが、下落率は前年より0.3%縮小しています。地方圏はマイナス0.8%と下落しましたが、三大都市圏はプラス0.7%と5年連続の上昇。さらに中核四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)はプラス3.9%と6年連続で上昇し、上昇幅も前年より1.1%拡大しています。
一方、商業地は全国平均でプラス1.1%と、2年連続で上昇しました。三大都市圏は6年連続で上昇し、上昇幅は4.2%と前年比で0.7%拡大しています。地方圏は下落が続いていますが、下落幅はわずかに0.1%と前年より0.5%縮小し、ほぼ横ばいといえる状況です。また中核四市は9.2%の大幅な上昇となり、上昇幅は前年比1.3%拡大しました。
全国の地価の動きについて、東京カンテイ市場調査部主任研究員の髙橋雅之さんは次のように話してくれました。
「都市部と地方とで地価が二極化し、さらに各エリアでもヒト・モノ・カネの集まる中心部とそうではない周辺部との二極化が進んでいる状況は基本的に変わりません。ただ、商業地の上昇をけん引するファクターが従来のオフィスニーズから、訪日外国人客を中心としたホテルや商業施設へのニーズに変化しつつあるようです」
東京都心の住宅地は上昇率が鈍化 地価が割安な区部北東部は高い伸び
地域別の動向を見ると、まず東京圏は住宅地の平均変動率がプラス1.0%と上昇幅が前年より0.4%拡大し、5年連続の上昇となりました。特に東京都区部は上昇幅が4.3%と大きく、なかでも都心部がプラス5.1%、区部北東部が4.8%と高い上昇率になっています。多摩地域や周辺3県も上昇していますが、上昇率はいずれも平均で1%未満でした。
東京都は、商業地の平均変動率が6.0%上昇と6年連続で上昇しており、上昇幅は前年より1.0%拡大しています。区部都心部がプラス8.2%、区部北東部が同6.8%など、東京都区部で高い上昇率となっています。また川崎市とさいたま市も上昇率が4%台となっています。
「住宅地はマンション開発が活発な都区部で地価の上昇傾向が強まっています。価格が高騰した都心部では千代田区の上昇率が3年前の10.0%から2.7%に下がるなど上昇が鈍化する動きが見られますが、これまで割安だった荒川区(プラス8.7%)や北区(同7.2%)、文京区(同6.9%)などが大きく上昇しました。特に城東や城北エリアでは、都心へのアクセスのよさが見直され、このところ住宅地の上昇が顕著です。一方で周辺3県ではほぼ横ばいとなっていますが、これはマンションよりも一戸建て開発が活発なエリアで地価の上昇が抑えられているためと考えられます。ただ、京浜東北線や埼京線など首都圏を南北に走る路線の沿線はマンション開発が盛んなため、さいたま市や川崎市では商業地の上昇が高まっています」(高橋さん)
大阪・京都の中心部で高い伸び 訪日客需要が商業・住宅地を押し上げ
大阪圏では住宅地の平均変動率がプラス0.1%と、4年ぶりに上昇しました。特に京都市中心部では上昇率が3%を超え、大阪市中心部や神戸市東部4区でも2%を超える上昇となっています。その他のエリアは1%未満の上昇率が目立ち、奈良県のようにマイナスのところもあります。
これに対し、商業地は大阪圏平均で5.4%上昇しており、前年から上昇率がさらに0.9%アップしました。特に京都市中心部で16.6%と高い上昇率となったほか、大阪市中心部でも13%台の高い上昇率です。神戸市東部4区は8.5%の上昇でしたが、前年比では2.4%の拡大となっています。
「LCC(ローコストキャリア)を使って関西国際空港から入国し、大阪や京都を回遊する訪日客が増え、商業施設やホテルのニーズが商業地の地価を押し上げています。またゲストハウスや民泊施設などのニーズも活発で、京都市などの住宅地でも地価上昇が続いている状態です。ただ神戸市は訪日客がさほど多くなく、地価が伸び悩んでいますが、大阪寄りのエリアでは通勤利便性の高さが人気となってマンション開発が活発化しており、住宅地の地価上昇につながっているようです」(高橋さん)
名古屋市では地域産業の需要で、福岡市では将来性への期待で地価上昇
名古屋圏は住宅地の平均変動率がプラス0.8%、商業地がプラス3.3%と、ともに上昇率が前年より伸びています。特に名古屋市は住宅地がプラス1.6%で前年比0.2%拡大、商業地がプラス6.5%で前年比1.2%拡大と、上昇率がアップしました。
「自動車を中心とした地域産業の業績が堅調なことが、住宅需要を下支えし、住宅地の地価に影響しています。また2027年度予定のリニア中央新幹線開業を見越して名古屋駅周辺でオフィスビルやマンションの開発が活発化しており、商業地の地価上昇傾向が続いている状況です」(高橋さん)
一方、福岡市では住宅地がプラス4.4%、商業地がプラス11.1%と、ともに前年比で上昇率が1%以上アップしています。なかでも中央区や博多区に加え、住宅地では南区が、商業地では東区が、高い上昇となっています。
「2020年に予定されている地下鉄七隈線の延伸や、天神で進められているビルの建て替えなどで将来性への期待が高まり、中心部では住宅地・商業地とも上昇傾向が強まっています」(高橋さん)
東京圏では中心部の住宅地地価の上昇が鈍化する動きが見えますが、上昇自体は続いています。ただし2019年には消費税率10%への引き上げが予定されており、駆け込み需要や反動減が地価にどの程度影響するか、今後の動きには注意しておきたいところです。
(データ提供:東京カンテイ)